劇場公開日 2021年10月29日

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「人間性を失った獣の集団」モーリタニアン 黒塗りの記録 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人間性を失った獣の集団

2023年12月1日
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鑑賞方法:VOD

前半は少々平坦な感じだが徐々に盛り上がって映画として面白い作品だった。もちろん内容もいい。

タハール・ラヒム演じるスラヒ、ベネディクト・カンバーバッチ演じる中佐、ジョディー・フォスター演じる弁護士、この三人は副題にもなっている「黒塗り」に抵抗した人物たちで、彼らの視点で物語を紡ぐ場合、どうしても変化がなくなる。彼らは状況を動かせる立場にいないからだ。
つまり、ストーリーの部分はどんなことが起こっているのかしか語られず、どうしてもドラマチックな展開を生みにくい。ストーリーがよく分からないというレビューの方もいるが、そりゃそうなのだ。そんなものは見せてもらえていない。

それでも演出によって面白さを生み出した手腕は中々のものだと思う。
スラヒが手記の中で語ったことのシーンでは画面の両端が切れ、昔のこと、過去回想であり、切られた両端の黒い帯は、手記の内容の一部が黒く塗られたことを暗示しているようでもある。
そしてなにより、中佐と弁護士が機密に触れ、交錯するようにスラヒの回想になる後半のカットバックは嫌でも興奮してしまう名演出だった。
こんなカットバック、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト ライジング」以来だ。

最後に内容について。
ラストのテキストで、収容者が七百何名、うち起訴されたのは8名と出る。
それだけ、何の証拠もないのに拘束されていた人がいたという事実におののく。
幾人かの人物が、証拠などないのに証拠はあると言い張る姿は実に恐ろしい。誰かを罰しなければならない。その誰かは誰でもいいと言わんばかりだ。もうただ、自分のやるせない気持ちを鎮めるためだけに生贄を求めている。

ナチス政権下の秘密警察のように、怪しいから逮捕、何となく逮捕、とりあえず逮捕、そんなアメリカは自分のことしか考えない人間性を失った獣の集団に見える。
特に理由なくすぐに拘束しちゃう中国なんかは一応、一応、一応自国民なわけで、他所の国の人を勝手に拘束してしまうアメリカはもっとヤバいように思える。

あまりに都合が悪くてアメリカ単独では作れなかったのか本作はイギリスBBCと共同制作の映画だ。
多分きっとアメリカの保守からものすごいクレームきちゃうんだろうな。

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つとみ