「社会派作品だが非常に観やすい良作」モーリタニアン 黒塗りの記録 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
社会派作品だが非常に観やすい良作
予告編観て面白そうだったのと、非常に評価が高かったので鑑賞しました。ストーリーに関する事前知識はほとんどありません。
結論ですが、予告編で感じた社会派で難しそうなイメージとは裏腹に、意外にも難解なシーンなどは少なく、しっかり内容が嚙み砕かれた分かりやすい内容になっていたと思います。だからといって内容が薄くなっているわけではなく、しっかり密度が濃くて見どころも多い。「ベネディクト・カンバーバッチが敵役を演じる」と公開前のニュースになっているのを観ましたが、あんまり「敵」って感じじゃなかったですね。鑑賞前はジョディ・フォスターとベネディクト・カンバーバッチの戦いになるかと思っていましたが、実際はジョディ&ベネディクト VS アメリカ政府やCIA っていう構図でしたね。「『フォードVSフェラーリ』なのにフェラーリが敵じゃないじゃん」ってのと同じ印象。
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モーリタニア出身のモハメドゥ(タハール・ラヒム)は、アメリカ同時多発テロのリクルーターの容疑をかけられて拘束されてしまう。証拠が何一つない状態で起訴をされることもなく、拷問と虐待が横行する過酷な環境であるキューバのグアンタナモ収容所に収容されていた。この拘束を不当であるとするアメリカの人権派弁護士のナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)とテリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー)が彼の弁護人として調査に乗り出す。時を同じくして軍の弁護士であるスチュアート・カウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)は、上層部からの指示でモハメドゥを死刑にするための起訴の準備を始めるのだった。
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アメリカってテロに対する憎しみや警戒心が日本人とは比べ物にならないくらいに大きいと思っています。私が最近観た『パトリオット・デイ』っていう映画も2013年に実際に発生した爆破テロをモチーフにした映画でしたけど、テロに対する憎しみの籠った描写がめちゃくちゃ多かったんですよ。だからこそ、史上最悪のテロ事件であるアメリカ同時多発テロに対して「一刻も早く首謀者を特定して電気椅子送りにしてやる」と思ってしまうアメリカ政府やアメリカ国民の心情は理解できますが、ここまで来てしまうと集団ヒステリーというかセイラム魔女裁判というか。ただ、当時は一刻も早く犯人を見つけることこそが正義であって、手段はどうでも良かったんでしょう。同時多発テロから20年が経過し、ビンラディンが死去から10年が経過し、情勢が安定した今になって振り返っているからこそ、「あの時は異常だった」と感じられるんだと思います。
この恐ろしい物語が実話に基づいているというのが驚きです。
映画のラストに実際のモハメドゥやナンシーについて描かれていることで「この話は実話だったんだ」ということが明確になっています。先述の『パトリオット・デイ』も同じような演出していました。色んな方のレビューを見ると『パトリオット・デイ』のラストの当事者へのインタビューシーンは結構不評だったように感じますが、本作のレビューを見る限りはあんまり批判的な人は見受けられませんね。同じようなシーンに見えるんですけど何でここまで評価が違うんだろう。不思議です。
映画的に素晴らしい演出があちこちに見られ、特に最後にテロップで裁判に勝利した後のモハメドゥとナンシーについて淡々と説明される演出は痺れました。裁判に勝って大喜びしているモハメドゥの映像が突然ブラックアウトしたと思ったらテロップで「勝訴後も7年間拘束され続けた」という説明がなされる。私の後ろの席で鑑賞していた女性が「えっ!?」って素で声を出してしまうくらいには唐突かつショッキングな演出ですね。素晴らしかった。
難しい内容ではありますが、かなり分かりやすく描写されている映画ですので、事前知識が無くても内容を理解して楽しむことができる映画だと思いましたね。また、「大きな事件や災害が起こると世論が過激化する」というのは東日本大震災や現在のコロナ情勢で我々日本人も痛感していることですので、まるで自分事のようにこの映画を観ることができました。
多くの人に観てほしい素晴らしい映画です。オススメです!!!