「人間性が壊れる場所」モーリタニアン 黒塗りの記録 Masuzohさんの映画レビュー(感想・評価)
人間性が壊れる場所
【グアンタナモ湾収容キャンプ】
キューバのグアンタナモ湾のグァンタナモ米軍基地に
設置されているアメリカ南方軍の収容キャンプ
2002年にジョージ・W・ブッシュ政権時に設立され
アフガニスタン紛争およびイラク戦争の過程でテロに関与している
と疑われて強制連行ないし逮捕された数多くの人物が収容・監禁され
アメリカ合衆国憲法修正第5条や修正第14条に違反する
違法な拘束であると批判を受けており
キューバ政府は同基地の返還を求めている
同キャンプは現存しており
911からおよそ20年経過したバイデン政権で
閉鎖がやっと検討段階にあるこの時期に
容疑だけで14年もの間拘束された
北西アフリカのイスラム国家である
モーリタニア人の手記を元にした今作
事件自体は軍人による過度の尋問・拷問が
あったという報道自体は当時から知っていましたが
感想としては
大変衝撃的な内容であり
復讐心が正義の名を騙って行われた蛮行という
大変矛盾した有様に驚きを隠せませんでした
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの首謀者
とされたウサマ・ビンラディンとの関係性を疑われ
テロから数月後に故郷モーリタニアで身柄を拘束された
モハメドゥ・ウルド・スラヒ
ヨルダンなどを経てグアンタナモに移送され尋問を
受けますがスラヒは一貫して関与を否定します
スラヒがビンラディンの組織するアルカイダに入隊
していたのは事実でしたが
スラヒは留学先のドイツから故郷から
アフガニスタンの惨状を見てムジャヒディンの
聖戦に立ち上がらなくていいのかという思いから
だったことで全く関係ないと否定し続けます
アルカイダ入隊も20年前の事です
そんな有様をニューメキシコ州アルバカーキの
法律事務所のナンシー・ホランダーは
法的な拘束期間をとっくに過ぎている件に関して
疑問を持ちスラヒの弁護を引き受ける方向で進みます
いっぽう米国政府はスラヒをテロ首謀者として
有罪(処刑)するために軍内でも法関係に長けた
弁護士スチュワート中佐に依頼します
スチュワートも同期が犠牲になった航空機の
パイロットをしておりテロリストへの怒りは
持っていました
ナンシーはまずフェンスというフェンスを
シートで覆った異様な空間のグアンタナモを訪れ
通訳係のテリーと共にスラヒと面会
スラヒはフランス語とドイツ語しか喋れない
との事でしたがすっかり英語を覚えてしまっており
頭脳の優秀さを見せ改めて無実である事と
家族への連絡を頼みますがナンシー側も受け入れ
面会者は内容を記録して持ち帰れないため
収容所で起こっていることを文章で内部から
送ってほしいと伝えました
ところがスラヒは送ってくる文章は
事前に検閲され都合の悪い場所は真っ黒
まずナンシーは開示請求を裁判所に訴える
所から始め資料開示を勝ち取りましたが
見せられた収容所での報告書は
真っ黒に塗りつぶされた報告書ばかりでした
ただその報告書にはスラヒの自白した部分だけが
残っており信じていたテリーは怒り
ナンシーは困惑します
一方のスチュワートは調べてもテロ関与の
証拠が全く足りず作業が難航しているところへ
依頼してきた少将がせかしに来ます
あいつらがやったに決まっているから
証拠なんかなんでもいいという口ぶりに
スチュワートは疑問に感じます
当時は911によってアメリカを攻撃され
テロリストへの怒りや復讐心を持っていた
時期ですが法は法であり真っ当に証拠をそろえ
立件すべきという考えをスチュワートは
持っていたのでした
それが当たり前のはずなんですが・・
スチュワートの方も証拠探しに関して
グアンタナモでの記録に全く触れられず
生の議事録を現地まで行って開示を要求しますが
拒否されてしまいだんだん疑念を感じてきます
ナンシーは本人に会うと明らかに憔悴しており
何があったかを手記として教えてほしいと言って去ります
スチュワートはグアンタナモに勤務しており
議事録の事実を知る同僚に法の正義を盾に詰め寄ると
こっそり教えてくれます
それぞれが同時に知るような描写の中で・・・
米国防長官ドナルド・ラムズフェルドの指示した
「特別尋問」の真実を目の当たりにする事になります
それはもうほぼ拷問といっても間違いない物で
尋問するのは軍人のはずなのに人権・性的・宗教
まるで関係ない暴力的なものだったという記録でした
海沿いの隔絶地グアンタナモに収容した理由は
容疑者だけでなく軍人たちの人間性も壊すため
だったと言っても過言ではなかったわけです
この事実を同時に知るシーンは胸が痛みました
スチュワートは改めて少佐に有罪には出来ないと
言うと裏切り者と吐き捨てられ担当を外されます
ナンシーはその手記を本として出版するべきだと
本人に伝えます
裁判で争うはずだったスチュワートはナンシーと
事前に顔合わせをしていましたが
スチュワートは外される際にナンシーに
スラヒの疑いを晴らすヒントも伝えて去ります
結果スラヒは裁判で勝ち自由の身を手にしますが
結局14年もの間拘束され続けたのです
オバマ政権になってからも7年も
エンディングの後味は想像以上に悪いです
魔女狩りなんか全然笑えません
以前911関係で以前疑問に思うことを
ツイートしたら結構名のあるっぽい人から
犠牲になった人に失礼だと噛みつかれましたが
その人の見識がどうであれそういう
一方的な見識を押しつけてくる人間が
最も事実からも問題点からも
遠ざからせてしまう
そんな人はどんなに偉くても軽蔑されるべき
だと改めて思いました
おすすめしたい映画です
ただシーン的に光点滅がかなり激しいシーンが
あるのは事前に忠告しておくべきだと思いました