「著者など居ない小説(=出会い、運命、奇跡)」鳩の撃退法 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
著者など居ない小説(=出会い、運命、奇跡)
いやはや何とも難しい。
過去、現在、フィクション、ノンフィクションが入り交じりながら展開するストーリーもさることながら、
題材や設定はいい。キャストの巧演も見事。話も面白味がある。
見る者を翻弄し、引き込んでいく語り口。二転三転、どんでん返しのミステリー。
この手のジャンルの醍醐味も充分にあるのだが、何と言うか…。
追々語っていきたい。
小説が題材もしくは小説家が主人公の作品はほとんど、一筋縄では行かないものが多い。
殊にミステリー系やクセある主人公の場合は。
本作もそう。
開幕した時から津田が書くこの物語は、色々と始まっていた…。
地方都市でデリヘル嬢の送迎ドライバーをしている津田。
今はこんなだけど、昔は直木賞受賞経験もある天才小説家。が、暫く新作を書いておらず、ここずっと何かをしくじったような顔。
津田とデリヘル嬢の金の貸し借り。
津田と顔馴染みの古本屋のじいさん。
津田行きつけのコーヒーショップ。深夜そこで一度だけ出会い、会話を交わした若い男…。
これら後々、大なり小なり重要となってくる。
これが小説だったら、これ以上ない“プロローグ”。
…そう、プロローグ。
都内のバーで、執筆中の小説を読んでいる編集者の鳥飼。
著者は、津田。このバーでバーテンダーをしながら、待望の新作を執筆中。それを鳥飼に読ませていた。
主人公の名が自分と同じ津田である事以外、フィクションだと言う津田。
が、その後の展開も…
一家失踪事件。“神隠し”の噂…。
その失踪した一家の若い奥さんの不倫…。
呆気なく逝ってしまった古本屋のじいさん。遺品を受け取る。
その遺品というのが…、えっ!? えっ!? 3000万円?!…と、3万円。
一気に大金持ちへ。新たなスタート!
…ところがどっこい、まさかのニセ札!
しかもそれを少し使ってしまった事から…。
あの人と関わる事となる。“あの人”と…。
これが“フィクション”だったら最高に面白い。一家失踪事件×ニセ札×町のドン絡むサスペンス・ミステリー。
だけどもしこれ、“ノンフィクション”だったら…?
全て津田が見聞きし、体験した事だったら…?
相当ヤバい。
妙に津田の語り口、発想、リアクションがリアル。
フィクションなのか、一部脚色を加えたものなのか。
それとも、全てノンフィクションなのか。
鳥飼は検証を始めていく…。
過去と現在、時系列が複雑に交錯。
さらにそこにフィクションかノンフィクションかまで絡んでくるのだから、見ているこっちはもう大変!
本当に今、この物語の嘘か真実か、何を読まされているのだろう、何を見せられているのだろう…と、こんがらがってくる。
極端に難しく、さっぱり訳分からん!…ってほどではない。ユーモアやエンタメ性もきちんとあり。一度だけではなく、二度見てこその面白味も。
“つがいの鳩”とかタイトル“鳩の撃退法”の意味も、見ていく内に、なるほど…!
終盤は勿論伏線回収され、真実が見えてもくるが、感嘆するようなカタルシスには欠けた。
演出・脚本・編集も見せてくれるものはあるが、鮮やかな巧みさや多少の纏まり不足を感じた。
再三言うけど、面白味あり悪くはなかったんだけど、ちと読みづらかった点も…。
直木賞受賞経験ある天才小説家。
クズ役が十八番となっている藤原竜也が、クセはあるものの久々に真っ当な役!…いえいえ、期待通りのダメ男。
だけどダメっぷりから、小説家ならではの立場での覚悟や戦いを充分滲ませてくれる。
個性的な面々が揃う中、印象に残ったのは次の二人。
“あの人”と恐れられる町を牛耳るボス、倉田役の豊川悦司の凄みと重厚感たっぷりの存在感。
津田がコーヒーショップで出会った若い男・秀吉を演じる風間俊介。最も心揺さぶる役柄。
天才小説家が書く嘘か真実かを見破れるか…?
そんな入りで始まって、真実は、悲しいもの。
ダメ男の人生逆転、一家失踪事件×ニセ札の二転三転ミステリーとしても見ていいが、個人的には、
バッドエンドに終わった“彼”をせめて小説の中だけでもハッピーエンドにさせてあげたい…。
たった一度の出会いと会話。“彼”に捧ぐ。
しみじみとした余韻に浸っていたラスト、驚きの“訪れ”と“再会”。
もはやこれがフィクションかノンフィクションかではなく、これは端から誰が書いた物語なのか?…と言うか感覚にさえ陥った。
まさに鳩に豆鉄砲。
人の出会い、運命、奇跡などに著者など居ない。
だからこそ読みたくなる。