劇場公開日 2021年12月31日

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「2つの作品がある意味がある」明け方の若者たち R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.52つの作品がある意味がある

2024年5月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

毎回何の予備知識もなく映画を見ているので、迂闊にもスピンオフ(ある夜、彼女は明け方を想う)の方から見てしまったが、この作品も等身大で嘘のないいい物語だった。
この作品の大どんでん返しが、彼女からの返信がない理由だ。
しかし同時に、クジラ公園で話したときからそれは彼に伝えられていた。
画像では、外すことのなかった結婚指輪をした左手は抜かれていない。
この作品もまた一人称で作られていて、名前のない主人公の彼の見たことしか描かれていない。
そしてこの作品で描かれている些細な偶然は、スピンオフで明らかになる。
彼ら二人は、すれ違いながらもお互いを思い続けている。
明け方のクジラ公園のベンチに置かれていた2缶のハイボール。携帯を店に忘れたしぐさがあの時の彼女を思い出させ思わず笑ってしまう主人公。
嘘のなかった二人の気持ち。
ただ、「彼女は既婚者で、一度作った幸せを壊してほしくなくて、たまに会ってくれるだけでよくて、浮気も不倫もよくわからなくて、そんなことどうでもよくて、意味わかんなくて、でも誰も許してくれない… 周りにどう思われてもいい…」
夢が壊れてしまう演劇は、二人も、仕事も、ほかの誰かの人生も暗示していた。
何もかもが思い通りにならない人生。
「渋谷をジャックしようぜ」も、
「この機会に、めっちゃいい男になろうぜ」
という言葉も、
どこか嘘っぽいけど、それを信じようとする若さがある。
「彼」は、人生で初めて本気になったのが「彼女」だった。
初めからわかっていながら、どうしようもなくなっていた。
にもかかわらず何もできない。体調不良でしばらく会社を休む以外何もできない。無力感。行き場のない怒り。
彼の頭の中に「魔法みたいな時間だったな」と過去形で呟いた彼女の言葉がこだましていたのかもしれない。そして決して外そうとしなかった結婚指輪。
「これ以上立ち入ってはならない」
それが本当に彼女の気持ちなのか、それとも「常識」を持ち出して自分を規制しているだけなのか? きっと彼は自問自答を繰り返したのだろう。
動けば、誰かが傷ついてしまう。
そして、何もしないという選択。同期たちの結婚、転職… 未だ彼女なんか作れそうにない「彼」
彼の引っ越しの手伝いに来た彼女と同期。朝まで飲み明かす幸せ。思いっきり楽しむ若者たち。自分らしいふるまい。自由で自然で、嘘がなく、そこには「明日」などという果てしなく遠い未知な存在などない「明け方の若者たち」の姿があった。
ただ、彼が振り返ってみれば、その時も、旅行の時も、クジラ公園のときも、いつももしかしたら「彼女」は、きっとその日がやってくるという「明け方」が来ないでほしいと思っていたのかもしれない。
来てほしくない現実。
彼は明け方のクジラ公園に佇み、いつも彼女はそんな明け方が来ないことをひたすら願っていたのではないかと気づいたのだろう。
どうにもできないこともある。この作品が伝えている人間模様のひとつだ。それを押し殺しながら生きて、やがてぽつんと彼女の考えていたことに気づく。苦しみの片方は彼女が背負っていたのだ。
そう思えたとき、彼にはクジラ公園での明け方がすがすがしく感じられたのだろう。
本当にいい作品だった。

R41
しろくろぱんださんのコメント
2024年5月26日

共感ありがとうございます。
この作品は主人公の女性に全く共感することができませんでした。
スピンオフも見てますが彼女の都合のいい言い訳だと思いました。

しろくろぱんだ
琥珀糖さんのコメント
2024年5月26日

瑞々しい感性ですね。
もうこう言う初々しい気持ちは忘れてしまいました。

夫の留守に浮気するパートナー。
信じられない、泥棒猫みたい。
私は「ねじれる」とか、この作品とか、松井大吾監督とか、 嫌いというか、世代が違うんでしょうね。
日本映画が2022年から、変わった⁉️
どこからの情報ですか?聞いたことないです。
2022年以前は切り捨てるということかしら?
映画の原点は黒澤明に戻るのです。
邦画も洋画も古典をみないことには、比較も何もできないのです。
「ゆれる」をそんな言葉で片付けないで下さい。

琥珀糖