「【”偶然”と”創造”というキーワードを三つの短編に異なるスタイルで織り込んだ見事な作品集。濱口監督の”日常”を描いた捻りの効いたオリジナル脚本のレベルの高さにも驚かされる作品である。】」偶然と想像 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”偶然”と”創造”というキーワードを三つの短編に異なるスタイルで織り込んだ見事な作品集。濱口監督の”日常”を描いた捻りの効いたオリジナル脚本のレベルの高さにも驚かされる作品である。】
ー 今作は、三話から成り立っているが内容的な繋がりはない。
だが、”偶然”と”創造”というキーワードを盛り込んだ脚本のレベルの高さには、三話とも驚かされる。
2時間1分が、あっと言う間に過ぎる作品である。
■第一話 「魔法」(よりもっと不確か)
・三角関係をモチーフにしている。
仕事で関係があり、親友でもあるメイコ(古川琴音)とツグミ(玄理)が、仕事終わりに夜のタクシーの中で交わされるツグミが気になっている男性カズオ(中島歩)との何気ない”会話”が、秀逸である。
そして、メイコはツグミが下りた後、タクシー運転手に声を掛ける。
”今、来た道を戻って下さい。”
メイコはあるビルに入って行き、事務所に残っていたある男に絡み始める。
そして、見ている側は、その男がメイコが2年前に振ったカズオである事が”会話”の中で分かる。
最初は、怒気をはらんだ言葉が飛び交うが、徐々にカズオが未だメイコに未練を持っている事が分かってくる。
ショットは変わり、ツグミとメイコが喫茶店で話していると、窓越しにカズオが現れる・・。
- この後の、同一シチュエーションの二つのシーンの見せ方が、絶妙に巧いのである。-
■第二話 「扉は開けたままで」
・セフレの男子大学生に依頼され(彼は芥川賞を受賞した教授の単位が取れず恨んでいる。)にハニートラップを巧妙に仕掛けようとする女子大生奈緒(森郁月)と、教授との”会話劇”。
教授の書いた本の、可なりエロティックな文章を読む奈緒の姿。
見ている側も、ドキドキしてしまう程の緊迫感である。
それを聴いていた教授の言葉
”そんなに綺麗な声で、読んで貰えて嬉しい・・。”
その言葉を聞き、”ハニートラップを仕掛けていた・・。”と哀し気に告白する奈緒。
教授は”その録音をEメールで送ってくれないか・・、”と頼み、”あるお願い”を教授にした奈緒は自宅に帰り、録音データを教授に送るが・・。
- ”何が偶然だったのか”が明らかになるシニカルなラストシーンが印象的な作品。-
■第三話 「もう一度」
・高校の同窓会に出席するために、東京から仙台にやってきた夏子(占部房子)と仙台駅のペデストリアンデッキのエスカレーターですれ違った女性(河合青葉)。
20年振りの偶然なる再会を喜ぶ二人であったが、女性の自宅を訪れた夏子達は”意外な事実”が判明し、愕然とする。
だが、二人は”意外な事実”が分かったからこそ、言える心の重荷をお互いに吐露し、解放され、抱き合う。
ー 偶然と思い込みによる想像が、二人の女性の心の重みを解き放つ。二人がペデストリアンデッキの上で抱き合う姿をロングショットで写し取ったラストシーンが良い。-
<三話とも、構成と脚本のレベルの高さに驚く。
何気ない日常の中に起きる”偶然”と”勝手な想像”を愛と裏切り、悔恨と再出発などをモチーフに描き出している作品集。
資料によると、濱口監督は、同種の短編をあと4本製作する予定だそうである。
期待して待ちたい。
それにしても、濱口監督の脚本の高さは、長編だけでなく短編でも発揮されるのだな、と思った見事な短編集でもある。>
<2021年12月18日 刈谷日劇にて鑑賞>
こんにちは。
この監督の二つの映画をみて、女優の選出、配役が上手いなぁと思います。
ユーモアがあった分、こちらの映画の方が好みですが、後からツラツラ思い起こすとドライブマイカーって とても感慨深い映画だなぁと思ってます。