「久しぶりの本格時代劇!」仕掛人・藤枝梅安 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
久しぶりの本格時代劇!
池波正太郎生誕100周年として、小説「仕掛人・藤枝梅安」を映画化した本作。今やテレビで時代劇を観る機会もめっきり減り、久しぶりの本格時代劇を期待して鑑賞してきました。日本人としてこういった作品を求めるDNAを持っているのか、懐かしさや心地よさを感じる、腹落ちのよい作品でした。
ストーリーは、鍼医者を営みながら裏では人のためにならない人間を密かに葬る仕掛人としての顔をもつ藤枝梅安が、蔓(元締)から料理屋の内儀・おみのに対する仕掛け(殺し)の依頼を受け、女中のおもんからおみのの悪事を裏付ける内情を聞き出すものの、おみのの顔には見覚えがあり、過去の因縁や相棒・彦次郎の受けた仕掛けとも関連し、事態はしだいに複雑に絡み合っていくというもの。
テレビの1話完結型の1時間ドラマと違い、元締からの依頼をきっかけに少しずつ悪事の全容が明らかになり、それとともに一見関わりのないと思われた人たちが少しずつ繋がり始める展開が、劇場版らしい見応えを生んでいます。そこに、梅安と彦次郎の過去の因縁も存在し、仕掛人としての信念や矜持や葛藤を感じさせます。
“梅安”といえば、緒形拳さんや渡辺謙さん、テレビドラマ「仕事人」シリーズを思い出す世代の方には不要でしょうが、そうでない初心者向けに、冒頭でガイダンス的なシーンがあったのは親切でした。しかも、「起り(依頼人)を探ってはならない」という不文律が、後の伏線にもなっています。
映像は全体的に暗めに抑えたトーンで描かれ、特に陰影を強調した絵づくりには、時代劇らしさを感じます。他にも、地味な着物や調度品、素朴な料理、行燈しかない暗い室内等、あちこちから市井の息づかいが感じられます。また、その料理がどれもおいしそうだったり、そばの食べ方に江戸っ子らしさが感じられたりと、細部までこだわった描写もとてもよかったです。必殺シリーズのような凝った演出の殺しやド派手な剣劇シーンはありませんが、そのぶん重厚な仕上がりになっていて、久しぶりに本格的な時代劇を堪能した気がします。
最終盤、おみの殺しの依頼人を確認した梅安が最後の仕掛けを行います。「気の弱い善人ほど…」という言葉から「まさか女中のおもんか!」と思いましたが、そこまでのどんでん返しはなかったですね。いやー、あれで彼女だったらおもしろかったのになーなどと思いつつエンドロールを眺めていたら、その中に「侍 椎名桔平」の文字。「え?出てた?」と思ったら、エンドロール後の次作に続く映像で登場。今度は、彦次郎の過去にまつわる仕掛けになりそうで、今からワクワクします。
主演は豊川悦司さんで、歴代梅安に勝るとも劣らぬ熱演がすばらしかったです。彦次郎役の片岡愛之助さんも、梅安のよき友として存在感の光る好演でした。このシリアスな二人のためのコメディリリーフとして、高畑淳子さんが抜群の立ち回りを見せます。おみの役の天海祐希さんも、強く艷やかな演技が秀逸でした。