劇場公開日 2021年6月25日

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Arc アーク : 特集

2021年6月14日更新

「あれ見た?」とにかく誰かと話したくなる超問題作!
【是か非か?】“永遠の若さ”を手に入れた女性の選択

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爽快感あふれる問題作――。そんな形容をしたくなる何とも不思議な魅力を持った作品である。何より「自分だったら…?」と考え、映画館を出てすぐに誰かと話がしたくなる。世界的作家ケン・リュウの短編小説を「愚行録」「蜜蜂と遠雷」と話題作を次々と世に放ち、国内外の注目を集めている新鋭・石川慶監督が映画化した「Arc アーク」。科学の進歩によって人類で初めて「永遠の若さ」を手に入れた女性・リナの人生を描いた注目作がついに公開を迎える。

コロナ禍という未曾有の混乱に陥った世界に生きる私たちに、この映画、そしてリナの決断は“生と死”、そして“未来”について問いかける。こちらの特集では、本作の魅力を紹介すると共に、映画の面白さを読者に伝えるプロである「映画.com」の編集部員たちによる座談会をレポート! 決して見逃してはいけない本作の見どころポイントから、劇中のリナの選択の是非に至るまで激論の模様をお伝えする。


【予告編】 “永遠の若さ“の実現は人類の進化なのか――?

これは究極の人間ドラマ、生命賛歌だ──
本作が持つ4つの衝撃が、賛否両論の問題作を創出した

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まずハッキリと宣言しておきたいのは、この映画はガチガチのSFというよりもヒューマンドラマであるということ。「近未来」「永遠の若さ」といったワードからSFの匂いを感じ取り「SFはちょっと…」と思ってしまう人もいるかもしれないが、そんな食わず嫌いでこの映画を観ないのはもったいない! あくまでもこの映画は、主人公・リナの“選択”とその先にある“未来”を描き出す人間ドラマであり、観終わった時には、不思議と爽やかささえ感じさせてくれる。

ここでは、本作を構成する重要な要素を紹介する。映画としてのクオリティの高さと物議を醸す社会性を兼ね備えた「今年最高の問題作」はどのようにして生まれたのか――?

1: 近い将来起こりうる? 「永遠の若さ」という“タブー“に切り込むテーマ性

行くあてもなく道端に座り込み、生きる希望を失いかけていたリナ。そんな彼女は「エターニティ社」でボディワークスと呼ばれる作業に従事するエマ、その弟の天音と出会ったことで自分の居場所を見つけ、天音を中心に開発された不老処置の技術により“永遠の若さ”を手に入れる。人類にとって禁断の技術とも言える「永遠の若さ」のもたらすものは何か? というテーマに果敢に切り込んでいる本作。細部まで設定を突き詰め、単なる絵空事のSFではなく「近い将来、ありうるかも…」と思わせるリアリティを宿している。

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2:「愚行録」「蜜蜂と遠雷」で海外も注目の石川慶監督が、今どうしても撮りたかった作品

「愚行録」、「蜜蜂と遠雷」という、いずれも非常に内容の濃い原作小説を見事に映像で表現し海外でも高く評価され、いま最も新作が待ち望まれる映像作家のひとりとなった石川慶監督。そんな彼が、以前からずっと撮りたいと考えていたのがSF映画。特にガジェット満載のSFではなく「日常の延長線上に描かれる未来」に興味を持っており、そんな中でこの原作の短編小説と出会った。共同脚本には「愛がなんだ」(今泉力哉監督)の澤井香織を迎え、SFと人間ドラマの融合を具現化! 映画後半の“未来”の描写にあえてモノクロによる表現を用いるなど、随所に石川監督らしさが光る作品に仕上がっている。

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3:芳根京子の“覚醒“がとにかくスゴイ! 小林薫との船上の対峙は映画史に残る名シーンに

ここまで幾度となく“ヒューマンドラマ”を強調してきたが、そのために欠かせないピースが説得力を持つ俳優陣。特にリナを演じる芳根京子は、不老処置により永遠の若さを手に入れているという設定のため、見た目は若いままで、仕草や表情、声色でリナの“老成”を表現。これまでも数々の作品で高い演技力を見せてきたが、さらにひとつ上へと進む“覚醒”という言葉がふさわしい、凄まじい演技を見せている。特に80代のリナが、見た目は老人だが自分よりも年下という設定の小林薫演じる男と小さな漁船の上で語り合うモノクロのシーンは圧巻! 映画史に残る名シーンが誕生した。

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4:世界的作家ケン・リュウの小説の初の長編映画化

原作を提供した中国系アメリカ人作家ケン・リュウは、2011年に発表した「紙の動物園」でネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞の3冠制覇という史上初の快挙を成し遂げた、21世紀を代表する世界的作家。そんな彼の作品が長編映画化されるのは今回が初めてのこと。今回、石川監督が執筆し英訳された脚本に対し、提案を行なっている。特に石川監督に対し、ケン・リュウが送った「自分はこの小説をディストピアとして書いていない」という言葉は、石川監督の作品づくりに大きな影響を与えたという。


異論反論噴出! 映画.com編集部座談会開催──
あなたの“答え”は?主人公・リナの選択を巡り大激論!

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「観たら誰かと話したくなる」という言葉そのままに映画.com編集部員たちが本作について語り合う座談会を敢行! 参加メンバーは、S(30代女性編集部員)、T(20代女性編集部員)、O(30代男性編集部員)、MC(40代男性ライター)の4名。リナの決断は是か非か? さらに全員が涙したという名シーンとは…?


とにかく誰かと語り合いたい──映画ファンにぜひ見てもらいたい作品!

MC では早速、映画.com編集部員による「Arc アーク」座談会を始めたいと思います。

O リモートワーク続きでなかなか映画について熱く語り合う機会がない中で、こんなにも「誰かと話したい!」って思う作品を観てしまって(笑)……話したいことが山ほどあって、この日を楽しみにしてました!

S わかります(笑)。試写で観終わった後に「誰か知り合いの人は来てないかな?」と周りを見渡してしまいました。

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MC まずは映画の感想からお聞きしたいと思います。

T 個人的にメチャクチャよかったです! 石川慶監督はこれまでも「愚行録」、「蜜蜂と遠雷」と異なるタイプの作品を撮っていますけど、今回も全く違う作品で。良い意味で2時間の映画が長く感じました。主人公のリナと一緒に100年以上、旅をしたような質感、重さがあって素晴らしかったです。

S そう。 観終わって、疲労感のある作品で、でもそれがイヤじゃないんですよね。最初は「ブレードランナー」みたいな雰囲気というか、最近の邦画にあまりない洋画っぽい世界観を感じたんですけど、リナという一人の女性の半生を描いているという点が面白くて、朝ドラを観終わったような感覚でした。

O 見ていくうちに印象がどんどん変わっていくんですよね。SFというよりもヒューマンドラマだなと感じました。

MC 「人類で初めて不老不死を手にした女性の物語」という外枠だけを見て、「SFはちょっと…」と苦手に感じてしまうという人もいるかと思いますが、決して「ザ・SF!」というタイプの作品ではないんですよね。

O そういう意味で「SFだから」という理由で観ないのはもったいない。そもそも“邦画とSF”ってあんまり相性がよくないという印象があると思うんですけど(苦笑)、この作品を観て、邦画におけるSFの新たな可能性を感じましたね。SFというとつい、ハリウッドの超大作をイメージしがちですけど、そうではない、日本ならではのヒューマンドラマの側面に光を当てたSFがあるんだと。そういう意味で、映画好きの人にぜひ観てほしい作品ですね。

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“本作の芳根京子”は必見! そして、石川監督の技量の高さを再認識させられた──

S 普通なら違和感がありそうな設定だったりするんですけど、芳根京子さんをはじめ、役者陣の演技がしっかりとリアリティを与えてくれて、挑戦的なことを“ちゃんと”やっているのが見えて、映画ファンとして嬉しかったです。

T 芳根ちゃんが本当に素晴らしかったです! 不老処置を受けたことで、若い姿のまま、年齢を重ねていき、見た目と内面のギャップが大きくなっていきますけど、芳根さんの演技力を信頼しているからこそ成立したんだなと。映画の中で、風吹ジュンさん演じる芙美が、リナに「足音で年齢がわかる」と言うシーンがありましたけど、まさにその言葉通り、佇まいや視線で生きてきた時間を感じさせてくれました。

O まったく同意見(笑)。ちょっとした声色や表情で年齢を重ねてきたことをきちんと表現されてて、さすがだなと。芳根さんの演技を見るだけでも1900円払って映画館で観る価値がある作品だなと思いました。芳根さんが演じるリナと小林薫さんが演じている不老処置を受けていない男性が小さな船の上で語り合うシーンは素晴らしかったです。見た目とは逆に実はリナの方が年上という、この作品ならではの、あのやりとりが成り立つのは芳根さんの演技力があるからこそだと思いました。

MC 長い時間を描いた濃厚な物語を丁寧にわかりやすく伝えてくれるという点で、俳優陣の演技力の素晴らしさはもちろんですが、石川監督の技量の高さを改めて感じさせられる作品でした。

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S 私は「蜜蜂と遠雷」は原作も好きなんですが、映画にするとなると難しいだろうな…という表現をきちんと映像化してくれるという信頼感のある監督ですよね。それが今回の映画でもしっかりと発揮されているなと。

T 「愚行録」では人間の“悪意”、「蜜蜂と遠雷」ではピアノの“音”だったり、小説で直接見たり聞いたりすることができない部分をきちんと映像で表現してくれているんですけど今回、それは“老化”やそれぞれの“死生観”といった部分ですよね。この映画ではそれを表現するのに石川監督は“手”を選んだんじゃないかと感じました。リナが(夫の)天音や赤ちゃんの頬に触れる描写だったり、ボディワークスの動きも手の動きから始まったり、とにかく手が雄弁に語っていて、人々の年齢や感情、個性を伝えてくれるんですよね。


議論勃発! あなたなら《不老処置》を受ける? 受けない?

MC さて、ここからいよいよ本日の本題「リナの選択は是か非か?」「自分なら不老処置を受けるか?」というテーマについて話し合いたいと思います。現時点で「受ける」と考えている方は?

S はい。

T 私もです。

MC Oさんは…?

O 僕は受けないですね。

MC ちなみに僕も「受けない」派です。あくまでこの座談会内での結果ですが、男女で「受ける」「受けない」がハッキリとわかれましたね(笑)。具体的に理由をお聞きしたいと思います。

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T これはまさに女性だからこそ感じる部分なのかもしれませんが「〇歳なんだから■■をしないと…」という“呪い”があるんですよ。女性の場合、結婚とか出産ですね。この不老処置は、そういうものから自由にしてくれるんじゃないかと思いました。あと、私自身、膨大な量の映画や本を前にして「これを死ぬまでに読み切れるのか?」という恐怖に襲われるんですよね。若く元気な状態をキープできるのであれば、それはありがたいなと思います。リナの「いまここに生きている瞬間にしかない美しさ、その可能性を最大限に生きたい」という言葉には共感を覚えました。

S 私も同じで、「人生100年時代」と言いつつ、全然時間が足りないなと。行きたい場所、やりたいこと、観たい映画がたくさんありすぎて…。子どもを産む人もいれば産まない人もいますが、ライフステージに“子育て”が入ってくると、自分の時間が全然なくなってしまうんですよ。最も身体を動かせるはずの時期に、自分の時間を持てず、50代、60代になってようやくやりたいことがやれるようになるんですけど、元気な身体の間にやりたいことをやりたいなと思います。

MC ちょっと割り込ませていただきます。結局、それって年齢を重ねてからもできることじゃないですか? 旅行に行ったり、本を読んだりって。

S いやいや、歳を重ねると身体が動かなくなりますよ!

MC それは日々の健康維持のための取り組み次第じゃ…?

S その身体作りをするための時間や余裕も含めてですよ。

T 旅行だって、60代になってからよりも30代のほうがアクティブに動けるでしょ。

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人々が歳を取らない社会=イノベーションが起こらない?

MC 若さを保つという「見た目」の問題以前に、肉体の健康、使える時間の問題ということですね。とくに女性にとってはライフステージと深く関わってくる問題なんですね。ちなみに、石川監督もインタビューで不老処置について「受けると思います」と答えているんですよね。賛成派のみなさんと同じように「やりたいことがいっぱいあるから」とおっしゃっています。一方で、反対の意見も伺いましょう。

O ずっと若いままでいるということは、世界中に若い人たちがあふれるわけで、その世界を維持するために、延々と働き続けなくちゃいけないのかなぁ…と思うときついですよね(苦笑)。あと、やはり年齢を重ねて、死んでいくという命の「循環」ということはすごく大切なことなんじゃないかなと思います。

MC 映画の中で、不老処置が人類にいきわたった結果として「自殺を合法化すべきか?」ということで議論が起こっていたり、「出生率が極端に低下している」というニュースが報じられたり、ある種の歪みみたいな部分も描かれますよね。やはり不老処置というのは、人間の生き方に反してるんじゃないかなと思いますが…。人間ってなかなか変わらないものじゃないですか? そう考えると、同じ人間がずっとそのままでいるとなるとイノベーションも起きづらくなるんじゃないかなと。

O そう思います。いまの技術の発展は「後世の人々のために」という思いで成し遂げられたことも多いと思いますけど、現状維持の社会となると、発展が望めなくなるんじゃないかなと思いますね。

S たしかに…すいません、自分のことばかり優先で世界全体のことまでは考えてませんでした(苦笑)。

T そこまで大局的に考える余裕がなかったですね(苦笑)。実際、いまは身体の問題で自然と死が訪れているのに、それをすべて自分で選択できるようになるというのは、怖いことなのかもしれないですね。

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小林薫と風吹ジュンの名シーンから浮かび上がる、“限りある生”の輝き!

MC ちなみに、賛成派のお2人は、もしも家族やパートナーと意見が分かれてしまったらどうしますか?

S 私は夫と子どもがいますが、基本的には本人の意向を尊重したいですね。なので私も自分の意志を貫きます(笑)。

T 私は流されるタイプですし(笑)、そもそも「大切な人と一緒の時間を歩みたい」という思いが一番にあるので、話し合いの結果、相手がどうしても「受けない」というのであれば、自分も受けないかな…?

MC 映画の中で、人類初の不老処置を受けることを決めたリナが記者会見で「死があるからこそ生が輝くのでは?」という意見に対して、「それは死を選ぶ以外に選択肢がなかった人類を慰めるためのプロパガンダに過ぎない」と反論する場面があります。こうしたリナの意見にも共感しますか?

S うーん、矛盾していると思うんですけど私自身、映画を観ていて、あえて不老処置を選ばなかった人たちが輝いて見える瞬間があったんですよね。リナの決断もカッコいいと思えたんですけど、同時にあえて不老処置をしないという選択をした人たちが、自分の「生」、「人生」を生きている感じがして…。

T まったく同じ思いです。個人的に一番印象的で号泣してしまったのが、雪の中で、小林薫さんが、妻の風吹ジュンさんの車いすを押してグルグルと回るシーンだったんです。風吹さん演じる妻が「生まれ変わっても私を見つけてね」と言うんですが、それは死のある世界じゃないと言えない言葉ですよね。すごくまぶしくて…。私自身は不老処置を「受けたい」と思いつつ、あの2人の姿から生の尊さが感じられて涙が止まらなかったです。

MC そろそろお時間になりますので、最後にこの映画をどんな人にお薦めしたいかを伺えればと思います。

S 私がこの映画で一番感動したのは、Tさんと同じで小林さんと風吹さんの車いすのシーンでした。サッカーの中村憲剛選手が引退する時に、奥さんが父親の引退を悲しむ息子さんにあてて手紙を書いたそうなんですが、その中に「物事は終わりがあるからこそ美しい」という言葉があって、まさにその言葉を体現しているような美しいシーンだなと。

MC 「賛成派」なのに、かなり“こっち”側に流されてません(笑)?

S そうなんですよ(苦笑)。矛盾してるんですが…。今回こうやってみなさんと一緒に話ができて、いろんな意見を聞けてよかったです! 今日のお話を踏まえて、誰に薦めたいかというと両親ですね。年齢的にも映画の中の小林さん、風吹さんと重なったので、将来、ああいう風に過ごしてほしいなって思います。きっと、いま「生」や「死」について考えている年代だとも思うので、映画を観てどんな感想を抱くのか興味がありますね。

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コロナの時代に刺さる映画──鑑賞後の“あなた”と語り合いたい!

O 僕は妻に観てほしいですね。その上で「あなたは受ける? 受けない?」って聞いてみたいけど、たぶん「受ける」って言うんじゃないかなぁ? それで、僕はひとりで寂しく年老いていくんですね…(苦笑)。

S いや、そこは一緒に受ければいいじゃん(笑)!

O あとは祖母がまだ存命しているんですが、長く生きた人たちに、不老処置をどう受け止めるかも聞いてみたいし、逆に自分よりも若い10代、20代前半の人たちがこの映画にどんな感想を抱くのか聞いてみたいですね。僕が想像もできないような意見や感想が出てきそうな気がします。

T 私はコロナ禍で、生まれて初めて「何が起こるかわからない」という感覚に陥ったんですね。これは同じ世代の人でも、住んでいる場所や環境によって違うと思いますが、私自身はこれまで歴史的な事件に巻き込まれるということがなかったので、コロナ禍が起きて、初めて歴史の渦に飲み込まれているという感覚を味わっているというか…。それもあって、この映画がすごく刺さったというか、不老処置が存在しないいまの時代だからこそ、有限で不確定な人生をどう生きるのか――? コロナ禍以前よりもすごくリアルに感じられたんですね。だからいま、未来に対して不安を感じている人、とくに同世代の人たちに観てもらえたらと思います。

MC みなさん、予定の時間をオーバーしてたっぷりと語っていただきました。おつかれさまでした。

O 全然、語り足りないですね。なるはやで身近な人に観てもらって、もう1回、語り合いたい(笑)

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