「永遠の命がある世界での生き方」Arc アーク ケイさんの映画レビュー(感想・評価)
永遠の命がある世界での生き方
2021年のロードショーで鑑賞。
物語の後半は、緩やかな時間の流れに漂うような、気持ちが穏やかになる作品でした。出演された役者さんたちが芸達者で、キャラクターを魅力的に見せます。
メータが振り切れるような盛り上がりがあるわけで無し、一般受けするとは思えませんが、自分にとっては劇場で見ることができて良かった、そんな作品です。
不老を手に入れた人間社会ですが、別の歪みが生まれたことが、サラリと描写されています。出生率が大きく低下し、自殺者も増えた。理解できます。
無制限に時間があれば、面倒くさいことは、いつかやれば良い。
一方で時間を持て余し、人生を辞めたい人も。しかし一度不老を手にすると、死ぬことは難しくなります。老化抑制を止めれば再び老化するが、自然死するまでに数十年が必要。周囲は不老のまま、自分だけが老いてゆく。精神的な苦痛に耐えられず、自殺するしかないのでは。
リナは息子である利仁と別れ、娘のハルが不老になれることを確認すると、老化抑制をやめたのでしょう。ハルを生かすことで、自分の人生を救ってくれた天音へ、感謝を返すことができたのでは。このあと終わりの描写に至るまで数十年間掛けて、リナは老化しています。リナが自殺を選ばないのは、自分の生き方に満足しているから。
生きることも死ぬことも受け入れたリナの周りは、自分の子供や孫、親しい人たちの子供であふれているようでした。
物語を通して、主演の芳根京子さんは魅力的。後半の、年配女性の落ち着きを感じさせる演じ方は、良かったです。顔立ちが整っているため、ヘアスタイルを変えて違和感が無いのも良い感じ。
最近、小説を読めていませんが、原作者のケン・リュウさんは、SFの中でも幻想文学の流れを汲む作家さんでしょうか。
さらに出身地である中国社会の影響を受けているのか?前半のグロテスクな描写や、若いリナの破滅的な生き方など、日本人は演出できても着想が出来ないように思います。
ご遺体をオブジェにして飾るとはね。
残念だったのは冒頭のダンサー複数のダンスシーン。日本人の頭身だと映えないです。ここは、中国人などを使って欲しかったと思いました。