「前半はお見事‼️後半はやや失速気味でした」Arc アーク グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
前半はお見事‼️後半はやや失速気味でした
【原作について】(映画鑑賞前の覚え書き)
ケン・リュウさんの作品は初めてでしたが、静かで優しい感じがどこかカズオ・イシグロさんのようでもありました。非現実的な設定はSFといってもおかしくないのに、いつの間にか我々がよく知っている現実世界の出来事のようにスーッと同時代的な感覚で物語世界に導かれているのです。
映画ではどう表現するのか、とても楽しみです。
さて、今度は映画の話。
公開初日に我慢できず、夕方の業務を月曜日に先送りして定時退社、映画館へ直行しました。
リナのボディーワークスの才能について、ダンスから見出されるという流れは映画オリジナル。
これが見事にハマってました。
その後のボディーワークスの実演の場面のアイデアはそれだけで何かの〝特殊◯◯◯賞〟みたいなものを受け取っていただきたいほど映像的にもパフォーマンス的にも魅了されました。芳根京子さんの衣裳と鋭いキレのある動きがもう映えまくり。ミラーニューロンという神経反射の会話ともうまく繋がっていました。
半面、後半への展開は原作に基づく予備知識がないとやや唐突な感じは否めません。
丁寧に向き合えば、色々なテーマを内包する物語なので難しいのは確かです。
例えば……
・不老不死の施術が新たな格差や分断を生んでしまうという社会全体へ波及する課題
・死と生が対極なのか、一体的に包含されるものなのか、という哲学的な問いかけ
・〝死なない〟という人類が誕生して以来、初めて迎える人生や概念への向き合い方や戸惑い
・いつまでに何を成し遂げる、という人生の目標自体が意味を成さないかもしれない(目標・目的を持たないことが目標・目的という論理も成り立ってしまう)
原作の短編小説では敢えて具体的に語らない部分ですが、映画として作り上げる時にはある程度、解釈のヒントのようなものを示して欲しかったかな、と私は感じました。
正解などいうものはないけれど、そういうことなのかと思わせたり、いや、それは実はこうなんだよ、みたいに鑑賞者それぞれが自分なりに納得できるような描写が少し物足りなくて、映像表現以外の曖昧さが結局は観る側に丸投げされて放置されたままのような淋しさが残りました。