「配役が素晴らしい不器用な父子の絆物語」とんび みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
配役が素晴らしい不器用な父子の絆物語
予告編を観た時は、それ程期待していなかったが、感動的で示唆に富んだ見応え十分の作品だった。昭和の濃厚な人間関係を軸にしたベタな展開の父子の絆物語であり、ストーリーに新味はないが、何と言っても配役が素晴らしい。どの役柄も、適役の俳優を配しているので、作品に落ち着き、安定感があり、150分弱という滔々とした川の流れのような長尺の作品をじっくり味わって鑑賞できる。
本作の舞台は1960年代の瀬戸内海に面した備後市。主人公は、運送業者のヤス(阿部寛)。幼い頃、両親と離別した彼は、待望の長男(北村匠海)が誕生し、妻の美佐子(麻生久美子)と3人家族で貧しいながらも幸せに暮らしていた。しかし、妻が突然の事故で急死し、周りの仲間達に支えられながら、父親として懸命に子供を育てていくのだが・・・。
多士済々の俳優陣が適役を得て活き活きと演技している。特に、作品の中心である主人公の3人家族役、麻生久美子、阿部寛、北村匠海は、最適役であり得意な役柄での演技が光る。
出番は前半だけだが、妻・美佐子役の麻生久美子の存在感が際立っている。夫への愛、長男への愛、全てを優しさで包み込んでしまうような愛に溢れた演技、佇まいが作品の雰囲気を作っている。時代劇・散り椿で悲運の妻役を演じた時にも感じたが、この手の役柄は麻生久美子の独壇場である。
阿部寛は、武骨で不器用であるが、周囲の人々に愛される、放っておけない役柄を、らしい演技で熱演している。特に母親についての長男との確執、分かっていながら素直になれない父親の心情を台詞回しと体全体を使った演技で巧演している。
北村匠海は、自分の気持ちをうまく父親に伝えられない鬱屈した長男の心情を、目の表情と、ぶっきら棒な台詞回しで表現している。阿部寛と演技の相性が良く、本当の親子の様な雰囲気を作っている。
ベタなストーリーでも構わない。出演者が持ち味を活かした演技をすれば面白い作品はできると実感できる作品である。
みかずきさん
共感&コメントありがとうございます。間違ってフォロー外してしまったかもしれません、すみません。再度フォローさせていただきました
批判的なコメントもうなづける作品も多々ありますが、映画を観て『うん、うん』って感じる時が大袈裟かもしれませんが至福の時です。
これからも素敵なレビューをよろしくお願いいたします。
キネ旬2回目掲載期待しています。
麻生久美子さんといえば、私の場合、『夕凪の街 桜の国』での儚く消えていってしまう佇まいがとても印象に残っています。
挨拶が遅れましたが、こちらこそよろしくお願いします。
仰る通り、このサイトの多彩なレビューはとてもいい刺激になります。自分とはまったく違う見方に感心することも多く、自分の多様性や視野の狭さ、知識の無さなどをいつも学ばせてくれます。もちろん、みかずきさんもそのおひとりです。
今晩は。
”出演者が持ち味を活かした演技をすれば面白い作品はできると実感できる作品である。”
仰る通りだと思います。
観た事はありませんが、朝の連続テレビ小説みたい・・、というレビューも幾つかありましたが、私は観る側に何らかのメッセージを与える作品であれば十分ではないかと思いました。
私事で恐縮ですが、鑑賞後、半年ぶりに両親に手書きで手紙と近況を伝える写真を送りました。
みかずきさんのレビューは、気品高い文章及び肯定的に映画を捉えるスタンスが好きなのです。
では、又。返信不要です。