とんび : インタビュー
阿部寛×北村匠海が語る、映画にとって“父親のような存在”瀬々敬久の尊さ&世代の持つ役割
過去2012年、2013年と2度に渡ってドラマ化された重松清のベストセラー小説「とんび」が、令和の時代に映画として3度目の映像化を果たした。メガホンをとったのは、骨太の作品を世に送り出してきた名匠・瀬々敬久。映画オリジナルとして令和までのエピソードを加え、普遍的な家族の絆は時代を超えて受け継がれていくというメッセージを色濃く映し出した。
そんな本作で主人公・ヤスを演じたのが阿部寛、そしてヤスの息子・アキラに扮するのが北村匠海。過去何度も瀬々作品に出演している阿部、今回初参加となる北村という対照的な二人が、現場で感じた瀬々組の尊さ、さらには“受け継ぐ”というテーマでトークを繰り広げた。(取材・文/磯部正和、撮影/奥野和彦)
さまざまな困難な出来事があっても、必ず繋がっていく親子の愛を描いた重松清のベストセラー小説を映画化した本作。阿部が演じたヤスは、愛する妻・美佐子(麻生久美子)との間に愛息子・アキラを授かるが、妻の事故死により、男手一つで子供を育てることを余儀なくされる。茫然自失になるヤスを支えたのが、ヤスが住む瀬戸内海に面した備後市に住む町の仲間たち。彼らは不器用なヤスを温かく見守りながら、アキラを家族のように育てていく――。
阿部は、本作の完成披露試写会のとき「過去に2度もドラマ化された作品であり、どうするか悩んだけれど、瀬々監督だからやらせてもらいたいと思った」と語っていた。昨年公開の映画「護られなかった者たちへ」は記憶に新しいが、2000年公開の「HYSTERIC」、2001年公開の「RUSH! ラッシュ」など瀬々監督作品への出演経験がある阿部に、発言の真意を問うと「瀬々監督の作品に出演したとき、まるで自分が演じたのではないような、想像できないような姿がスクリーンに映し出されていたんです。すごく不思議な感覚だったのですが、評価としても自分に返ってきたことがあって……。そんな瀬々監督だったら、これまで映像化され親しまれてきた作品でも、新たな可能性を引き出してもらえると思ったんです」と説明する。
「自分でも想像ができないような姿が映し出される」という阿部の発言。より詳しく問うと「例えば『とんび』の現場でも、ヤスが歌うシーンがあるのですが、撮影時は、少しシーンの内容と歌詞に皆が正直違和感を感じていたんですが、実際の映像を見ると、その違和感を皆が補おうと助け合ったからこそ出る連帯感が何ともほのぼのとしたシーンになった。ほかにも結構そういうシーンがあり、それが映画に程よいバランスを生んでいる」と全幅の信頼を置いているようだ。
瀬々マジックとも言えるような手腕で作り上げられた、高度経済成長期の匂い立つような昭和の雰囲気。そんな現場で阿部をはじめ、ヤスの幼なじみ照雲役の安田顕、そして照雲の父・海雲役の麿赤児ら個性豊かな俳優たちも躍動する。阿部は「安田くんとは、これまでも何度も作品をご一緒していて全幅の信頼を置いている。彼が現場で予想だにしない照雲を持ってくる事こそ、より深い友情関係を表現できるきっかけになる。そこに麿さんも加わるんですから、濃いセッションですよ」と笑顔を見せる。そんなセッションを瀬々監督がしっかりと捉えてくれることで、なんとも言えないような“匂い立つ”映像がスクリーンに活写されるというのだ。
そんな濃い現場に参加した北村。彼が演じたアキラは、物語前半では子役が演じているため、北村が撮影に参加したのは、クランクイン後、しばらく経ってからのことだった。北村は「僕は撮影の後半から現場に入ったのですが、そのときには完全に『とんび』の世界観ができあがっていたんです。だから僕はそこに飛び込むだけで、アキラになれました。普段、完成された現場に入ることって、すごく勇気がいるんです。特にドラマの一話ゲストとかって実は大変だったりするのですが、この作品の持つ“家族を超えた繋がり”みたいなテーマが現場にも充満していたので、スッと入り込むことできました」とチーム力に感謝を述べる。
こうした雰囲気も瀬々組ならではと阿部は証言する。
阿部「瀬々監督というのは、映画にとって親父みたいな人なんですよね。作品をこよなく愛し、ワンカットワンカット妥協せずに粘る人。無我夢中で作品にのめり込んでいる監督が中心にいることで、周囲の人間も自然と団結するんです。それはロケ現場でも同じで、今回の撮影地となった岡山の人たちも、コロナ禍であるにも関わらずすごく寛容で温かった。それも瀬々監督の持つ人間味だと思います」
初の瀬々組参加となった北村も、監督の持つ映画愛にほだされた一人だった。「僕は『とんび』の撮影の直前まで、『にじいろカルテ』というドラマに参加していたのですが、共演した井浦新さんが瀬々監督と何度もご一緒している方で『瀬々組は最高だよ』とおっしゃっていたんです」と語ると「阿部さんがおっしゃっていたように、本当に短いシーンでも、ものすごく熱意を持って撮られているのを見ると『絶対良いシーンにしなければ』と自然と気合が入るんです」と撮影を振り返る。
監督の求心力、それに応えようとするスタッフや俳優たちの熱意。そんな熱いものがいっぱい詰まった映画『とんび』。この作品には“親子の絆と愛”が描かれると同時に、時代を超えて“思い”を伝えていくことの大切さも実感できる。
30年以上俳優業を続け、日本映画界でもベテランと呼ばれる域に達している阿部は、先輩から受け継いだものを、どのように後輩に伝えていこうと思っているのだろうか――。
阿部は「そういうことはあまり意識していないんですよね」と笑うと「でも僕も現場で先輩方をすごく観察して、学んだことはたくさんあるんです。それを若い人たちに伝えようという意識はないのですが『どこかで感じてもらえたらいいな』という思いはあります」と胸の内を明かす。一方で、若い俳優に対して「ある年齢を境に、とにかく演技もうまいし、いろいろなことができるなと感じているんです。耳も目も良くてすごく感受性が豊かなんですよね」と賞賛する。
そんな若手の一人である北村に、阿部の言葉について問うと「僕らって先輩たちが残してくれた素晴らしいものを取捨選択できる世代なのかなと思うんです」と解釈を述べる。続けて北村は「インターネットなどの普及もありますが、情報量がたくさんあるので『自分はこうだ』という確固たるものが、すごく早くから芽生えた気がします。僕自身も、高校生のころから白黒映画などをたくさん観て、影響を受けていましたから。でもだからこそ、一層日本映画界に対して『僕たちがのし上げていこうぜ』みたいな使命感も強くあります」と熱い思いを吐露する。
北村の言葉に阿部は「頼もしいですよね」と微笑ましい表情を浮かべると「映画をはじめ映像の世界には、いろいろな可能性が膨らんでいるので、どんどん挑戦してほしいですね」とエールを贈っていた。
「時代は変わっても人間ってそうは変わらないと思うんです」と語った阿部。だからこそ「とんび」という作品が持つ普遍的な“家族の絆”は、いまの時代の若者にもきっと刺さるという。一方、若い世代の北村は「10代、20代の人たちの作品への入口となるのが、僕が演じたアキラだと思うんです」と語ると「その意味で、責任感を持って演じましたし、作品を通して親子が改めて手を繋ぎ直していただけたら嬉しいです」と作品に込めた思いを吐露していた。