劇場公開日 2021年4月9日

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「つまり Bonnie and Clyde」ドリームランド 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5つまり Bonnie and Clyde

2021年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 設定もストーリーもわかりやすく、ローラ・カークの柔らかく落ち着いた声のナレーションがはじまると、すっと作品の世界に入り込める。物語のテンポもいい。
 主人公ユージン・エバンズが家族と住む土地は、乾いていて作物があまり育たない不毛の地で、不定期に襲ってくる砂嵐の被害に悩まされている。人間はどこまでも保守的だから土地を離れるのを嫌い、そこで生きていくしかないと思っている。束の間のダンスや音楽で不満や不安を紛らわせて日常生活の些事に時間を費やしてしまう。
 いつかこんな生活から抜け出したい。若者たちはそう考えているが、大抵は親と同じように所帯を持ってこの場所で暮らすことになる。自分だけはそうはならないと、みんなが思っている。ユージンもそのひとりだ。砂だらけで、いつも防塵マスクをネックレスみたいに首からぶら下げている生活はもうまっぴらだ。しかし金もつてもなくてどうやって抜け出せばいいのか。
 そこに銀行強盗犯アリソンが現れる。人を操る術に長けている。まずアリソンはユージンの前にリボルバーを投げ出す。命を預けるのと同じだ。生殺与奪の権利を与えてくる人間を無碍に殺す訳にはいかない。それから相手の名前を聞き、自分の名前を名乗る。名前を知るとそれだけで愛着が生まれるのは人間の性(さが)だ。野良猫に名前をつけてタマと呼んだ瞬間に、その猫は野良猫ではなくなりタマになる。それと同じである。そして怪我をした脚をさらけ出す。少年にとって初めて見る女の太腿である。これまで女と少年だったふたりは、アリソンとユージンになったのだ。つまり Bonnie and Clyde だ。本作品と同じ世界恐慌の時代に活躍(?)したふたりである。

 ユージンを演じたフィン・コールが上手い。ハンサムではないけれども味のある顔をしていて、実際は25歳の俳優だが、十分に17歳に見える。年上の女性アリソンに魅了されて何もかも捨ててしまうことに躊躇いがないのも、その若さゆえだと理解できる。ユージンの妹フィービーも要所要所でいい働きをして物語に深みを与えている。
 むっちりとした下半身と貧乳がウリのマーゴット・ロビーは、その体型から漫画の登場人物ハーレイ・クインの実写版みたいな役も演じたが、30歳になって本作品を自らプロデュースしてアリソンのような精神性を演じることが出来たことは、彼女の女優人生にとってとても有意義だったと思う。
 集会所のダンスのシーンで年配の男性が弾くバイオリンの物悲しいメロディが、この土地に住む貧しい人々の疲れて荒んだ魂を揺さぶるようだ。Bonnie and Clyde は滅多に出現することはないだろうが、その一歩手前の若者たちはどこにでもいる気がした。

耶馬英彦