劇場公開日 2021年5月28日

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「奴隷海岸」アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0奴隷海岸

2021年9月6日
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鑑賞方法:映画館

子供の頃地図が好きだった。
大陸や島の名前を覚え、内陸や海沿いの街の名前を指で辿って 読みふけった。

アフリカの西海岸に見つけたその国名は
「黄金海岸」、
「象牙海岸」、
そして
「奴隷海岸」だった。

現在では「ギニア」となったあの地域が、【奴隷の出荷の港】と紛れもなく地図に印されていた―、そんな地図帳を学校で使っていた僕の、あの「小さな活字」を発見した時のショックを思い出す。

映画「アメイジンググレース」を見終わって、帰宅してから改めて「奴隷海岸」をググる。

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・3世紀に渡る“輸出”は、
部族間の抗争に用いる武器の代価として、欧州からの武器購入の代償として捕虜が輸出された経緯
・働き盛りの男性が千万単位で失われ、それが今なお残る貧困の原因のひとつとなっている
・売却前の奴隷の去勢が一大産業に
・産業革命で農業・工業の効率化が進んでしまい、価格が高騰していた奴隷の卸値が下がる。費用対効果も低下して輸出が減少
・輸入先での奴隷の人口増加もアフリカからの輸入量低下の要因である
云々・・

「収穫の終わった綿畑の地面は白い。それは取り残された棉花ではなく奴隷の骨だ」との記録を読んだこともある。

読むに耐えない。
あんまりではないか。
男たちは使役され、木に吊るされ、女たちは購入者たちからレイプされて混血児を産まされる。只で奴隷の人口が増える。

「混血度の何%までが黒人と認められるか」という判例もアメリカにはある。
「BLM=黒人の命“も”大切」と叫ばれているのは、50年前の話ではない、今年、去年のハナシだ。

映画の前日に車のラジオでたまたま流れたあのビリー・ホリデイの「strange fruit」が、夜勤明けの頭痛にガンガンと追い討ちをかける。

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アレサ・フランクリン。
クイーン・オブ・ソウル。
奴隷の末裔として、そのアメリカで生きていることの、彼女の逃れられない歴史と辛苦は、いかばかりだろう。

聖書には
「あなた方がエジプトで奴隷であったとき、小さな民であったあなた方を神は救って導き出した」
と繰り返し繰り返し記述されている。
その記述は、ユダヤ人たちの存亡がかかっていた頃の、民族の歴史の原点として。共同体の共通体験として。

ゆえにこの言葉は、キリスト教の源流であるユダヤ教の会堂(シナゴーグ)において、そして信者たちの各家庭において、日々の確認事項として唱えられ、詠唱されている。

「黒人霊歌」は、
元々の発生は、アフリカから連れてこられた黒人奴隷たちが、綿畑で歌い出した労働歌だ。
「奴隷状態からの救い」を乞い焦がれて、ふるさとアフリカの民謡とキリスト教の解放歌をミックスさせて、自然発生的に熱唱をされるようになった、
それが黒人霊歌=ゴスペルの起源なのだ。

本作品は、
牧師の娘であるアレサが、コンサート会場ではなく、黒人霊歌の信仰の砦=ロサンゼルスのパブテスト教会で、“同郷”の黒人信者たちを前に歌ったもの。

その歌詞と“本気度”に圧倒される。

生前のアレサが、「この映画の公開を二度も法的に阻止した」というエピソードにも、僕は震える。
これは“見世物”ではないのだ。

日曜日に、教会の帰りに映画館で鑑賞。

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追記:
僕の父は、公民権運動のさなかのアメリカに留学したのだが、現地の黒人教会の礼拝に参加して自身のアイデンティティのベクトルが変わって帰ってきたと述懐。
そのことも家族の記録として付記したい。

きりん
ぷにゃぷにゃさんのコメント
2021年9月15日

読みごたえのあるレビューをありがとうございます。
奴隷船の中は垂れ流しで病気が蔓延し、まだ生きてても海に捨てられたそうですね。
奴隷船の元船長が、「アメイジング・グレイス」を書いたという、不都合(?)な真実。

ぷにゃぷにゃ
kossyさんのコメント
2021年9月6日

きりんさん、おはようございます。
俺も今週中にパンケーキを見る予定してます。
アレサの歌声は本当に心に響きますよね。
きりんさんのレビューにある酷いことがもっと映画になればいいのにね。『マンディンゴ』くらいじゃ物足りない・・・

kossy
ワンコさんのコメント
2021年9月6日

おはようございます。
ローリングストーン誌、僕も見てみます。
ミックジャガーがいたのを見て、音楽って、ジャンルとかじゃないんだなって改めて思いました。もっと言ったら、国とか、人種とか、年齢も関係ないですよね。良いものは良い。昔、テクノって言われたエレクトロもそうだし、ヒップホップにガツンとくる良い曲もあるし、言語とか既成概念超えてくるのがあるのも良いですね、

ワンコ