「芦田先生(愛菜)を観に行く」メタモルフォーゼの縁側 CBさんの映画レビュー(感想・評価)
芦田先生(愛菜)を観に行く
BLマンガ好きの女子高生が、BLマンガに目覚めた老女と、バイト先の書店で出会い友人になる話。
限りなく、小品。されど、限りなく心に届く。
普通に起きそうなことを、普通に演じるように演出され、俳優たちが普通に演じる。それを俺が普通に観る。
主人公は、キャラクター通りの行動をして、観客の予想を(よい方向、驚く方向へ)裏切ることは一つもなく、話は進む。
アクティブで友人も多い同級生が「BLマンガって読んでみたら、すっごく楽しいんだよ、純粋なんだよ」と屈託なく友達に楽しそうに話すシーンをみた主人公が、「ずるい…」とひとりつぶやくシーン。そして「ずるいって言ったけど、私、羨ましくてしょうがないんだ。ずるいのは、私」とひとりごとを言うシーン。こういったシーンがそこかしこにある。主人公のもどかしさが観ているこちらまで溢れてくる。だからこそ、この映画は美化されてなく、現実離れしてなくて、観ているこちらもまたずっともどかしくい。まさに、主人公の擬似体験だ。
「マンガ描いて楽しい?」にも「あんま楽しくはないです。自分の絵を見るのはちょっと辛いし」と答える(実際に出来上がった絵を見ると、「だろうね〜」と言わざるを得ない、絶妙な絵です)
「でも何か、やるべきことをやっている気がするので、悪くないです」というセリフや、エンディングで主人公がひとりつぶやく「うん、楽しかった」とか、めっちゃリアル。だから、感動とか、ないの。というか、劇的なことでの感動では、ないの。ほんのちっちゃなことでの喜びなの。それって、誰もが青春時代に日常で経験してきているレベルの喜びなの。それをすごく真面目に映画にしてみた映画なんだと思う。
観てる間は、「何も起こらないんだなあ。描いてみたらめちゃくちゃ上手かったということはないし、会場で飛ぶように売れたりといったこともないんだ」と思ってた。出来事としては、たったひとつの奇跡というか偶然だけ。だから小品、限りなく小品。
しかしその偶然からの繋がりが、俺たちに、産み出すことの動機、それを持続する上での原動力を教えてくれる、
作中で語られる詩
「君といると僕はうれしい。力が湧いてくる。君といると、僕は僕の形がわかる。僕も君にそれをあげたい」
この詩が、この映画の全てなんだろうなあ。
書き上げたマンガを、主人公の声で読み上げるシーンがあるのだけれど、よかった。書き上げたマンガがよかった。さらに芦田さんの声は、この上なくマッチしていて、至福の時だった。
あれ、レビュー書いている今の方が、観ていた時より、この映画に浸っている感じがする。後からじわじわ来る映画だったんだなあ…
(2024/5/4 キネカ大森の名画座で再び観て、追記。上は初めて観た時のレビューだが、今日二度目を観て、上の思いはいよいよ強くなった。すっごく素敵な視聴後感に浸っています。幸せ。芦田先生(愛菜)の最高傑作なんじゃないの?という気持ち)
小さな小さな、だけど本人にとって価値あるメタモルフォーゼ(変身)。それはたしかに縁側での二人の会話から生まれたんだね。
おまけ
サイン会は、ちゃんとジュンク堂でやってましたね。
丸善のカフェ、行ってみたい。
おまけ2
芦田先生(愛菜)ならではの映画だった気がする。
あ、もちろん周りもみな上手でした。古川さん(琴音)、特に。
おまけ3
驚きたい自分、驚かせてくれない映画。初めて観た時は、この繰り返しだった。だからこそ、二度目に観た際の幸せ感が強かったのかな。二度観た方がいい映画なのかもしれません!!
描いてみたら上手かったもめちゃくちゃ売れたもないどころか、出店さえ出来なかった、のに小さな奇跡が起きていて。でもそれをサイン会の時には聞いてなくて後で聞かされる。
こういった ほんとに何も起こらない(少し起こる)リアルを おっしゃる通り、見てた時より感想を言い合う今こそじわっと来ますね。絶妙な絵とともに。
普通に終わりましたね。
まさに「縁側」ですね。
よくありそうな日常ですが、「縁側」にも憧れますね。
宝くじが当たったら、タワーマンションもいいですが、縁側付きの古民家ももいいですね、、、
と、在り来りな妄想です。
芦田愛菜さんの表現力(激走も含めて)と宮本信子さんの好奇心に素直な姿。
誰でも疑似体験のあるような小さなことの積み重ねなのに、深く沁みてきました。
小品だけど、稀有な作品でもありました。
観ている間は面白くても直ぐに忘れてしまう作品が多いですが、この作品は観終わったあと何度も何度も思い返してしまいますね。
ドラマチックな展開はなく、それでいて単なるあるある的でもなく、元気がもらえるいい映画でした。
小さな小さな〜変身〜縁側で生まれたんだね。この感想確かに気持ちわかります。人生小さな変身の繰り返し。上手いこと言います。作品を観た今でも思い返して嬉しくなってしまいますね。