劇場公開日 2022年12月3日

「物凄い感動作品」THE FIRST SLAM DUNK アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0物凄い感動作品

2024年8月22日
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鑑賞方法:映画館

26 年前に完結している優れたバスケットボール漫画の劇場版である。2022 年の12月に封切られた劇場版アニメは 2023 年8月31日までのロングラン上映される大ヒットとなり、2024 年の8月13日からリバイバル上映されている。娘がこの映画の熱烈なファンで、帰省した娘が6回目の鑑賞をするというので、私も強制連行された。原作コミックスをはるかに超えた目から鱗が落ちる大傑作であった。

原作コミックスでは、選手一人一人の家庭的事情に立ち入ることはほとんどなかったが、映画では冒頭から宮城リョータの子供時代の話が語られて意表を突かれた。リョータが沖縄出身であることや、母子家庭で兄と妹がいたことなどは初耳だった。聞いた話では、沖縄には宮城姓が多いらしい。

父が亡くなった時に母を支えると言っていた6歳上のバスケットボールの上手かった兄が不幸なこととなり、兄と比較されてプレッシャーを受けて育ったリョータの生い立ちは胸が痛む話だった。画家のサルバドール・ダリも優秀な兄がいて、夭折したために同じサルバドールと名付けられて育ったそうで、ダリは自分が兄の代わりだとずっと思っていたらしい。優秀な兄に先立たれた弟という立場は、西郷隆盛と従道兄弟にも当てはまる。

このエピソードを物語に取り入れたことで、単なるバスケットボールのアニメの枠を超えた話に爆変していた。脚本は原作者の井上雄彦が自ら手掛けており、監督も務めている。全国大会の秋田山王工業戦は2回戦の話であり、次に対戦するはずのライバルが伏線として何人も登場していたが、原作は山王工業戦で終わってしまってファンを唖然とさせた。原作者も描き足りないところがあって映画化したのだろうが、ここまで深い話になっていたのには驚かされた。秋田山王工業というのは能代工業がモデルになった架空の高校であるが、秋田の山王と言えば、全日本吹奏楽コンクールの全国大会に連続 33 回出場してそのうち 15 回の金賞を受賞した秋田市立山王中学校が私の脳裏には蘇った。

誰一人悪役がいない映画で、原作と比べて宮城リョータの比重が極めて大きく、桜木や流川がやや傍に回った感じがしたが、桜木のその後がどうなったのか非常に気になったのは原作と同様だった。スポーツマンシップに則ったゲームの進め方は心地よく、味方はもとより、敵チームの選手の人物像も丁寧に描かれており、原作にないシーンも多数加えられていた。これこそスポーツの真髄であり、観客を熱狂させる根源である。昨今のオリンピックで誤審だらけの柔道の審判などに強制的に観せるべきだと思った。

手描きの画風を保っているが、実際には 3D CG が下書きになっているらしく、バスケットボールのシーンもボールが通過するネットの動きを始め、物理的な違和感が全くないばかりか、頻繁に挿入される海岸に打ち寄せる波のリアルさには度肝を抜かれた。これだけの画力を見せたアニメというのはちょっと記憶にないほどである。音楽もこうでなくてはという曲が付けられており、息を呑むシーンでは一切の音がなくなるなど、演出的にも優れたセンスを感じさせた。娘がリピりたくなる理由も良くわかった。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。

アラ古希