劇場公開日 2022年12月3日

「3D嫌いこそ見るべき」THE FIRST SLAM DUNK dyanさんの映画レビュー(感想・評価)

5.03D嫌いこそ見るべき

2023年2月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

日本の3Dアニメが嫌いだ。自分のような人間は、作画の質に拘りがあり、3Dにありがちな不自然さを受け入れられないタイプだと思う。でもこの作品はそういう人間にこそ響く出来になっている。そしてその魅力は現状のPVでは全然発揮しきれていない。騙されたと思って実際にその目で全貌を観て欲しい。

自分も今回の映画は試合シーンの人体がフルCGという理由で避けていた。原作漫画は好きだが、原作者が監督をやると言っても所詮アニメ畑の人間ではない。3Dの出来は日本のスタジオの標準的なものになるだろう。どうせまた違和感のある人体モデルを画面に置きっぱなし、動きもモーションを取り込んで不自然なまま放りっぱなしの出来になってしまうんだ、と思っていた。

井上雄彦監督、すみませんでした。
蓋を開けてみるとそこらの2Dアニメよりもしっかり「アニメ」をやっていて度肝を抜かれた。何よりもその敬遠していたはずの3D人体アニメの出来が良い。動きが良い。
まず開始数分の子供のバスケシーンで、少なくとも覚悟していた「やりっぱなしのお人形アニメ」ではなさそうだと気づいた。次いで、(ここは2Dだが)リストバンドを腕に嵌めるシーンのアップの異様な動きの良さと繊細さ。もしかしなくてもかなり拘った作品なんじゃないか…?となり、15分も経てば3Dに対する警戒心なんてどこかに飛んでいって、画面にのめりこんでいた。
ちゃんと重力がある。シュートする時の指先、ダンクしてぶら下がった時の足先の揺れ、体がぶつかった時の弾み方、キャラごとの個性の違いまで細かく拘って作っているのが分かる。
そして何よりその動きの良さが生きるのも、静と動のテンポと演出がしっかりしているからに他ならない。あくまで本物の試合観戦かのように自然に時間が流れる中、魅せる場面では少年漫画らしくドンと見せてくれる。そのカタルシスたるや並みのバトルアニメでは及ばないほど。
また、3Dアニメにありがちな違和感も限りなく避けるよう配慮されているのが分かる。顔のアップではちゃんと表情の豊かさを優先して描画されているし、引きのシーンでは情報量が増えすぎないよう簡略化されている。
自分が日頃3Dアニメに対して抱いている不満を、全て解消してもらったような気になった。

これだけ「自然らしく」かつ「アニメらしく」仕上げるのは本当に細かい調整が必要なのだろうと思う。既存のアニメ制作の枠に囚われない原作者が監督をし、本人の中の理想と影響力もあって長年かけたからこそ実現出来た異例の作品かもしれない。その機会に「漫画絵の3Dモデルアニメ」としての最適解のようなものを示してくれたのではと思う。
(完全な別作品で厳密には人間の3Dではないが、エヴァ序破などはこういった3Dの作り込みが出来ていたように感じる)

全体を通すと原作好きの意見は様々あるだろうが、個人的には試合の出来だけでも必見と言える作品だった。特別泣いたりしたわけではない。ただ動きを見ていて楽しいというだけで数日で4回通ってしまった。食わず嫌いを乗り越えて劇場で見て本当に良かった。
劇伴や効果音なども良く試合への没入感が増すので、ドルシネなど音の良い環境での鑑賞をお薦めしたい。

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dyan