「誰のためのスラムダンクか」THE FIRST SLAM DUNK レビューに定評がある牧さんの映画レビュー(感想・評価)
誰のためのスラムダンクか
前提として、私はスラムダンクもバスケ(学生バスケもBリーグもNBAも)も全部好きだ。中学時代は2年生ながらスタメンで中体連に出場し、同点のフリースローを決めて沸き立つ会場の熱は死ぬまで忘れないだろう。
ローカルのバスケってしょぼいっしょと舐めていたBリーグも、観戦しに行ったら毎回手に汗握る展開を見せてくれて感動し、今では、特に河村選手のハイライトを毎日見るくらいには好きだ。
そしてスラムダンク。ブックオフで立ち読みした時は人目も憚らず泣いてしまった。ブックオフで読んだことを死ぬほど後悔した。それくらい好きだ。
そんな私の感想と考察。長くなるが見てほしい。
●感想
▪️いい点
1.オープニングがいい。
井上先生のようなスケッチタッチで選手が描かれて、満を持して山王戦とわかった時は脈が早くなるのを感じだ。
2.リアリティがある
おそらくモーションキャプチャーによるリアルな動きの再現、無駄なBGMの廃止、ドラマのような宮城の過去編、無駄にリアルな山王の応援、試合中の選手のセリフを省くなど、よりリアルに近い作品にしたい意図をすごい感じた。
新鮮なバスケアニメを観させていただいた。
ただ予告で流れていたリョータとソウタの練習風景とか波の動きとかちょくちょく手抜き、というか2010年ごろにNHKでやってそうなアニメレベルの部分がある。あれを予告で流すとそれは非難殺到というか不安になる。
試合のシーンは結構気合入っているから安心してほしい。
3.ラスト7秒の無音シーン
ここは丁寧に書かれていた。誰一人ポップコーンを食べることができないくらい息を飲んだ。
4.グッズがいい
無料で配られたコースターや、場所によるらしいが配布されたポカリとかも原作を知っていたらニヤリとするエピソード含まれていてグッド。
ただあれはないやろ。。。(後述する)
▪️悪い点
1.無理やり宮城メインにしようとして、他のキャラの心理描写や回想が省かれすぎてて、キャラの行動に深みが出ず感情移入できない。
ex.
○仙道との回想がないため、流川がパスをしたシーンが単純に沢北を抜けないからパスを出しただけに見える。またいかに沢北がすごいかの説明がほぼないため、終始流川が下手に見えちゃう(あっさりボールカットされるシーンとか。隙がねえくらい言わせてよ)。
○花道の試合に臨む覚悟やここまでの心情の変化やキャラの深掘りがほぼほぼないため、ただのキチガイに見える。机の上に上がって叫ぶシーンとか思わず「テクニカルになるからやめろ」って言いそうになった。
○三井が知らない間に疲れてる。ようわからん坊主キャラの、「お前のディフェンスがボディブローのように効いてきたな」の一言で済まされててみっちーかわいそすぎ。。。
○赤木が河田に立ち向かえるようになるために重要な魚住のシーンがクソみたいなオリジナルに変更。そして魚住はそれっぽい影になって観客に紛れるという扱い。
そんなもんだから流川と花道のハイタッチシーンもあまり感動できなかった。なぜならそれまで宮城メインみたいに書かれているから。あのシーンを見て「こんなもんか。。。」と心の中で言ってしまった自分に驚いた。
あげくハイタッチ後に照れてそっぽむいた二人に、他の3人が抱きつくシーンが何故か宮城だけが抱きつきにきて、遅れて残りの二人がゴキブリみたいによって来るようになっていたり、宮城がアメリカに行ってたりともうめちゃくちゃ。
そして映画を観終わった後に、グッズコーナーにて軽く扱われた三井や赤木のポスターを見たら彼らが不憫に思えた(しかし、なぜかTwitterでは「みっちーかっこよかった!」と三井のポスターを買っている人がいてびっくりした。よくあれでそんな感情が湧くな。)。
2.リアリティと山王戦というフィクションがうまく噛み合っていない
いい点でも書いたが、今回かなりリアリティを追求するような作品だった。
しかし、そのノリで山王戦をやることによって、迫力やストーリー性が無くなり、ただのバスケ観戦になっていた。
まして今回選手の紹介や回想が宮城以外皆無なので、そこまで感情移入できない人たちの試合を淡々と見てるように感じた。
これなら河村勇輝くんが高二の時の福岡第一と福大大濠の試合を見た方がよっぽど感動できる。
さらにリアルに書いているのに、前半がほぼカットで気づいたら三井が疲れていたり、急にチームメイトに浣腸したり机に登って叫んでいるのに退場にならない桜木、謎の悪魔が出てくる赤木などリアリティがないシーンが違和感でしょうがない。
これらを補うために、原作の記憶を呼び覚まし、常に脳内で都合よく補完する必要があるが、それって映画としてどうなの?だったらもう原作読んだ方がいいわってなる。
3.宮城の暗すぎる過去がちょいちょい挟まって試合に没入できない
そもそも宮城の過去つらすぎるやろ。。。。
ほんでその回想が試合途中に挟まってその度にこっちまで鬱になりそうになる。そこから唐突に試合のシーンに戻るもんだから試合に集中できない。
あと、私が20代後半で色々知ってしまっているということもあるのかもしれないが、こういうよくありがちな御涙頂戴エピソードが安っぽく感じた。100%アニキ死ぬやんという会話が繰り広げられた時は正直笑いそうになった。
4.製作陣の態度
今回製作陣の態度に疑問が湧くことが多かった。
まずは声優交換の炎上。
これは映画を観た後に知ったことだが(幸運なことに)、上映前にだいぶ炎上していたらしい。原因は前売り券のキャンセル期間が切れた後に声優総とっかえのニュースを出したから。
そら炎上するわ。
そして私が個人的に憤慨したのは、三井のスリーポイントが入った時の音だけを入れたCDがグッズとして販売されていたこと。
いや顧客なめとるやろ?
こんなレベルのものをグッズにして出す価値があったのか。「この音だけでも三井好きは買うっしょ!ネタにもなるし!」という顧客をなめた考えが透けて見えた。
しかし、普通にTwitterで買っている人がいてびっくりした。私が神経質なだけか?
総評として、全員主役と言っていい山王戦を宮城主役にしようとしたり、山王戦という素晴らしいフィクションをリアリティバスケクリエイションにしようとするなど、真逆のことを詰め込もうとして(しかも2時間半で)、結果全てがうまくいかずチッチッチグハグしてしまったように感じた。
新規の人が見たらなんの説明もなく試合が始まるのでなんのこっちゃわからんし、古参からしたら足りないものと余計なものが多すぎて、満足できない。一体誰のための作品かわからない。
これなら山王戦の試合前夜から描いて完全再現か、完全オリジナルで宮城の深掘りだけとかにした方が良かった気がする。
●考察
ここでは二つの考察をする。
と言っても考察というより、憶測というか邪推というかそういうのに近く、決して信ぴょう性のあるものではない。
感想の続きみたいなものと思って読んでいただきたい。
1.一体なぜこんなことが起きたのか
今回COUTE SIDEという制作スタッフや監督のインタビューが載せられているページが公式サイトにあるのだが、ここを見て合点がいった。
内容としては、今回の映画を作るにあたって、いかに苦労したかをつらつらと書いているものだった。それも17ページも。
これをみてこの作品は、監督とスタッフの072作品で、自分たちが作りたいものを作りたかっただけなのかなと思ってしまった。それだとなんの説明も無しに試合シーンに入って新規は置き去りにするし、古参向けでもない内容にしたこともうなずけるか。
誰のための作品か。その答えは、監督井上雄彦と制作スタッフのためだったのかもしれない。
まあ、知らんけど。
2.なぜか絶賛の声ばかり
正直私としては映画の途中で、「あー、これはとても残念な映画だ」と思ってしまった。初めて映画の途中で帰りそうになった。
こりゃめちゃくちゃ酷評されるだろうと思ってTwitterを見たら意外と絶賛コメントだらけ。
さらに私の友人も最高だったと言っていてびっくりした。
嘘だろ。。。
そこからTwitterやYoutubeで様々な人の感想を聞いたが、実に面白いことに完全に絶賛か最悪かの二つに分かれていた。しかもその割合は99:1くらい。
私がイカれているのか?と疑心暗鬼に陥り、割と二日間くらい引きずっていたところで例の炎上を知り、おそらく本当にスラムダンクが好きなコアなファンはあの炎上を見てそもそも観に行っていないんだろうなと予想ができた。
ただ、にしても絶賛する人が多い。私としてはこの映画がなぜ絶賛されるかわからず困惑した。そこでしらみ潰しに絶賛しているコメントを読み漁った。
そして分かったのは、絶賛している人がとにかくいい奴そうだったことだ。細かい問題点はありつつもそこを容認していいところ褒める、そういう人たちだった。
ただスラムダンクの映像を見れただけで嬉しい。三井がスリーを打っているだけで格好いい。宮城最高。学生時代のバスケの試合を思い出した。
なんて純粋でいい奴らなんだ。。。
私は理解した。今回の映画を楽しめるのは「いい奴ら」だ。
私のように細かいところが気になったり、こんな長文のレビューを書く陰湿なやつはお呼びでなかったのだ。
だからみんなに言いたい。この映画を観て最高だと言っている友達がいたら、一生大事にしたほうがいい。絶対いい奴だから。
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実はこれでもかなり甘口で書きました。本音を言うと後悔しかありません。
なぜ俺はあんな無駄な時間を。。。
絶賛が多い。その理由は観に行った人が「細かい問題点はありつつもそこを容認していいところ褒める、いい人たち」が多かったから。。
いや、まさに! 最初サクラ?と思いましたが、単にいい人たちのようですね。
腹落ちしました。
※チッチッチグハグ ・・・ ほおこんなのあるんだ。勉強になりました(笑
レビュー読んで全く同じ気持ちだったので思わずコメントしました!
僕のまわりも絶賛で、あれ?自分だけおかしいの…?と思ってTwitterで調べても絶賛の嵐で、結構落ち込みました…。
あらためて漫画全巻読み返しましたが、やっぱり映画の事は記憶から消そうと思いました。
早く上映終了して欲しいです。