ファーザーのレビュー・感想・評価
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恐れ
その心許なさ
ロンドンで一人暮らしをする老人アンソニーをアンソニー・ホプキンスが、オリヴィア・コールマンがその娘を演じる。
薄れゆく記憶、住み慣れた家を離れ、1人施設で生きる事の心許なさ、侘しさ、孤独感…。嗚咽する姿に胸が詰まる。
BS松竹東急を録画にて鑑賞 (吹替版)
事実と妄想 主人公の体験を追体験しているような感覚
本がいい。演技がいい。
気持ちを共有する事で解る、認知症という難病
何が何だかわからない辛さ
認知症目線で、介護される側の気持ちを体験できる。
介護が大変であることは当然知られているけれど、認知症の人自身の混乱や辛さをここまで感じたのは初めてだった。何が何だかわからないということが、どれだけ辛いか。誰にも理解されず、違和感を感じながら生きること…
とても手厚い介護をしてくれるところだから、娘はかなり頑張って高額な施設を選んだんだろうなと思った。
娘も日々を捧げて尽くしても、なかなか届かない気持ちも辛い。
誰も悪くなくて、ただ辛い最中にいることが苦しい。
もし家族や自分がなったらどうしたらいいか、つい考えることも逃げてしまうけど、考えておいた方がいいよなあと思ったり…
将来、認知症が治る病になったら、どれだけ多くの人が救われるだろうか。どうか、開発されたらいいなと願ってしまう。
そして、最後のシーンで『ママに会いたい』という顔が、父親ではなく、子どものような顔になっているところにゾクゾクさせられた。さすが名優、という言葉では足りないくらい、すごいお芝居だった。
完璧
記憶の構成、危うさ、そして音楽の美しさ
他のレビューでも指摘されているけれど、認知症の患者の眼に、毎日がどう映っているのかが、ミステリーのトリックのようにほんの少しのヒントを含みながら危うくつなげられていく。
でも、人間の記憶ってほんとうはこんなふうにあったかどうかわからない思い込みで事実の隙間を埋めて成り立っているのかも、ね。
監督兼原作者のゼレールは、自分のオリジナルの舞台脚本を、わざわざアンソニー・ホプキンスに当て書きをし直して映画に仕上げたのだそうだけれど、当のホプキンスは自分の父親を真似て演じ、そのためとても「楽だった」そう。なんとも言えないオチがついた。
音楽が素晴らしい。まだ理性を保っているうちは、アンソニー(役名もこれ)はパーセルの『アーサー王』のやうな、なかなかに通っぽいオペラばかり聴いている。
でも次第に、それぞれの事実をつなぐ記憶が途切れてくると、いつの間にか音楽はミニマル・ミュージックのような、静かに抑えたピアノの響きだけになっていく。
作曲はルドヴィコ・エイナウディ。微かな音が、あちこちから湧いてくる記憶の糸のように繊細に響くピアノ。それからデゥィド・メンケ。病院(施設?)の現実をあらわすかのような冷たい、硬質な響きの音。
2人とも名前は初めて知ったけれどかなりのアルバムが配信されている。聴くのが楽しみ。
他人事ではない
観ている人間が認知症になった時の苦しさを疑似体験でき、ミステリー映画様で真偽の推理も楽しめる
フロリアン・ゼレール 監督による2020年製作のイギリス・フランス合作映画。原題:The Father、配給:ショウゲート。
楽しくなる映画ではないが、認知症のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)視点で物語られ、観ている人間が認知症になった時の苦しさを疑似体験できる凄い映画であった。ぜレール監督による原作戯曲が元らしいが、とてもよく練られた脚本(ゼレール監督及びクリストファー・ハンプトン)と思えた。認知症が進むと、今居る場所が分からなくなり、誰が誰かが混乱してしまい、時間の観念や大きな出来事の記憶さえ消失してしまうのか!誰もが成り得て、本人に悪気は無いだけに、悲しく、そして苦しい。
加えて、サスペンス調映画でもあり、事実が何かという推理を楽しめる映画(自分の場合はそれは視聴2回目で初めて可能であったが)でもあった。
長女はオリビア・コールマン(アン)で、そのかつての夫はジェームズ。今の恋人がルーファス・シーウェル(ポール)。長女より可愛がっていた次女(ルーシー)は、事故で次期不明ながら既に亡くなっている。ここまでは、明確な事実。
アンソニーはアンの家で一時的ということで暮らしていたが、長期になりそのストレスからかポールは随分と苛ついていた。その後ヘルパー・イモージェン・プーツ(ローラ)が面倒を見てくれていて、アンソニーは次女に似ている彼女を気に入っていた。但しローラーに関しては、真偽がかなり自分には不明。
しかし、アンに新しいパートナーができパリで同居のため、アンソニーは老人ホームで暮らすことになった。マーク・ゲイティス(ビル)とオリビア・ウィリアムズ(キャサリン)はその老人ホームの介護職員。これも事実。ただ、マーク・ゲイティスによるアンソニーの殴打は事実か妄想なのかも自分には不明。アンソニーの妄想の可能性の方が高いとは思うのだが。
長女アンの長年の介護の徒労感も見事に表現されていて感心させられた。献身的に介護しているのに、妹への愛情は表明されるが自分への愛情表現は殆ど無し。さんざん苦労して探してきたヘルパーも何人も追い出してしまう。挙句の果てに、娘の自分さえ誰か分からない反応を示す。首を絞めたくなる気持ちも共感できるところ。そうした、介護に苦しんできてる家族の割り切りと新たな人生への再挑戦を示した映画でもあった。
監督フロリアン・ゼレール、製作デビッド・パーフィット 、ジャン=ルイ・リビ 、クリストフ・スパドーヌ 、サイモン・フレンド、製作総指揮エロイーズ・スパドーネ 、アレッサンドロ・マウチェリ、 ローレン・ダーク オリー・マッデン 、ダニエル・バトセック 、ティム・ハスラム 、ヒューゴ・グランバー ポール・グラインディ。
原作フロリアン・ゼレール戯曲『Le Père 父』、脚本クリストファー・ハンプトン(1988年『危険な関係』ではアカデミー脚色賞) 、フロリアン・ゼレール、撮影ベン・スミサード、美術ピーター・フランシス、衣装アナ・メアリー・スコット・ロビンズ、編集ヨルゴス・ランプリノス、音楽ルドビコ・エイナウディ。
出演 アンソニー・ホプキンス:アンソニー、オリビア・コールマン:アン、マーク・ゲイティス男、イモージェン・プーツ:ローラ、ルーファス・シーウェル:ポール、オリビア・ウィリアムズ:女、アイーシャー・ダルカール:サライ医師。
認知症目線の作品
過不足なく認知症そのもの。
何もかもがすべて、認知症の方そのもの。
特有の目の感じまで、そのもの。
アンソニーホプキンスは誰かを参考にしてアンソニー役を演じたのかもしれないが、本当に認知症なのではと疑ってしまうほど。
健常者から見ると十分攻撃的な時もあるが、これはレビー小体型ではなく、アルツハイマー型。
作品内は認知症の認知世界で描かれているため、時系列が思い出す順で、バラバラ。
娘のアンを思うと、認知症になった父親に悪気は一切ないだけに、吐き出す場もなく、本当に気の毒で。
時系列順に並べてみると、おそらく下記の流れだろう。
幼い頃から姉妹のうち姉のアンよりも妹のルーシーの方をアンソニーは可愛がっていた事がよくわかる。
ルーシーは容姿も可愛らしく、画家になり、アンは馬鹿扱いされていたが、ルーシーは事故で亡くなった。
その後痴呆になったアンソニーはしばらく独り暮らしをし、アンは仕事をしながらほぼ毎日通って面倒を見ていたが、大変なのでヘルパーさんにも来てもらう事に。
ところがアンソニーは癖がある性格で、言葉を選ばないところがあり、どのヘルパーさんも長続きしない。
良いヘルパーさんとも揉めてしまったため、アンは夫とイタリア旅行に行くはずが旅程をキャンセルし、次のヘルパーさんが見つかるまで、アンソニーは長年住んだフラットからアン夫婦の自宅へ。
そのまま同居となる。
アンソニーがいる暮らしが長く続き、アンの夫は我慢の限界を迎え、アンは離婚。
その後しばらく、アンの自宅でアンソニーは暮らしていたが、アンにはフランス人のパートナーができて、いよいよアンソニーは施設に入る事になる。
施設に入る頃には認知症もかなり進行していて、職員や医師のことも毎日忘れてしまうし、かなり幼児退行が進んでいる。周りが誰か自分が誰か、どこにいるかもわからない、怖いからママに迎えに来て欲しいと泣きつく。
この間、15年くらいだろうか。
元エンジニアだったアンソニーは快活でよく話す、冗談好きで陽気な性格だったが、認知症になると、言っていいことと悪いことの線引きができなくなってくる。
そのダダ漏れする心の声に、アンがどれだけ傷付くか。
はじめのうちは理性がまさり、忘れてしまっても尋ねては失礼だと躊躇し、遠回しに聞いたり、わからなくても悟られないように話すが、言葉も態度も場面に合わせた適切な選択ができなくなり、分別がつかなくなっていく。特有の、物の場所を把握しきれなくなり、あると思った場所にない=盗られたと言い出す症状も。
思い出すのは、人生で強く気にかけている事ばかり。
つまりは次女のルーシーや、ルーシーが描いた絵、いつでも旅に出られるように肌身離さず着けていたい腕時計など。毎日十何年も見てくれているアンは出てこないのが酷。
しゃんとしていた時を知っているからこそ、進行が悲しいが、元々そうではないと知っているからこそ、嫌いにはならない。
ただ、他人は認知症慣れしていなければそれがわからないから、なんで酷い人なんだと、アンの夫のように腹を立ててしまう。
昔からルーシーばかり可愛がられていて複雑な気持ちも抱えつつ、アンはアンソニーの認知症進行を大きく受け止め、長年生活を合わせ、周りに理解者がいなくても心の整理をし、とても優しく、できた人。
そのアンが、初老に差し掛かるくらいの年齢にも関わらず、髪型が短いことを父親に褒められただけで、ものすごく嬉しそう。
笑顔が、いかにこれまで褒められてきておらず、幼少から妹ルーシーとの扱いの違いを我慢してきて、なのに介護を一手に引き受け、夫や人生を犠牲にし、それでも認知症の父親を受け止めて向き合っているか、全てを物語る描写。とても印象に残った。
作中、アンソニーが相手が誰かよくわからない時に出てくる、シャーロックホームズでホームズの兄マイクロフトを演じるマークゲイティスが余計に、アンソニーが認知症として認知する世界の、不可解で何が何だかわからない怖さ不気味さを助長する。
身近で認知症の過程を見たことがあれば、誇張も何もなく、そのものなことがわかるはず。
自分もいつかなるかもしれない認知症の世界の視点で、実際に認知症の人に携わった時に、心情や進行度を理解し、寄り添える人間でありたい。
身近な人が密かに始まっている時にも、気付けるようでありたいとも思う。
老人の孤独感
ミステリー映画
残酷なまでに疑似体験させられる
混乱し迷路を彷徨う当事者の辛さ、苛立ち
面倒をみる家族やその近い関係の人たちの辛さ、苛立ち
介護の経験はないが祖父母や
これまで会話をした年配の方々
アンソニーの仕草や様子の全てが
よく知っていた光景だった
あの時のあの人たちの混乱した様子や
寂しそうな目や孤独を知って涙が止まらなかった
今どこにいて何をしているのか
腕時計を見て時を把握する
それだけで孤独な自分は少しは落ち着くと思う
娘と笑い合ったり、感謝の言葉を述べたり
アンの涙を拭ったりする父としての優しさ
日々忘れることが多くなり混乱している一方で
まだいるアンソニーの中の父としての在り方にも涙
最後は胸が辛くなる子供返り
キャサリンが優しい介護士でよかった
高齢化が進んでいる今の日本
自分も同じくらい歳を取ってから理解するのでは遅い
現代の人に観て欲しい一本
これを観るだけでどれほど歩み寄れるか
歳をとるまで理解し得なかった感情を何十年も早く
疑似体験させてくれたアンソニー・ホプキンスの
名演技に感謝し、拍手を贈りたい
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