劇場公開日 2021年5月14日

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「記憶の実体験」ファーザー シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0記憶の実体験

2021年5月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「また認知症の映画か、もうこの手のテーマの作品をどれだけ観てきたろう」と思いながらも、評価が高かったので久々に劇場鑑賞しました。
しかし、今まで観てきたこの手の作品を振り返ると、大半は第三者目線からの作品だった筈で、本作の様に認知症の本人目線からの作品は恐らく初めて観た気がします。
観ていてそれに気付いた時に、メチャクチャ面白くもあり恐くもある作品となりました。
冒頭からスクリーンに映し出される画面が凄く凝っていて、観客が徐々に感じる違和感が、主人公の疑念とシンクロして行く感覚があり、これってサスペンス映画なのか?と思える位、誰かに騙されているのか自分が狂っているのかの判別がし難く「ああ、認知症ってこういう感覚でなって行くのか」と凄く説得力を感じました。この辺りの演出力は凄いです。
昔からよく見ているヨーロッパ映画に描かれる都会にあるちょっと上流の家って、我々日本人から見ると大体同じ様に見えて、最初の違和感は間取りや各部屋が、絶妙なカメラワークでよく分からなくなっていました。
飾っているインテリアや絵画もカメラが動く毎に絵や置物が違うモノの様に見えて来て、私は特に絵が好きなので無意識に見ていたのですが(1枚を除いて)毎回別の違う絵が飾られている様な気がしたかと思うと、急に娘の顔(役者)が変わったり、主人公の家だと思っていたら娘の家だったりと、主人公と同じ混乱を観客にも追体験させる構成は見事でした。
自分を守ってくれている記憶という名の壁が、少しずつ少しずつ壊れて行く様が、主人公(観客)の恐怖に繋がって行くという、この構成(アイデア)だけでも作品価値があると思いますが、更にアンソニー・ホプキンス含め役者の名演もあり記憶に残る作品となりました。

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シューテツ