劇場公開日 2021年3月12日

  • 予告編を見る

「アメリカ人向けの描写が詰まった映画」アウトポスト ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0アメリカ人向けの描写が詰まった映画

2021年3月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 最初は、どうしてそんなところに基地作るの?と思ってしまった。後で少し調べてみると、脆く急峻な岩山の尾根は駐留に不向きで、一等地には現地の住民が住んでいるからああいう場所に基地を設営するしかなかったようだ。
 前振りテロップが投げ掛けた「実話に基づく」という言葉が、見ているうちにどんどん重くなる。
 いつ死んでもおかしくない状況は戦場の常とは思うが、舞台のキーティング基地は視覚的にもそれがあからさまなので、どんどん兵士が傷つき死んでゆくのを見ていても悲しさやつらさより虚しい気持ちの方が強かった。そりゃ死ぬよ、という。

 そんな蟻地獄のような基地においても隙あらばちょっとシモなアメリカンジョークが飛び交い、仲間同士の軽い小競り合いがあったり、次々代わってゆく上官の人柄に時に不信感を抱いたりする。微妙に統率の取れていない様にこちらの不安感が少し上積みされる。
 前半は何か大きな物語の展開を追うというより、そんな仲間内のやり取りの様子と唐突なタリバンの攻撃の積み重ね、後半はタリバンの総攻撃を受けての激しく生々しい、長時間の戦闘。囲まれた斜面のあちこちから雨のような銃撃を受ける恐怖は映画館ならではの臨場感だ。

 エンドロールの後に、モデルになった兵士たちのインタビューがしっかり尺を取って流された。本編では描写の少なかった彼らの素直な恐怖心が伝わって来る。クライマックスのひとつと言ってよいインパクトだ。
 インタビューを受けた兵士が、本編に本人役で出たと言っていて本当に驚いた。メンタル大丈夫なのだろうか。アメリカだなあ……。

 戦場の死の大半は虚しいと思ったものの、反戦映画を目指した作品とは思えなかったし、かといって兵士の勇ましさを讃える気分にも何故かなれない。アフガニスタン戦争が今も続いていることを思うと、戦場アクションと割り切るのもためらわれた。
 タリバン側の描かれ方が類型的で人間味がなく、アメリカ=善がタリバン=悪と戦ったという図式の中で展開したことが、宙ぶらりんな気分の原因かも知れない。
 不適当な表現かも知れないが、何だか昔の西部劇に登場するネイティブアメリカンの描写に近いようにも見えた。戦争が終わっていないから、タリバン側の正義を描くわけにはいかないのだろうが。
 アメリカ人は後半の展開で米軍万歳!となるのかな。

 描き方の良し悪しというより、アメリカ人のために国内向けに作られた映画を観る機会にあずかった、そんな感じだった。

ニコ