アンテベラムのレビュー・感想・評価
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納得の構成
本作はホラー映画としてではなく、人種差別をテーマとした社会派ミステリーとして鑑賞するべきだろう。ジョーダン・ピール製作の作品は毎度人々に巣食う差別意識を徹底的にまで洗い出した内容の物だが、それを改めて具体的に表したのが本作なのだろうか。
まず、本作はネタバレ厳禁である。それを知ってからと知る前では、明らかに衝撃度が変わってしまうから注意が必要だ。
「ゲット・アウト」や「US/アス」の様に、複雑な物語の構成で最後に衝撃を与えるような作品とも違い、映画としての基本的な部分を省略することで観客が感じることの出来る衝撃を用意している。少々日常シーンの尺が長く、こちらが期待した様な急展開が中々描かれないのがもどかしいが、油断をしていると最後の最後で大きな衝撃を喰らうことになる。
設定としてはあり得ない事かも知れないが、平和ボケした我々日本人とは程遠い生活を送っている人々がいるのは事実だ。これまでも多くの人々が様々な形で迫害を受けている。本作で描かれる強者と弱者の扱いの違いや圧力は、それらのほんのごく僅かな部分に過ぎないだろう。そんな事を考えさせられる様な稀な作品だ。
実はKKKみたいな連中を喜ばせているんじゃないかと
1800年代、南北戦争の頃、奴隷にされる人々が...と思いきや、現代でも黒人が直面する苦難を見せて、意地の悪い伏線を沢山張りつつ、アメリカなんて所詮こんな国なんだなぁと思わせつつ、人種差別への嫌悪を滲ませる。
エレベーターに現れる少女など、何やら時空を超えたシャイニング的ホラー展開か?と思わせたりして観客を戸惑わせるが、こういうのは良くない。実は戸惑わせているだけで映画を薄っぺらくしている。もうちょっとストレートな脚本で勝負して欲しかった。
苦々しい人種差別をエンターテイメントに絡ませてみせても、ブルーレイを買ってまた観たい!とは思わない。実はKKKみたいな連中を喜ばせているんじゃないかとも思えてくる。
終盤のカタストロフィ感にスッキリさせられるが、最後の長い長いスローモーションは意味不明だし、最後に何も語るものが無いのをごまかしたように見えてしまった。
傑作。
アメリカの歴史の闇を描きながら、
今、現在もこの作品同様のことが起きていそうな
ところがとても怖くなっている。
ストーリーにはあまり触れないようにしておきます。
驚くようなことがあるので、とにかく観てほしいと思います。
まるで、実際に起こった事件を目撃しているような
気持ちになります。
奇想天外
白人至上主義かつ南軍マニアが奴隷制度を現代に再現し黒人を誘拐してプランテーションでこきつかう──という話。
社会派な内容なのにめくるめく興奮のホラー/スリラーになっている。いちおうレビューしてみるがこの映画の妙味を表現できるとは思わない。
映画は19世紀(南北戦争のころ)の気配ではじまり、てっきりそんなつもりで見ていると、ちがうのは時間じゃなくて場所だということがわかる。その奇想天外のプロット。鑑賞中じぶんの胸がどきどき言っているのがじぶんでわかった。
(これを見ながら)映画は言いたいことを娯楽にトランスフォームするひつようがあること。それができるあたまのいいひとがつくるもの。──だと(いつもながら)思った。
たとえばゲットアウトは黒人差別をカリカチュアしていた。透明人間はDVに着眼していた。プロミシングヤングウーマンは女性蔑視を警告していた。でもエンタメになっていた。社会派でございますよ──てな皮相はまったくなかった。本作も白人の優越を皮肉しながらかんぜんにエンタメしていた。撮影もVivid。すごい映画だった。
が、この映画、海外評価は低い。
わたしは本作に感動したが、いつもはIMDBやRottenTomatoesの値に準ずる評価をする。IMDBやTomatoesの値とじぶんの評価が乖離していることはめずらしい。
それゆえ、なぜこの映画が海外(IMDBやTomatoes)で低評価なのか、Tomatoesの批評家たちの言い分からさぐってみた。
映画にはあらゆる公民権映画のなかでもっとも苛烈といってもいい黒人蔑視描写が出てくる。
そのプランテーションで黒人は(白人の許可なければ)しゃべってもいけないしどんなことにも隷属させられ焼き印を入れられ慰安をさせられ脱走がばれると射殺される。
その過剰な加虐描写が悪趣味だと言っている批評家は多かった。
たしかにゲットアウトの洗練された皮肉にくらべると露悪的だった。
批評は主演のJanelle Monáeの演技が褒められていたこと以外はバラバラで、正直なぜこれが酷評されているのか、その最大要因はよくわからなかった。だから予測になってしまうがおそらくBLM(ブラックライヴズマター)と被ったことで黒人を虐める映画に一種の「疲れ」があらわれた結果ではなかろうか──と思う。
日々BLMのムーヴメントに晒されている環境(アメリカ圏)では過剰な黒人いじめ描写に疲弊するのはとうぜんだろう。畢竟BLMを知らない極東のアジア人のわたしにはいい映画だった──というわけ。
監督はこれが長編一作目。Gerard BushとChristopher Renzという黒人と白人の異色コンビ監督だった。この二人は今後、アスターやピール、ワネル、ミッチェルのようなすごいホラー/スリラーをつくると思う。
シャマランも過去の人
半分ぐらいまで、差別の非道さに目を奪われながらも、心底では何がなんだかわからなかった。
それ以後の怒涛の展開はキレキレで圧巻。
シベンジアクションの小気味よさは「ゲットアウト」に勝るとも劣らない。
結局サイコーでした。
この二人はこれから映画界席巻するでしょうね!
すごかった
過去の人物とリンクする話なんかと思ってたら、現代のレイシズムてんこ盛りやったってゆー仕掛けに、スマホが出て来るまで気づかんかった。
綿花を燃やしてるように見えたけど、なんか意味あるんかなとか引っかかりはあったけど、全然想像してなくて、今も変わらず地獄は続いてたってゆーのが辛いし悲しいし怒りでどうにかなりそうやった。
実際、BLMが象徴するように今でも黒人差別は残ってるし、アメリカだけじゃなくて世界中に差別はあるし。
実話ベースやったりする映画が多い中、ナチに対するイングロリアスバスターズみたく、黒人がレイシストに対して暴力で復讐する映画があったっていいし、それが出来るのがフィクションやから、作られた意義がある作品やと思う。
現代と過去の黒人女性の視点が交差し、リンクする新感覚スリラー!!
タイムスリップして過去に戻りたいと言う人もいるかもしれないが、アフリカ系アメリカ人においては少し違ってくる。
アメリカ映画において、タイムスリップ映画といえば、主役は白人が相場となってくる。それは黒人を主人公にしてしまうと、エンターテイメントとして消費できない人種問題が関わってきてしまうからだ。
マーティン・ローレンス主演のコメディ映画『ブラック・ナイト』の場合は、14世紀のヨーロッパにタイムスリップするという設定。人種差別という点では、あやふやに描かれていた部分もあったが、比較的近年のアメリカとなれば話は別。
『ブラック・ナイト』のようにぶっ飛んだ設定だったり、30年ぐらいのスパンであれば、良くも悪くもあまり変わってないかもしれないが、50年以上前となってくると、「公民権運動」「奴隷制度」などの問題が色濃く反映されてきてしまい、事情がかなり変わってくる。
今作で描かれるのは、対照的な2人の黒人女性の物語。
現代の人種問題について研究する社会学者ヴェロニカと150年前の南北戦争前の南部奴隷農場に囚われているエデン。
どちらも歌手であり、映画『ハリエット』においても南北戦争時代を生きた女性を演じたジャネール・モネイが1人2役を演じ、この2人のキャラクターの意識がリンクする部分が今作の見所である。
そこには、ある事実やギミックが隠されているのだが、「白人至上主義者」というのは、現代においても表に出さないだけで、心に潜む潜在的な概念として根付いてしまっている者もいれば、保守的な場所では、差別的態度をあからさまに表に出す者もいる。
「奴隷制度」が当たり前とされていた頃は、それが堂々と行われていた時代。白人の中にも「支配欲」「所有欲」といったものを黒人奴隷に対して見出していたこともあり、差別を行っていた白人の概念を狂わせてしまったことを思えば、「時代」が作り出してしまったものであり、その潜在的概念が自然に受け継がれてしまった現代人もいることを、対照的な時代に生きる黒人女性の視点から描くことに今作の意義があるのだ。
BLMが騒がれる昨今、映画やドラマとしても様々なアプローチがされてきた。
プロデューサーのショーン・マッキトリックは『ゲット・アウト』も手掛けただけに、今回も共通するテーマも感じる部分があるのだが、人種差別問題を誇張されたホラーやサスペンスに置き換えることで、より問題点が浮き彫りになる。
描かれているテーマとしては、決してエンタメ映画として軽く観るジャンルではないが、ストレートに人種問題映画としてしまうと、社会問題色が強調され、敷居が高くなってしまう。
『クィーン&スリム』やアカデミーを受賞した『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』であっても、日本では劇場公開されない。日本がそういった人種問題が身近ではないこともあるのだろうが、これは他国でも同じ。
幅広い層に、改めて人種問題について考えてもらうには、こういったハイブリッドな作品にする必要があるということだ。
結末を知ったうえで、もう一度観ると、さらにこの作品の深さを感じることができるため、2度鑑賞することをおすすめしたい。
社会風刺
予備知識なくふらりと映画館に入ったおかげでトリックを堪能することができたが、これは反芻したくなるような唸るような巧妙さとはまた違う、一度きりの瞬間芸の面白さだ。内容は社会風刺と受け取れた。人種や性別の垣根は未だ根深く脈々と続いているものなのだということが分かった気がする。
ちょっとユニークなサスペンス
ポスター見て「また主役だけが有名俳優の黒人のホラーか」と流そうとしていたが、ふとあるところで映画評を見て、単純なホラーじゃないのだと知って鑑賞。
「ドリーム」の役柄とオスカー授賞式でのパフォーマンスで、私の中では明るくてファッショナブルでオキャンなイメージだったジャネール・モネイが、18世紀のノーメイクの奴隷と現代の成功した女性を交互に演じる。
時代は変わっていて、もうココでは人種差別なんか通用しないよ。と思ったら大間違いで、突然奴隷時代に引き戻される。でもスマホを使っていて、タイムリープにしては変…⁉︎
なかなか面白かった。
【"忌まわしき過去、思想は、決して死なない。"構成の妙に唸らされた作品。KKK思想が無くならない現代アメリカに強烈な怒りと警鐘を鳴らす作品でもある。】
"アンテベラム:アメリカ南北戦争以前を示す言葉”
ー 南軍の旗が掲げられた綿花農場で、自由に話すことを禁じられ強制労働をするエデン(ジャネール・モネイ)達の姿を見て、「ハリエット」や「それも夜は明ける」を想起したのは、私だけではないであろう。ー
<Caution !内容にやや、触れています。>
・男性優位社会における黒人女性の地位について、舌鋒鋭く語る現代作家ヴェロニカ(ジャネール・モネイ)の姿とエデンの姿の対比。この時点で、私は見事にミスリードされていた。
・構成と脚本のトリックに、もしや?と気が付いたのは、現代パートで南軍の高圧的な兵士を演じた俳優が居た時点である。
・そして、驚きの後半の展開。目が離せない。グイグイと物語に引き込まれていく。
<ジェラルド・ブッシュとクリストファー・レンツ共同監督の見事な二つの世界を一気に一つの世界に収斂させる手腕には、脱帽した作品。
そして、見る側は、”南北戦争から150年経っても、世界は何も変わっていないのではないか!”という想いに駆られるのである。>
<2021年12月12日 刈谷日劇にて鑑賞>
現実にあり得なくない、と思わせるリアリティがマジで怖い
ネタバレ厳禁のトリックありきの映画でありながら、決してトリック頼みではない、筋がしっかりとした良質のサスペンス
冒頭の古きアメリカ南部のシーンのリアリティが、この映画の成功のカギだと思う
謎が解けた瞬間に鳥肌がたった
何より怖いのは、今現在、アメリカのどこかで同じことが行われていても不思議ではない、と観賞後に思えたこと
そう思わせるほど、良くできた映画でした
現実的な怖さ
上映期間中に駆け込みで見れて良かった。
ネタばれなしで見るのが最良。
日本に住んでいると意識しないが日本人も立派な非白人なんですよね。
(過去の黄色い猿呼ばわりを見ても)
白人至上主義者にとっては白人以外(日本人含む)は人間ではないのでしょう現在でも。
パンフレットも良くできていた。
誰かがスマホを鳴らしちゃったのかと…
時は現代。リベラル派の作家として地位を確立する女性、ヴェロニカ。
時は南北戦争時代。南軍の白人達に奴隷として虐げられる女性、エデン。
見た目は同じ顔でありながら、真逆の境遇にあり、立場を超え、そして150年もの時も越え、2人の心と体がシンクロし、やがて壮大なクライマックスを迎えるタイムサスペンスムービー‼
…と、思うじゃん?
蓋を開けてみれば、これが中々、人種差別や復讐心を複雑に織り交ぜた闘う女性のドラマ作品だった(そこかいッ!!)。
序盤からエグい展開。自分の名前くらい言えばよいじゃん‼なんか奇妙だな、なんて思ったが…。成程。状況が分かってからも、よくある洗脳や記憶喪失ではないことに驚き‼思えば色々な伏線があったのかな。喋ることを禁止されていたのも、寧ろ「我々」へのある意味配慮だったのかな?なんて思ってしまう程。
その他にも、人種問題や女性軽視への切り込みも中々。
何気ない女子会でも、友達って所が引っ掛かる…って、あなた達の中でもそういう意識は何だかんだあるのね。ここにはハッとさせられた。酒のプレゼントに上から説教してくるのはイライラしたけどw
そしてエリザベス、この狂気は良かったですね。彼女は彼女で、尻拭いはいつも…なんて、思う所がある模様。そういった点でヴェロニカと分かり合えたりは…しないか。。
最後はちょっと微妙かな。どれくらいの敷地なのかわからないけど、そんな場所じゃすぐバレちゃうのでは??ここはちょっと拍子抜けだったかも。
それでも、全体を通し社会的な問題を投げかけるとともに、映画作品としてこちらを驚かせてもくれるし、エグい仕返しもあり良かった。変に一方を寛大な正義みたいに描くのは好きじゃないしね。とても良い作品だと思った。
思えば、怒っているようにしか見えなくても、実は怯えているだけ…ってのも、広義的な伏線だったのかな。
だって、途中までは絶対そういうシチュにしか見えなかったもんw
中々の良作でした♪
今、そこにあるレイシズム
「アンテベラム」ドラマ「地下鉄道」で描かれた様な強烈なレイシズムの描写から始まり、レイシズム、セクシズムに抗おうとする人たちを憎悪する連中の狂気も描かれていた。現実にいる連中だよね、BLMに憎悪を燃やしていたあの顔この顔。そしてスリラーとしても一級作品でした。
この映画、いろいろと伏線があるんだけど、ジャネール・モネイ演じる2人の主人公のひとり、ヴェロニカの部屋の様子はしっかり観ておいた方が良いですね。
【アメリカの分断】
こうした作品が制作されて世に出るほど、アメリカのリベラルな人々と、白人至上主義者達の分断は、埋めることが出来ないほど根深いのだろうか。
トランプ支持者や、Qアノンは発狂しそうだなとか、一度は、笑ってみたものの、よく考えると、かなり暗い気持ちになる作品だ。
この作品を観たアメリカ人は、どう感じてるのだろうか。
トランプ支持者や、白人至上主義者が観ると到底は思えないが、Qアノンは、例の如く、陰謀だと騒ぎ立てているのだろうか。
(以下ネタバレ)
物語は、一言で言うと、”ナイト・シャマラン的”だ。
彼の作品の中では、かなり好きな方の「ヴィレッジ」を思い出す。
この「アンテベラム」は、途中で、この作品の仕掛けが分かるように描写が配置されているが、その動機など全貌は分からないままになっている。
所詮、こんなことを考える人間の頭の中を全部理解するのは不可能だと言っているようにも思える。
首謀者が上院議員という設定も、結構攻めているなと思ったりしたが、かなりのロングランの映画「American Utopia」で、亡くなったかなりの数の黒人の方々の名前がシャウトされたのを思い出して、やむを得ないのかと考えたりもした。
差別主義者や、人種主義者に言い分があるとは思わない。
僕のオフィスのネット右翼のおっさんは、昔、在日韓国人の人に嫌な思いをさせられたと動機を話していたが、彼は、中国人も嫌いだし、イギリスのEU離脱や、トランプ政権の誕生を目撃して、新しい世の中が来ると嬉々とし、安倍チーン三は知能指数が高いと言っていた。
合理性など、どこにも存在しないのだ。
だから、こういう人間に政治や組織の運営を任せられないのだ。
世の中は、以前にも増して、急速に、自動化や、IT化、あらゆる分野でのAIの活用が進んでいる。
差別や人種主義に勤しむのは止めにして、もっと勉強する方が合理的な気がすると考えるのは僕だけじゃないと思う。
※ あと、余談だけれども、上院議員を見て思ったのだけれど、男は外で働き、妻は家を出て守るって父権主義も皮肉っているのだろうか。
あなたは、この映画に潜む意外性の謎を解き明かせるかな?
これは、スリラーに入るのかな?
でもこの映画、設定がユニークで個性的。
映画の場面に違和感のあるものを配置して、謎解きのヒントを小出しにしている。
そしてやがて、映画全体のすべての意味が解き明かされる。
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