「予想以上に面白いダークホース枠アニメ映画」漁港の肉子ちゃん といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
予想以上に面白いダークホース枠アニメ映画
「企画・プロデュース 明石家さんま」「芸能人声優多数」と聞いて、失礼ながら正直面白そうとは思えませんでした。キービジュアルを観ても予告編を観ても、アニメ特有のオーバーリアクションと一発ギャグの子供向け映画のように感じてしまって、観る予定は無かったんです。
しかし、いざ実際公開されてみると意外と評判が良い。普段映画を観ないお笑い好きの人たちが高評価しまくってるんじゃなくて、普段から映画観ている人たちからの評判も結構良い。これは観ないといけないと感じて、鑑賞いたしました。内容に対する予備知識はほとんどありません。
結論、いい意味で、予想を裏切るクオリティの高さ。STUDIO 4℃製作のアニメーションだから映像に関しては全く心配していなかったんですけど、それ以外の脚本とか演出とかの部分もかなり出来が良かったです。鑑賞前に心配していた声優も、プロの声優さんとほどでは無いにしろ、想像していたよりは全然良かったと思います。特に大竹しのぶさんは想像以上に上手かったです。
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ぽっちゃり体系で能天気な肉子(大竹しのぶ)は、情に厚く惚れやすいその性格から多くの男から騙されて酷い目にばかり遭ってきた。肉子は最後に付き合っていた男を追って、娘のキクコ(Cocomi)と共に東北の港町に流れ着いた。肉子は持ち前の明るさで町に馴染んで生活するようになったが、11歳になった落ち着いたしっかり者のキクコは母親のことを恥ずかしく思っていた。
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「港町」「バスの行き先表示に「巻の石」」「大昔に津波で浜から流されてきた地蔵」「町を一望できる高台」。これらの要素から、「津波で町が飲み込まれる様子を高台から観る展開が来るのか!?」って思ったのは俺だけじゃないはず。ラストまで観て津波が来なかったのでホッとしましたよ。流石に、今も傷跡の残る3.11を想起させる描写は無かったです。良かった良かった。
映像がとにかく良かった。STUDIO 4℃のアニメーション制作なので全く心配はしていませんでしたが、これは言っとかなきゃいけない。とにかくアニメ的なオーバーなギャグシーン・幻想的な自然の風景・ファンタジーチックなカラフルな描写など、どれもが素晴らしかったですが、私が一番推したいのは「食事シーン」。とにかく出てくる食べ物がみんなおいしそうで、尚且つキャラクターの心情描写や過去とのつながりを演出するのに一役買っているんです。「フード理論」ってやつですね。本当に素晴らしかった。
ストーリーも、流石直木賞作家の原作と言ったところ。終盤の展開は感動できました。ポスターなどの雰囲気から子供向けの作品かと思っていましたが、内容は完全に大人向け。序盤のファンタジーのような描写が多いですが、後半は妙にリアルで生々しい描写が増えてくるので、全然子供向けじゃないですね。喋るヤモリとか出てきたあたりで「この作品ってファンタジーなのか?」って思いましたけど、後半でちゃんと真相が分かります。ストーリーの内容的にも演出的にも「前半はファンタジー寄り・後半はリアル寄り」って分かれているのは面白かったですね。後半に向けて描かれる家族愛の描写は、胸に来るものがありました。
声優さんも、鑑賞前に危惧していたほど悪くはなかったです。
流石にプロの声優さんには及びませんが、肉子ちゃんを演じた大竹しのぶさんもキクコを演じたCocomiさんも、違和感なく観ることができました。ただ、脇役として登場した実力派声優の花江夏樹さんや下野紘さんの演技と比べてしまうとどうしても見劣り(聴き劣り?)してしまうのは否めませんね。私は気になりませんでしたが、気になる人はいるかもしれません。
また、今回企画とプロデューサーを務めた明石家さんまさんが前面に出てこなかったことも、個人的には評価したいです。明石家さんまさんご本人が、映画好き芸人として知られるおいでやすこがのこがけんさんから「プロデューサーが前面に出る映画は絶対面白くない」と言われたと舞台挨拶で語ってらっしゃいました。こがけんさんグッジョブ。そしてさんまさんナイス判断です。「明石家さんまが企画プロデュース」という事前情報からは想像できないほど、「普通に面白い映画」(褒めてます)だったと思います。
ただ、不満点が全く無いわけではないんですよね。
この映画、キクコと二宮の関係性とかマリアとクラスメイトたちとの確執とか、メインの肉子ちゃんとキクコの親子関係や家族愛以外にも寄り道のようにストーリーが展開していきます。でも、そっちのストーリーはイマイチ描写が少ないように感じるんですよね。
マリアとクラスメイトとの確執の問題はあれだけ険悪な関係だったのにどうやって仲直りしたのかが描かれていないですし、キクコと二宮と関係についてはフィギュアを見せただけでそれ以上の進展も特にない。もうちょっと深いところまで描いてほしかったなぁという気持ちがあります。
細かなところで不満点はありますが、笑えて感動できて、満足して映画館を出ることができた良作だったと思います。オススメです。