劇場公開日 2021年3月26日

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テスラ エジソンが恐れた天才 : インタビュー

2021年3月26日更新

スティーブ・ジョブズが尊敬した天才ニコラ・テスラ――イーサン・ホークが語る“才能に恵まれた”ゆえの孤独とは

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発明家ニコラ・テスラの半生を描いた伝記映画「テスラ エジソンが恐れた天才」が公開された。オバマ元米大統領、故スティーブ・ジョブズイーロン・マスクらから尊敬される発明家でありながら、生涯にわたって孤独だったテスラを演じたのは、「6才のボクが、大人になるまで。」などのイーサン・ホーク。テスラについて「親密になることを避けているならば、仕事は強力な友だちになる」と考察するホークが、「ハムレット」でもタッグを組んだマイケル・アルメレイダ監督とともにオンライン取材に応じた。(取材・文/編集部)

1884年、移民としてニューヨークへやって来たテスラは、憧れのエジソンのもとで働き始める。しかし直流方式の送電を考案したエジソンに対し、テスラは交流方式を主張し、両者は激しい対立の末に決別。テスラは実業家ウェスティングハウスと組んでシカゴ万博でエジソンを叩きのめし、一躍時代の寵児となる。大財閥J・P・モルガンの娘アンと交流し、モルガンから莫大な資金を得て“無線”の実現に挑むテスラだったが、研究一筋の繊細な心は実業界や社交界と不協和音を立て始める。


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――ホークさんが今作に参加することになった経緯を教えて下さい。

ホーク 監督のマイケルとは何年も前からの知り合いで、2000年に映画「ハムレット」で一緒に仕事をしました。それが素晴らしい体験で、友人になりました。マイケルは長年にわたり私にとっての最高のサポーターであり、チャンピオンのような人で、本当に尊敬しています。(今作で)私が演じるのはエジソン役の方がいいと思っていましたが、マイケルはカイル(・マクラクラン)をエジソンにしたいと思っていたので、賭けてみることにしたのです。インディペンデント映画の世界では、このような挑戦をするための予算やサポートを得ることは非常に難しく、危険であることは分かっていましたが、最終的には冒険してみようと決めました。

――アルメレイダ監督はなぜ電気工学の顔ともいえるエジソンよりも、テスラにひかれたのでしょうか?

アルメレイダ監督 この物語は私にとって長年にわたって重要なものでした。実は、これは私が初めて書いた脚本で、思い入れのある話なのです。この無名ともいえる発明家を初めて知ったときは興奮しましたが、その後、脚本は映画化されませんでした。何十年間もね。幸運にも脚本をイーサンに見せることができて、彼は興奮して「やりたい」と言ってくれました。しかし同時に、イーサンは賢く規律正しい人なので、脚本をもっと練る必要があると言ってくれました。彼がここにいなければもっとうまく説明できるのですが(笑)、脚本に非常に強い影響を与えてくれましたね。

若い頃の私には、テスラは英雄的に見えました。彼の自滅性は、私の目にはそれほど顕著に映らなかったのです。しかし、私自身が年を重ねるにつれ、彼が犯した失敗、つまり人間としての失敗といえる部分がより重くのしかかるようになりました。そこから、脚本はその“失敗”を認める方向に変わっていきました。イーサンの寛大さと洞察力のおかげで、テスラの周囲にいる人々がテスラという人物を理解するヒントを与えてくれると気が付きました。また、アン・モルガン役のイブ・ヒューソンは、脚本作成時にイーサンからアドバイスをもらったことで、役割が大きくなりました。テスラは非常にミステリアスな人物で、興味をそそられましたが、同時に少し歯がゆくも感じていました。そのため、脚本ではほかのキャラクターを登場させ、焦点を絞った肖像画ではなく、グループの肖像画を描くようにしました。

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――今作で描かれたテスラは、あまり感情を表に出しませんが、頭のなかでは常に何かしらの考えを巡らせているような人物です。どのように役にアプローチしましたか?

ホーク 私は数学を愛していて、数学に深い関心を持つ人々と芸術のあいだには、大きな繋がりがあると常々感じています。私は彼を、いわば算術の芸術家として見ようとしました。彼は宇宙を創造的なものと見なしていて、ジャクソン・ポロックの絵を理解しようとするように、あるいは偉大な数学者が物理法則を理解しようとするように、宇宙を理解しようとしていたのです。私の父は数学者なので、父を見て学んだ多くのことをテスラを演じる際に生かしました。

――あなたから見たテスラはどんな人物でしたか?

ホーク そういった事を考えるのはすごく楽しいですね! 彼の周りには見えないシールドがあるような気がしました。人との間にガラスの壁のようなものがあって、ガラスの壁の内側では、自分を取り巻く環境をコントロールできるんです。彼にとって、その空間に近づいてくるものや人は恐怖だったでしょう。だからこそ、彼は科学を愛していたのだと思います。実験のように、コントロールが可能なものという意味で……。私には、彼はいわば科学の修道士のように映りました。

――テスラを演じるにあたって、どのような準備をされましたか?

ホーク とても楽しい時間を過ごしました。歴史上の人物を演じるときに面白いのは、その人物を自分の人生に招き入れて、どっぷりと浸かることです。彼の文章や手紙を読むのはとても楽しかったですし、監督に宛てたビデオメッセージも作ってみました。彼が実際に言ったことや書いたことを、声に出して話してみたんです。声に出すことで明確にして、記憶しようと試みました。例えそれが映画とは関係ないものでも、彼の思考回路を理解したかったのです。

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――以前、テスラについて「親密になることを避けているならば、仕事は強力な友だちになる」という考察をされていますが、どういう思いからこのように考えられたのですか?

ホーク 世の中には、“親密な関係”というものを脅威として経験している人がたくさんいると思います。私はこれまでに、他人を観察するのはすごく得意なのに、実世界では人との繋がりや自身のふるまいがうまくいかず苦心している映画監督たちにたくさん会ってきました。彼らは非常に孤独ですが、その孤独こそが仕事への献身を強めているのです。いろいろな意味で、私はテスラを私が出会った偉大な映画監督の心と同じように考えました。偉大な科学者たちに会う機会はそんなにないので比べることはできないのですが、“才能に恵まれた人たち”という意味においては知っていると思えたのです。そう思うと、劇中のアンをはじめ、彼と親しくなろうとした人たちには同情しました。(「ブルーに生まれついて」で)チェット・ベイカーを演じたときも同じように感じましたね。チェット・ベイカーは絶対的に音楽を愛していて、ほかの人をその領域に立ち入らせませんでした。

――テスラに愛されたいアンは、テスラに「認められることと愛されることのどちらが大切か」「その頭脳と才能は恵みなのか災いなのか」と質問します。おふたりなら何と答えますか?

アルメレイダ監督 イーサン、先に答えて(笑)。

ホーク いやいや、マイケル。先に答えて下さい(笑)。

アルメレイダ監督 私自身、(アンの)このような質問に戸惑ったことがあって、だからこそ映画のセリフとして登場させたのです。この質問は考えるたびに顔を殴られたような気分になるよ(笑)。

ホーク 理解されていること、愛されていること、コミットしていること、誰かと繋がっていること、これらのバランスをとることが重要なのだとは思います。その答えはどこかにあるとも言えますし、ないとも言えますよね。

アルメレイダ監督 それに、このふたつの事柄は必ずしも背反するものでもないと思います。

ホーク その通りですね。

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――テスラが劇中で、イギリスの2人組バンド「ティアーズ・フォー・フィアーズ」の「Everybody Wants to Rule the World」を歌うシーンは意外性がありました。このシーンがどのように完成されたのか教えて下さい。

アルメレイダ監督 先ほども言ったように、私はある時点で、テスラはとても引っ込み思案な人間だということに気が付きました。彼はとても内向的で、ある意味では秘密主義者であり、簡単には自分をさらけ出すことができません。私は彼に、もっと遊び心を持って自分をさらけ出す場所を用意してあげたかったのです。

そして、イーサンは遊び心のある人なので、タイムトラベルをして彼がカラオケで歌うのもアリなんじゃないかと思ったんです。意外な演出ではあるけれど、人々がバーで酔っ払って、言いたいことを曲にのせてカラオケを歌うように、テスラのある一面を見せられるのではないかと思いました。テスラが歌う曲は、誰もが知っている曲であること、意外性がありながらも必然性を感じさせる曲であることが重要でした。そして、いくつかの選択肢のなかから、「Everybody Wants to Rule the World」に決定しました。

イーサンはあまり難しくない歌がいいと願っていたと思いますが、彼が挑戦してくれて嬉しかったです。このシーンは脚本にはなかったのですが、少し前に自分のノートを見たら、撮影の初期に「何か追加の要素が必要だ」と記していました。段々とその“何か”が必要不可欠だと感じるようになり、納得できるようにやろうと意気込んでいました。実際に撮影してみると、イーサンも私と同じように興奮していたのを覚えています。イーサンは、カメラに対して自分がどう動くか、私たちがどう動くかを即興で決めてくれて、2~3テイクで撮り終えました。

ホーク カイルと私がお互いの顔にアイスクリームを塗り付けるシーンを撮影したときのこともよく覚えています。撮影監督と私はそのシーンにとても興奮していたんです。私たちが求めていたもの、つまりテスラが誇ってくれるような映画にできる何かがそのシーンにあると感じました。事実を繰り返すだけでは、この映画はウィキペディアのようになってしまいます。観客は再現映像を見たいわけではありません。時間と空間の交わり、エネルギーと光、それらすべてが刺激的でなければならないのです。テスラの映画を作るなら、平均的なものではいけないと思いました。マイケルが最後にカラオケのアイデアを出したときには、まったく意味不明だけれど、それがまさにぴったりだと感じましたね。

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