ホロコーストの罪人のレビュー・感想・評価
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知られざるノルウェーでのホロコースト
ノルウェーでもホロコーストがあったことの知られざる歴史。実在したユダヤ人ボクサーの抱える葛藤を描く。順風満帆だった人生に影が差し、ユダヤ人であることを捨てようとした主人公の気持ちが痛いほど伝わる。収容所でのいたぶられるようなボクシングシーンが印象的。
最後、妻の元に戻ったチャールズだが、二人は別れてしまったというテロップに、彼の背負う「その後」の人生の重さを考えた。
進行中のジェノサイドには口を噤み、70年前の話をぶり返して正義面する。
チャールズがナチスのメルセデス170セダンのボンネットに落書きした「ホーコン7世」は、最後までナチス・ドイツに抵抗したノルウェー国王でしたが、1942年にイギリスに政権と共に亡命。チャールズとその一家は、反ナチスであったと言う描写です。
1940年4月、クヴィスリング率いる国民連合は、ナチスのノルウェー侵攻(劇中では空襲のあった夜と思われ)に合わせてクデターを実行し臨時政権の樹立を宣言しますが、全権掌握に失敗。ヒトラーはクヴィスリングを信用せず、ヨーゼフ・テアボーフェンを国家弁務官に任命します。クヴィスリングは暫定評議会議長に就任し、警察組織を再編しナチズムを推進して行くのですが、この頃から、ノルウェー国内のユダヤ人狩りが始まります。
1942年2月、クヴィスリングがヒトラーにより首相に指名された後、国内に収容所が設けられ、後の事件は映画の中での描写通り。776人のユダヤ人を乗せたドナウ号がオスロ港を出港するのが11月26日。ホロコーストへの協力は、ノルウェー人である首相クヴィスリングと国民連合の手によって実行されています。
一応言っておくと、ノルウェー国内でも反ナチスのレジスタンス活動は展開されていました。一方、親ナチス政権であったことから、7,000人の国民連合党員と志願兵がドイツ軍に合流し、主に東部戦線に出征して行きました。
実態としては少数派の親ナチスと、反ナチスで国が割れたんですね。
戦後、ナチスへの協力者5万人以上が国家反逆罪で有罪判決を受け、2万人以上が投獄され、25人のノルウェー人が処刑されています。
ホロコーストは許されざる人類への罪ですが。
今年も二本の反ナチス映画を見ましたが、その度に思う事は。
「どこにも正義は無かった」って事だけです。
崩れゆく幸せ〜ブラウデ家の悲しみ
ナチス侵攻により、抗う事も出来ず或る朝突然連行される恐怖。
父と母の揺れる瞳、互いに呼び合う声、不安な中移送され、無言で服を脱ぎ震えながら歩を進める姿、エンドロールの哀しい旋律に涙が溢れた。
ブラウデ家の家族写真が切ない
映画館での鑑賞
時間をかけて徐々に「絶望」が迫ってくる
ノルウェーでのユダヤ人強制連行という負の歴史を映画化した今作。
全く同時期に「アウシュヴィッツ・レポート」という映画も公開されているし、
同じスターチャンネル配給なので、これは2本観ろ、という事だなと思い鑑賞。
序盤は、拍子抜けするような華やかな光景。1940年代頃のノルウェーってこんな感じなのかな、と思うと、とても第二次大戦中の世界とは思えない。
次男の結婚など、幸福そうなブラウデ家を中心に進むが、ドイツ軍がノルウェーに侵攻してきたことで、状況は一変。ユダヤ人であるブラウデ一家は収容されてしまう。
まず、ポイントとしてこの映画の主人公であるブラウデ家の次男、チャールズのアイデンティティ。
彼は自分自身をユダヤ人という意識で捉えてない。もっと世俗的で、ボクシングに打ち込み、非ユダヤ人である女性と結婚。この彼のイデオロギーが父と衝突する原因にもなるが、こういったアイデンティティを持つ青年がユダヤ人としての建前上の住民登録をする姿など、これまで観たホロコースト映画にはない光景だった。
また、この一家の男性陣が最初に収容されたノルウェー国内のベルグ収容所というところは、アウシュヴィッツとは異なり、強制労働はあるものの、服装は私服であり、食べ物もしっかり与えられている点で(不味いとは言っていたが)、まだ彼らに死の危機感を感じ取る事なく、どこか楽観的な雰囲気すらある。こういった一時的な収容所の光景もまた新たな発見だった。
そして、日時が過ぎ、やがて一家の財産は奪われ、終盤になり女性、子供も連行され、最後は両親が裸にさせられガス室送りと言う、何とも辛いシーンで終わる。
序盤の華やかさから2時間かけて徐々に絶望を描いている様は、決してドラマ仕立てではない恐怖感を覚えた。
私が思ったこの映画における恐怖や不安の原因は、この映画の登場人物には基本的に何も告げられていない、という事。安心させるような事も絶望させられる事も。ただ淡々と秘密警察は任務を遂行しているのだろう、だから映画は不安を常に纏い侵攻し、最期に至る。怖い。
決して脚色されていない本作だからこそ、ホロコーストの恐怖がわかる。
「アウシュヴィッツ・レポート」とセットで鑑賞するのがやはり良い。
時系列的には本作の方が先か。
隣人の裏切り
こんなストレートな表現は、かえって新鮮で怖かった。
連行されたユダヤ人目線で物語が進む。
前半はボクシングを楽しみ、家族を大事にする普通の日々、そして結婚式など、主人公の幸せの描写。
それが後半、突然の暗転。
友や信頼する自国の警官たちに騙され、裏切られる。
何の説明もなく連れていかれて、戸惑っているうちにそのままガス室送り。
命令はナチスだが、連行を主導したノルウェー人の秘密警察の連中……特に副署長は、戦後もそのまま警察の仕事をしていたとのこと。
ノルウェーが国家として責任を認め謝罪したのが2012年とはいえ、この警察副署長が戦後に死刑ならなかったのが、理不尽に感じられてならない。
ナチスへの協力者は数が多すぎたからだろうし、当時のナチスに逆らうのは困難であったという事情は考慮されたのであろうが。
調べてみると、ナチス占領下の国家公権力者は、ほとんどユダヤ人狩に積極的に関与していたらしい。
保身の裏返しとともに、どこか差別的意識があった可能性が高い。
そんな自らの過ちを認め、二度と繰り返さない、裏切らないということの必要性を説いていた。
だからきっと、この映画はノルウェーで作られたことに意味があるのだろう。
だからこそ、エンドロールで語られた内容を踏まえて、ラストに「今どうなっているのか?」「繰り返さない努力をしているのか?」といったことを映像として見せてほしかったとは思いました。
そこが物足りなさにも感じました。
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