「時間をかけて徐々に「絶望」が迫ってくる」ホロコーストの罪人 tackさんの映画レビュー(感想・評価)
時間をかけて徐々に「絶望」が迫ってくる
ノルウェーでのユダヤ人強制連行という負の歴史を映画化した今作。
全く同時期に「アウシュヴィッツ・レポート」という映画も公開されているし、
同じスターチャンネル配給なので、これは2本観ろ、という事だなと思い鑑賞。
序盤は、拍子抜けするような華やかな光景。1940年代頃のノルウェーってこんな感じなのかな、と思うと、とても第二次大戦中の世界とは思えない。
次男の結婚など、幸福そうなブラウデ家を中心に進むが、ドイツ軍がノルウェーに侵攻してきたことで、状況は一変。ユダヤ人であるブラウデ一家は収容されてしまう。
まず、ポイントとしてこの映画の主人公であるブラウデ家の次男、チャールズのアイデンティティ。
彼は自分自身をユダヤ人という意識で捉えてない。もっと世俗的で、ボクシングに打ち込み、非ユダヤ人である女性と結婚。この彼のイデオロギーが父と衝突する原因にもなるが、こういったアイデンティティを持つ青年がユダヤ人としての建前上の住民登録をする姿など、これまで観たホロコースト映画にはない光景だった。
また、この一家の男性陣が最初に収容されたノルウェー国内のベルグ収容所というところは、アウシュヴィッツとは異なり、強制労働はあるものの、服装は私服であり、食べ物もしっかり与えられている点で(不味いとは言っていたが)、まだ彼らに死の危機感を感じ取る事なく、どこか楽観的な雰囲気すらある。こういった一時的な収容所の光景もまた新たな発見だった。
そして、日時が過ぎ、やがて一家の財産は奪われ、終盤になり女性、子供も連行され、最後は両親が裸にさせられガス室送りと言う、何とも辛いシーンで終わる。
序盤の華やかさから2時間かけて徐々に絶望を描いている様は、決してドラマ仕立てではない恐怖感を覚えた。
私が思ったこの映画における恐怖や不安の原因は、この映画の登場人物には基本的に何も告げられていない、という事。安心させるような事も絶望させられる事も。ただ淡々と秘密警察は任務を遂行しているのだろう、だから映画は不安を常に纏い侵攻し、最期に至る。怖い。
決して脚色されていない本作だからこそ、ホロコーストの恐怖がわかる。
「アウシュヴィッツ・レポート」とセットで鑑賞するのがやはり良い。
時系列的には本作の方が先か。