「娘に「君・・・」と呼びかける父親って」竜とそばかすの姫 よしさんの映画レビュー(感想・評価)
娘に「君・・・」と呼びかける父親って
過去のトラウマから自分の殻から抜け出せない少女が、仮想空間をステップに成長する物語。
ネット等で低い評価を観ていた為か、想像していたよりは悪くはなかった作品だと感じました。
少女の成長譚というテーマが良いですね。母親を目の前で失ったトラウマ。大好きだった歌を歌えなくなった少女が仮想空間でそのトラウマから抜け出して・・・そしてそれが現実のすずのステップにもなる。カタルシスを感じる良いストーリー展開だと思います。
音楽シーンは歌唱力を含めてレベルが高く、迫力を感じました。特に、「ベル」が「すず」に戻り歌う後半のシーンは、ストーリー的にも相まって感動的ですらありました。
ただ、それでも全体として薄く、整理出来ていない話だとも思います。
例えば、すずが竜に執着した理由が分かりません。逆に、竜がベルに心を許した理由も分かりません。
これが分からないので、物語に入っていけません。
すずの執着で言えば、例えば、ルカの気持ちを勘違いして失恋を覚悟したシーンの後に竜との出会いを描いていれば、少しは納得感は増したかもしれません。少なくとも製作者が「理由付けをした」と理解することは出来ますが、この作品はそれすらありません。
キャラの設定も極端で微妙。そして、それぞれ折角のキャラを上手に活かし切れていません。
例えばしのぶは高校生とは思えない落ち着き。竜も虐待されている14才とは思えない・・・
逆に、コーラスサークルの大人達は何の役にも立っておらず、結果として、物語のリアリティの邪魔にすらなっています。
例えば、姿を晒して歌うことをすずに提案するとき、しのぶがもっと気持ちを高ぶらせ叫んでいれば、高校生らしかったかもしれません。そして、それを大人が窘める。或は、冷静な言葉でその気持ちを引き継げれば、大人を描いた意味があったかもしれません。
クライマックスは否定的な意見が多いようですね。私もその一人。
独り立ちするすずを描きたかったのかもしれませんが、物語のリアリティを損ねるだけのように思えます。
仕事もお金の問題もあるのでしょうが、大人も含めて可能な人数で行かせれば良かったのに。そして、大人とヒロは警察に相談に行き、他のメンバーは手分けして竜の家を探して・・・最終的に一人で竜とその父親と対峙出来れば、独り立ちのシーンとしては十分だったと思います。
また、警察官が、父親の暴力を現認するシーンを描ければ、あんな中途半端な終わり方にしないで済んだのではないでしょうか?
映画としての私的評価は、当然厳しめです。ただ、物語以上に、サマーウォーズを焼き直したような設定や、美女と野獣の『真似』をしたシーンなど、細田監督の姿勢に厳しい評価を付けたくなる、そんな作品でもありました。