「アニメって凄ぇな…」竜とそばかすの姫 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
アニメって凄ぇな…
現実は変わらない。
でも、世界なら変えられる。
実に興味深い脚本だった。
まるで精密な腕時計の中身を見てるような構成で、綿密に用意されたマテリアルが流麗に機能していく。
傑作、なのだろうな。コレは。
仮想空間というか、実態のないネットの世界観を物凄く端的に捉えているような気がしてる。
その自由度の高さも、悪意が発生する要因も。
そして、その可能性も。
色々と都合の良い事は起こりはするが、ソレはソレとして不問にしてもよいとは思う。
なんちゅうか…凄く辛辣な脚本だとも思うの。
仮想空間を満喫しようとも、現実からは逃れられなくて…「人生をやり直そう」なんて事は出来やしないし、その類いの謳い文句に、つい期待をしてしまう僕らのなんと虚しい事か。
ベルの容姿にしたってそうだ。
ベルに匹敵する美貌のキャラが誰1人として出てこない。どころか人の形を為してない者までいる。監督はこの虚構の世界に「魂の形骸」を見てたのかとも考える程だ。外見上、人と認識するに難しい生き物で溢れ返ってる世界なのだ。
見事に整備され画一化され統制されてる世界に蠢く、人の形を成さない人に類似した生き物たち。
かなり攻撃的なアプローチに思う。
そんな中、悪として排除されようとしている「竜」
盛大な口撃。無数に投稿される吹き出し。
でも、俺には何故彼が「悪」なのか分からない。
でも、その世界の大多数は彼を「悪」と認識してる。一部の人間が声高に彼を責めてはいる。だが、それだけで実害を被ってる訳でもない。
扇動と同調をこうも単純明快に見せられるとは思わず、溜息が出る程見事だ。
「今、あなたが抱えている怒りや憎しみは、本当にあなたの中から発生しているものですか?」
そんな問い掛けが聞こえてきそうだ。
仮想空間で発生する「正義」
そういうものはあるのだろうなと思っていたけれど、今作を見て疑問にも思う。
そもそも、現実ではないのだ。
その現実ではないものに、現実を持ち込んで意味があるのか?もしくは、現実と紐付ける価値観と信憑性を存在させるべきなのか?
正義なんてものは普遍性があるものではないぞ?
作中でソレを振り翳す輩のなんと傲慢な事か…。
…とはいえ、実際に人は死んでいる。
最早、別世界と思っても良い世界とリンクしている。
させすぎている。
「匿名性があるから人の本性がでる」
どっかの専門家なり評論家が、そう意味付けた。
そして、それを僕らは鵜呑みにしてしまう。
何故?に対する答えに的確だと判断してしまった。
本音が氾濫する世界。
そう思い込んでしまった世界が、現実を侵食してる。
「人が3人集まれば戦争が起きる」
そんな格言を残したのは誰だったろうか?
異世界と区切りをつけきれなかった制約の無かった世界。人の業の深さを垣間見る。
ベルが「歌姫」と祭り上げられる経過にアイドルの変遷を垣間見たり…。二面性が無いと思いたいのは、その偶像に妄執する者達だけで、ベルが鈴であったように、偶像はただの偶像だ。
本来あるべき内側から目を背けたかったのは、お前らだろうが?でもそれはおそらくならば、アイドルだけの事ではない。人は「見たいものしか見ない」のだ。
理想なのか虚像なのかは知らんが、見たいものを見ようとする。きっとソレは自己防衛の一種でもあると思う。写真週刊誌やワイドショーに踊らされっぱなしでいいのか?いい加減、目覚めろ。
…とまでは言い過ぎか。
ベルが歌う姿には、何故この世界に歌が必要であるのかの本質を見たような気にもなった。
彼女は作った事もないラブソングを作ろうとする。
鼻歌がメロディーになり、やがて歌詞が付随する。
彼女の心が、言葉となって現れる。
どこぞのアイドル達が、金儲けの為にやる行為ではない。群衆に迎合するでもない。売れ筋のメロディーラインを踏襲するでもない。
ああ、こうやって歌は生まれ、アイデンティティを確立していったのだなぁとしみじみ思う。
鈴として歌うシーンは圧巻で…映画を見に来たのに聞き惚れてた。
物語は、原色に彩られた世界と同時に、消耗されていく現実をも描く。
変化し、過ぎていく明確な時間が存在する世界。
そこには目を背けたくなる事柄も、平然と至極当然のように存在する。
仮想空間に逃げ込もうと、現実からは逃げられやしないのだ。そこで生きていく限り、全ての事は自らが行動していかねばならない。
前足がない犬も、しかり。
虐待を受けている兄弟も、しかり。
美しさだけが際立つ世界ではないのだ。
その虐待を受けている兄の言葉も鮮烈だ。
言い訳のしようもない。
ホントにその通りだと思う。難しい問題ではあるが、自己肯定感を満たした所で彼らは救われない。マニュアルに沿ったところで解決はしない。
鈴は、ネットを介しその虐待されている兄弟達の元へ行く。父親を非難するわけでもない。彼らをただ抱きしめていただけだった。
実質的な解決方法を提示したわけでもないのだと思う。何が出来るわけでもない。ただ、あなた達を孤立させはしないと、寄り添う事は出来るのだと思う。
鈴にしたって、兄弟達にしたって、結局のところ現実を打破していくのは自分達なのだから。
ただ、彼女は顔から夥しい血を流しながらも、父と対峙し無言を貫けたのは、ベルとしてではあるが人々から肯定された経験があるからなのだろうと思う。
そして、彼女は母親の死後、トラウトとなり歌えなかった歌を歌う。
現実は変わらなくても、彼女の世界は変わる。
歌えなかった世界から、歌える世界へ。
父親と話せなかった世界から、話せる世界へ。
そんな事を漠然と見ながら、考えれてしまうアニメって凄ぇなあーってのがレビューのタイトル。
「町田くんの世界」って作品でも、同じような感想を持ったな。あっちは実写で切り口も随分と違うけど。
オープニングの派手な演出と歌でツカミはバッチリだし、結局、忍君のアバターは不明だったり…意味深なクリオネは意味深なままだし。
ツボをしっかり押さえた演出だったなぁー。
竜の城がなんで存在できるのか、よく分からなくはあるし、現実の写真をデーターとして反映できてるのも何故だか分からないが。
監督が言う「現代だからこそ、やる意味も意義もある」ってのは十分伝わったような気はする。
U-3153さん
コメントへの返信有難うございます。
U-3153さんのレビューを読んで、作品の世界観がよりクリアになりました(^^)
中村佳穂さんの切なく透き通った歌声、素晴らしいですよね✨
手が当たってしまいました。(もう一度共感押します💦)