「主題歌のPVだけ観ていれば幸せでいられる」竜とそばかすの姫 ブッチッパ!さんの映画レビュー(感想・評価)
主題歌のPVだけ観ていれば幸せでいられる
映画の冒頭でmillennium paradeのUを主人公が歌うシーンは、曲自体の良さと映画館の迫力で引き込まれましたが、そのシーンがこの映画のピークでした。以下がその理由です。
・薄っぺらいストーリー:仮想世界では竜との関係を描き、現実世界では主人公やカヌー部青年の恋愛模様、主人公と合唱主婦グループとの関わりを描いているが、メインのストーリーを絞りきれていないため、一本の映画の中では登場人物の感情の動きが描ききれておらず、こちらが置いてけぼりになる。特に、竜の正体について、幼馴染の存在がミスリードとしてしか機能しておらず、実際の竜の正体が物語で断片的に出てきた少年だと言われても、「へー、そうなんだ」としか思えない。そもそも主人公が最初から竜の正体を知りたがっている動機がわからない。
・既視感のあるシーンの寄せ集め:迫力のある映像が多数あり、そのシーン単体ではクオリティが高いが、どこかで見たようなシーンが多い。そもそもストーリーが薄っぺらいため、一本の映画としてみると、陳腐なものに感じられてしまう。
・不快なだけの演出:主人公の母親が少女を助けて命を落とすシーンや、大勢のクラスメイトにカラオケを強要された主人公が嘔吐するシーンや、主人公が幼馴染のイケメンと校内で話していただけでクラスのグループトークで袋叩きにされるシーンなど、不快なシーンは多数あるが、それによって登場人物が成長したり、物語上重要なシーンとなるようなことはない。
・仮想世界には参加者が50億人いるらしいが、その50億人は好き勝手に文句をいうか観客になるか野次馬になるくらいしかしない。実際のネット上でもそういった側面はあるが、いざというときに団結するという側面もある。本作ではそこが描かれていない。サマーウォーズのときはあったが。
・虐待されている少年を助けるシーンで、然るべき機関に動いてもらえなかったが、虐待の映像を撮っているんだからそれを証拠にすればいいのでは?虐待を受けている少年の居場所を割り出すシーンや、主人公が少年に直接会いに行き、児童虐待をしていた父親が、急に現れた女子高生に睨まれただけで怯んで腰を抜かすシーンなど、ご都合主義の演出にうんざりする。
・キャスティングの問題もあると思うが、竜の演技に迫力がない。というか映像の迫力にあってない。未来のミライの長男ほどではないが、違和感を覚えた。もはやこの作品の出来栄え的に、声優の演技がどうとかいう問題でもないが。
主題歌のPVを観て映画館に足を運びましたが、かなり期待を裏切られ、怒りすら覚えたのでレビューを書いてみました。
サマーウォーズを超える作品は、もうこの監督からは出ないような気がします。