「歌と映像は◎、ストーリーは説明不足・ご都合主義」竜とそばかすの姫 TIKKさんの映画レビュー(感想・評価)
歌と映像は◎、ストーリーは説明不足・ご都合主義
■歌
Belleの歌声は本当に素晴らしいものでした。
ミュージカルという程歌が続くわけではないですが、要所要所で歌われる楽曲はどれも美しいものでした。
■映像
バーチャルSNSのUで繰り広げられる壮大な空間は迫力満点。
高知の美しい田舎風景も素晴らしく、もしストーリーも同じくらい素晴らしければ舞台探訪のために高知まで旅行に行く人も続出したのではないかと思うくらいでした(コロナ禍なので今は難しいですが……)
■ストーリー
視聴者が納得を得られないまま物語が進んでしまう展開がとにかく多いです。話の流れは理解できるものの、万人からの共感は得づらい話だと思いました。
但し、鈴/Belleの物語としてフォーカスして観ればそこそこ良い作りにはなっていたと思います。
見知らぬ子を助けて亡くなった母のことを乗り越え、歌も再び歌えるようになり、終盤はUで出会った竜を助けることに成功し、塞ぎ込んでいた日常から前に進んで、忍や父親との関係を筆頭に日常もきっとより良いものになっていく。
そんな単純な構成として捉えれば決してつまらない話では無かったです。
しかし、それでも説明不足な感は否めませんでした。
例えば忍は「鈴=Belle」だと気付いてましたが、理由やキッカケは劇中で言及されていません。自分の場合、「幼馴染の忍は鈴の昔の歌声を知っていて、それ故にBelleの歌声にも聞き覚えがあったのだろう」といった形で、脳内で納得のいく理由付けをしていました。
他にも説明不足な点は多々あり、またそれが致命的となっている面も否定できません。
下記に具体例を示します。
・母の死がキッカケで鈴は歌えなくなったのだと思うが、その因果関係は何なのか
・Belleが竜を詳しく知ろうと思った動機
・母の死の後に鈴が父親と溝を作っていた理由
・母が鈴の制止も振り払って見知らぬ女の子を助けようとした理由
・恵と知が虐待されるようになったキッカケ
・終盤、恵と知が虐待されている光景を同級生や大人達も見ていたのに、鈴がそれを助けに行く時に誰も同行しなかった理由
(また、この時はBelle=鈴だと公表した直後である。名前は田舎の無名の子だとしても、顔は全世界に知れ渡っている状態。公共交通機関を使って1人で高知から東京まで行くのはリスクが大きいと想定してほしかった)
他にも挙げればキリが無い程出てきます。
全体的に、「物語の展開を優先した結果、視聴者が納得しないまま話が先に進んでしまった」部分が多く、それが本作の評価を下げている一因だと思います。
その割に、瑠果とカミシンの恋愛模様等物語の本筋と関係ない話も描かれてますが、そちらも中途半端で説明不足な感がありました。
このように、「説明不足な本筋を削ってまでやる必要があった話なの?」と思う部分も少なくありませんでした。
総じて言うと、歌と映像の美しさを目的に観に行くなら十分過ぎる程に感動できるものの、「時をかける少女」や「サマーウォーズ」のようなストーリー面での感動ないしはワクワクを期待すると肩透かしを食らうでしょう。
・母の死がキッカケで鈴は歌えなくなったのだと思うが、その因果関係は何なのか
→お母さんも合唱サークルのメンバーでしたし、音楽を教えてくれたのもお母さんなのですずにとって歌は母との繋がりを1番感じるものだったから母の死の悲しみ、蟠りを乗り越えられない=歌えないになったのだと思います。
・Belleが竜を詳しく知ろうと思った動機
→いくつか理由がありますが
元々底抜けに優しい性格だったので放っておけなかった。※足が欠損した犬、欠けたマグカップなどを使っている描写からそうかんじました。
正解中から強く非難されても戦っている竜に自分にはない魅力を感じていた。
※ベルは50%のアンチにとても動揺していたので似た境遇の竜に親近感が湧いていた。
・母の死の後に鈴が父親と溝を作っていた理由
→これは想像レベルですが、お父さん仕事が忙しい描写があったのでお母さんが死んだ時期にすずときちんと向き合えていない時期があったのではないかと考えました。基本すずにあまり干渉しないのもその頃の負い目なのかなと思いました。
・母が鈴の制止も振り払って見知らぬ女の子を助けようとした理由
→すずと同じで助けずにはいられない性格だった。そこに合理性などはないんだと思います。
あとは実際に行動した人間を傍観者が結果論で非難する構図を作る為ですかね?
・恵と知が虐待されるようになったキッカケ
→知的障害のある知が生まれた事によって母親が失踪・夫婦仲悪化による離婚など何かしらの家庭崩壊があり、兄弟の父親はそれを知の所為にして攻める、恵が庇う、一緒に虐待されると言った流れではないでしょうか?
死別だとしたら母親の写真割らないと思うので見捨てたと考えるのがしっくりきます。
・終盤、恵と知が虐待されている光景を同級生や大人達も見ていたのに、鈴がそれを助けに行く時に誰も同行しなかった理由
→一部の切り取られた情報や思い込み、正義感で周りを扇動し個人を攻撃することは、ベルが否定したジャスティスと同じになってしまうからだと思います。
ただ自分個人の兄弟を守りたいという思いを貫く為に一人で行ったのだと思います。
実際にすずはあの父親を否定したり非難する言葉を一切発していません。
あの時の母と同じ様に自分が正しいと信じた行動をしたのだと思います。