「傑作とはこういいうことか」竜とそばかすの姫 Burnhamさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作とはこういいうことか
ミュージカル作品はオペラもそうだが話が単純になりがちだ。細田作品は緩急を使い分ける。
特筆すべきは前半の回想シーン。子供と親が過ごす何気ない、けれどかけがえのない触れ合いのシーンをゆっくりと見せていく。このうまさったらない。
そして高校生の部活動を描くシーンのディテールは、その細やかさ甘さだけでなく、一瞬で見るものを高校時代の切ない思い出の中に引き連れていく。
美女と野獣のオマージュになると絵のタッチがその時代のものになり、当時のCGの質感まで再現してくる。
何より細田作品の中でもこれまで主人公におわせてこなかった生きることそのものへのトラウマに向き合わざるをえないこと、そしてそこへの解決の糸口。
カタルシスはネット内でのマスであるアバターとの意思の交換に持ってくるのかと思いきや、現実へと引っ張り戻して完全な解決に持ってくるわけではない。
ネットのなかを肯定も否定もせず、嘘を言ったり、人を傷つけたり、誹謗や中傷のある世界そのものをたんたんと描く。だから、こうあるべきなのだという善をとくのでもない。
しかし、はじめから最後まで、スローパートからオマージュ、トラウマを受け入れるところまで、完全なる解を提示していない。
そしてだからそれが良い。
傑作とはこんなふうに作られるんだと、ほんとにほんとに感じた。
なにより、歌が上手い。うますぎる。
アニメってここまでできるんだとも思うし、これまで女性の描き方に批判を受けることもあったが、その段階は突破したのだ、と思わされた。
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