「音楽が良かったという感想の映画」竜とそばかすの姫 MGPさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽が良かったという感想の映画
まず、音楽がすごい好きでした。圧倒的な迫力でそれまでにあった違和感を全て置き去りにしてくれるくらいの素晴らしいものでした。
ただ、音楽が良かったって感想が出てきて、それ映画としての感想としてどうなんだろう…となりました。
もちろん、映像も綺麗で力の入れようが見て取れました。
正直、それらがなければ星1です。時かけやサマーウォーズなど、細田監督の作品は好きなものが多いのです。だからこそ、今回の映画は見ててしんどかったです。
この映画に対してポジティブな感想を抱いている方はこのレビューを読まない方がいいかもしれません…
ここでは、
①過去作に囚われている
②無駄に人物増やしすぎ
③説明が多い
の観点からお話しさせて頂けたらと思います。
本題に入る前にですが、他のレビューで多くお見かけする「高知から東京まで大人無しで行った」云々の話については私は特に批判的意見はないです。鈴が自分の足で踏み出すことを決めた大切なシーンなのだなと思っています。
それともう一つ、Uについても批判意見はないです。大事なのは登場人物達がその中でどう生きて何を得たかだと思っているためです。ただ50億人は多すぎやしないか?と思いました。
では書かせていただきます。
①過去作に囚われている
まず、私はこの映画を見てて席を立ちそうになったタイミングがありました。それは忍が「お前、ベルだろ」と言ったシーンでした。
正直、見た瞬間何を言うのか察することができたし、個人的には「言わないでくれ…」って願ってしまいました。
時かけの「タイムリープしてね?」の時は、意外性とそのセリフによって千秋の正体が分かるという、物語の根幹に迫る大事なセリフでしたが、今回の場合はただ言わせたいだけ以外の何にも聞こえませんでした。
構図的にも、
・時かけでは電話で迫られタイムリープで逃げる
・本作では車の走る横断歩道の対岸で言われ逃げる
と、ほとんど同じようなものでした。大事なセリフであるならそういう点でも変化が欲しかった…。
それまでの過程で何で忍がベルの正体に気付いたのかも分かりませんでしたし。もしそれを「(忍)ずっと見守ってるから」(←セリフ違ったらごめんなさい)「(瑠)彼は母親みたいな人」で表現しているのだとしたら、正直分かりづらいと思います。なんというかキャラ設定に頼りすぎというか、気付く人だから気付いたよね感が残念でした。彼が気付くシーンか、気付いているシーンがあればなぁと思いました。
また、竜がベルのもとを去ってしまったシーンですが、これもサマーウォーズのキングカズマが敗れたシーンと酷似しすぎててしんどかったです。
サマーウォーズの時は、世界が滅亡の危機にあって、その中でカズマが敗れてしまったという絶望感があり、その後の健二が「まだ負けてない」と言うシーンがありました。
同じようなシーンで、竜がいなくなってどうしようとなっているときの忍のヨリが来た瞬間に「言わないでくれ頼むから…」と祈ってしまいました。その願いは届きませんでしたが。
尚この後のライブシーン後のところでも同じような事がありました。
構図的に、
・サマーウォーズでは世界の滅亡の危機があり、その絶望を打開する方法を見つけ、世界中の人の協力があり、達成してみんなで喜ぶ
・本作では世界は特に滅亡でもないが解決したいことがあり、打開策を見つけ、世界の人たちは歌を聴いて感動して、目的を達成してみんなで喜ぶ
という形です。
多分ですが、私はサマーウォーズを見ていなければこのシーンでもっと感動できたのだと思います。
サマーウォーズを知らなければ、もしくはサマーウォーズと違う見せ方を出来ていたならと思うと本当に残念です。
サマーウォーズであれば、共通の敵であるラブマシーンに世界が一丸となって戦うということで込み上げるものがありました。
しかし本作では個人が身を晒して歌ったということに皆んなが感動したということでしかありませんでした。そもそも目的が竜を見つけることであるならばこの観客達はいらない存在な訳ですし。
過去作に引っ張られて、それでいて音楽の壮大さでこの曖昧な部分を流してしまったのは残念だったなと思います。
お金を払っているからとかではなくて、細田守監督の新しい作品を見たかったのに、大事な部分が過去作と同じでしかも活かしきれていないのが残念でした。というのが①のまとめです。
②無駄に人物増やしすぎ
・カミシン
これについて特に感じたのはカミシンでした。この映画での彼の役割は「実は瑠夏から好意を寄せられていた」「多摩川の場所が分かった」だけです。
しかも多摩川が判明するシーンでは「瑠夏ちゃん俺この場所知ってるかもしれないぜ」という、DV現場を見た後にしては楽観的すぎる物言いのせいで何とも言えない気持ちになりました。
個人的に彼は嫌いじゃないので、物語的にいない方がスッキリすると感じてしまったのが苦しかったです。
・合唱団
合唱団の方々も同様です。
「幸せとは何かについて聞かれた」「歌を送ってあげたら?とアドバイスする」「駅まで車で送る」だけです。
鈴が現実で歌えない問題はずっと言及されてましたし。
豊かな人生経験から鈴にアドバイスをするということは、鈴の視野が広がりますしいいと思いますが、最後の「実は鈴=ベルと知っていた。駆けつけた後必要だから駅まで送った」は都合が良すぎないか?と感じてしまいました。それさえなければなあと思ってしまいました。(東京まで大人が着いていかないのかっていう批判ももう少し抑えられたでしょうしね)
・ジャスティン
彼は迷いどころではありますが。
私は彼について「ベルをアンベイルするためだけにいる存在」としか感じられませんでした。
鈴をUで歌わせたい→Uで現実の身体をロードするためのシステム(アンベイル)が必要→ジャスティンがその役割を担った。
という形で登場したのかなと。
ただ私もその展開に持って行くための代案が思いつかないのであまり言えません。
それはそれとして、実際彼がいないとしたら、もっとベルが竜に惹かれる描写を描くことができたかもなと思いました。
人数がいたずらに多いせいで、もっと描写できたであろうことが出来ず、表現しきれていないのが残念でしたというのが②のまとめです。
③説明が多い
単純に、映画なのだからセリフよりも映像で世界観を教えてほしい。ということです。
尚、最初のUの説明の話ではないです。
これは主に竜と初対面の時です。竜についての説明が全部セリフでされている。しかも長い。その説明をずっとしている暇があるならその間にベルは行動できるし、それがきっかけで竜に興味をもっと持ちやすくなるかもしれないし。ずっと横で説明されているだけでそんなに竜に興味持てるのかな?って思いました。
それと、この映画は冒頭の鈴がUに入る過程や中盤の美女と野獣のようなダンスなど、説明しなくてもしっかり映像で表現出来ているわけですし、物語の転換の部分でもそれを活かせたらなぁって思いました。
というのが③です。
この度の細田監督の作品、本当に楽しみにしていただけに、色々と残念でした。個人的には映画館で初めて途中で観るのをやめようと思った作品になってしまったのが何よりも残念でした。
ただ、音楽と映像のレベルは本当に高いものだと思います。
見る方は是非劇場でのご鑑賞をおすすめします。
以上、駄文失礼しました。