「これでGOサインを出したのが信じられない」竜とそばかすの姫 pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
これでGOサインを出したのが信じられない
結論から言わせてもらえば、物語が点々としていて線になっておらず、まとまりがありません。
細田監督は本当にこれでご自身の満足できる作品の仕上がりになっているんだろうか、
納期やらの関係で中途半端な状態で公開されていないかと心配になるレベルでした。
作品のアイデア、映像美、歌、音響は間違いなく素晴らしいと思いました。
ただ、登場人物たちが何を思ってそのセリフ、行動をとるのか、
その差し込まれた演出や間の意図はなんなのか、
全体としてこの作品で何を伝えたかったのか、という根幹の部分が何も伝わってこず、
カタルシスも何も感じませんでした。
細田監督の作品は僕らのウォーゲームの衝撃からずっと追い続けていますが、
どうにもここ最近の作品には、作りたいシーンが先行しすぎており、パワープレイで急にラストシーンに結びつけるというような展開も多く、かつてのようなすっきりとした物語の流れを感じません。
この作品は近年のその不安が顕著に示されたものになったと思います。
私が好きだったのは別で脚本家さんがいた頃の作品だったんだろうなと。
冒頭の話に戻りますが、シーン、シーンとしては理解できます。
しかし、ちょっとしたコメディを挟みたいのか、妙な間や空気感の演出が、物語の流れとして
効果的に作用しているかと考えると、スベッてるなとしか思えなかったですし、
その後のテンポを上げて物語のリズムを取り戻していくということもなく、
声優さんのクオリティはさておき、登場人物達の感情がシーンごとの処理で終わっており、一貫したキャラクターが構築されておらず、声優として演じる側も、キャラクターを理解できず、好きになれずで苦労したろうなという印象でした。
特に気になったシーンといえば、ベルがジャスティンに詰問されるシーン。
ベルの画だけになる所で完全にストップしていて放送事故のように見えて怖かった。
瞬きもモーションキャプチャの特有の揺れもなく、驚いているのか、考えているのか、困惑しているのかという表情の変化も感じ取れませんでした。
また、終わり間際の父親がわめいて殴りかかろうとするシーン。
竜の時との対比で、喚き散らしてくる相手に動じなくなった主人公の成長を見せたい、
というのは理解できましたが、子供に簡単に手を上げるような男が、何を思って尻もちをつくまで恐れて逃げていく、というのが理解できません。笑う所なのかな?と思いました。
動じない主人公の態度に恐れをなしたんだという解釈だと思いますが、違和感がある以上、そういう状況に見せる要素が少ないのだろうと感じます。
竜の動きが早すぎて、どんな攻撃をしているのかがわからない。
唐突な炎上シーンでよくわからないメダルゲームの演出。
合唱のおばちゃんたちはスズの居場所がどうしてわかったのか。
など、細かいところで違和感は多々感じました。
細田監督の作品は決して嫌いではありません。ただ、今回はちょっと酷かったかなと。
恋愛、アクション、サスペンスと色々詰め込みたかったようですが、詰め込みすぎて説明的なセリフで展開を無理やり切り替えるといった所もあり、正直もっとシンプルでいいのかなと。
勝手に評価させていただいている身ではありますが、監督がお好きなものを作るのは当たり前なので、どうぞご自由にというスタンスですが、脚本に関しては脚本家さんにご依頼されるなど、もう一度ご検討いただきたいなというのが正直なところです。