「圧倒的音楽と映像美◎ ストーリー✖︎ じっくり感想」竜とそばかすの姫 まるたろうさんの映画レビュー(感想・評価)
圧倒的音楽と映像美◎ ストーリー✖︎ じっくり感想
細田監督の作品は欠かさず見てきましたが、今作はサマーウォーズと同じ仮想現実をテーマに扱った作品という事でワクワクしながら鑑賞させて頂きました。
…圧倒されました。CG技術と背景美術が組み合わさった映像美は言うまでも無いですが、OZのようなキャラクターの個性を全面に押し出したハチャメチャな感じと、浮遊する近未来都市?のような精細かつリアルな空間が融合していて、とても新鮮な感覚でした。
あと個人的にテーマ曲のUにどハマりしました。キャッチーなドラムスのイントロから始まるのですが、映画の冒頭で流れ出した途端、自分もUに入り込んだ気分になり、とても観ていて高揚感がありました。歌と映像で世界観に引き込む感覚はミュージカル映画に近いと感じました。
映像と音楽は◎!…なのですが、設定や世界観の説明が不足しているように感じます。
・U→身体に装着したデバイスを通して接続可能な仮想現実
・AS→Uのアバター。自分の内なる個性?欲求?痛み?を引き出して具現化する。生体情報と紐付けされているため、アンベイル(身バレ)される危険もある。
・一応、仮想世界上でも犯罪は起こるらしく、警察が居る。
…らしいのですが、この設定を理解するのに割と時間がかかりました。一応、近未来を想定した設定だと思うのですが、一方で現実世界の設定は、ほぼ今のままなので、ちぐはぐ感は否めませんでした。
特に気になったのは、アンベイルの権限を持ってるオッサンが、中身は喋ったら一発で分かる極悪人と言う点で、セキュリティ甘すぎ!と思わず突っ込んでしまいました(笑) その辺が、逆にリアリティある仮想現実という設定を求めていただけに少し安っぽく感じる部分でした。
あとは、すずが自らアンベイルするシーンですよね。顔とか生体情報って最大の個人情報な筈なのに、しのぶくんは「自分の正体を晒けだせ」とか云々言ってて、すずのリスク考えたら他人がとやかく言うのは絶対におかしい、と思ったり(笑)
でも一番残念だったのは、やっぱりストーリーだと思います。というより、伝えたい内容に対して圧倒的に尺が足りてないのでは?と思いました。
具体的に、
・なぜすずは顔も名前も知らない龍にそこまで入れ込むのか。水難事故で顔も名前も知らない子供を助ける母親の背中に突き動かされたのは分かったけど、何か腑に落ちない。仮想空間での龍があまり魅力的では無かったからかもしれません。
・なぜ周りの人間は彼女がbelleであることに気がついたのか。現実のすずの周りの人間のASはヒロちゃん以外ほぼ登場しないし、いつの間にか実はbelleだと知ってたアピールをしだしたので、なんで???となった。
・なぜすずはたった1人で現実世界の彼(龍)のもとに向かおうとしたのか。冷静にあんな暴力を振るう父親を見ていたはずなのに何故周りの人間(特に大人)は彼女が1人で向かうのを傍観してたのか。一部始終を見ていたはずなのに駅前で送り届けてバイバイは単純に無責任に感じました。(実際に怪我してるし!!)
…このように、大人が大人として存在していないので、「信用できない大人」みたいな監督の固定観念が裏にあるのでは?と勘ぐったり。
と、色々突っ込みどころは多かったですが、僕個人としては概ね満足です。細田守監督の新しい挑戦が見れたところが一番の評価できるポイントでした。見たことのないものを創ろうという気迫を画面から感じました。
ただ、この2時間のコンテンツが映像作品ではなく、テーマやメッセージを持った作品として見る価値のあるものなのかは疑問でした。本作で扱ったテーマをきちんと回収するには、最低でもアニメ1クールぐらいの尺が必要なのでは?というのが正直な感想です…(笑)