「文部科学省推薦映画」竜とそばかすの姫 おかずはるさめさんの映画レビュー(感想・評価)
文部科学省推薦映画
細田監督の作品は背景がいい。
本作では廃校の教室と高性能システムとの組み合わせが良かった。
旅行が困難なこのご時世においては、夏の高知の青空も心に響いた。
すずの自宅の最寄り駅(!)は、ちょっとキャラクターとミスマッチだったかも。
あと、すず(ベル)をスクリーンの中心に置いたショットが目立った感じがした。
本作は夏のアイドル映画とも言えるので、上記のショットも含めてヒロインの魅力を目立たせる演出が効いていたと思う。
亡き母親の思いが自分にも引き継がれていたことを理解した少女が、少し大人になるという定番のドラマ。
ドラマを動かすプロットには「美女と野獣」のようなロマンスもある。
倫理的に正しい大衆娯楽作品。他者を愛することの価値が低下する現況に鑑みて、文部科学省が推薦してもおかしくない。
仮想空間と大量アバターは劇場の大画面に堪える精細なものであったが、古さもすこし感じた。最近ヒットした「デカダンス」を見たばかりだからだろうか。
物語上の必要性があったにせよ、仮想空間で「ありのままの自分」を他者に示すことを感動的に描くのも違和感があった。私たちはいくつものペルソナを使い分けることで、社会をうまく渡ることができる。せめてネットの世界では、その緊張から解放されて虚構に浸りたいと思う。
最後までだれない話運び、仮想空間でのライブ感、丁寧なキャラクター演出。
大衆娯楽作品としてなら、これまでの細田作品の中でもっとも完成度が高いと思う。それでも手放しに好きな作品とは言いにくい。
「未来のミライ」でもそうだったが、作品テーマが正しさに満ちており、主人公の周囲の人間が概ね「良い人」たちであるため、終始いたたまれなさを感じてしまうのだ。
2時間をエンタメ作品で潰したい人には絶対オススメできる作品ではある。
ただ、私の人生との間に縁を感じない。
「おおかみこどもの雨と雪」のような恋がもたらす感情の高ぶりと家族の別離を描いた細田作品が観られることを願ってやまない。