「正当な評価を受けるべき作品」竜とそばかすの姫 いししのしししさんの映画レビュー(感想・評価)
正当な評価を受けるべき作品
細田監督の認識は薄かったのですが、地上波で流れた「バケモノの子」がなかなか良かったので、衝動的に観たくなり家族で行きました。
とにかく細部まで丁寧に作りこまれている作品です。映像・音楽の良さはもちろん分かり易いのですが、家族の死を受け入れられない女子高生と父、片親家庭におけるワンオペが引き起こす虐待、SNSに拡散する無責任な誹謗中傷・まやかしの正義、高校生の淡い恋模様、など複数の社会的なテーマが絶妙に盛り込まれており、「サマーウォーズ」のような単なる娯楽作品には留まりません。
なぜレビューで低い評価を付ける方が目立つのか、その内容を読んでみると、監督の意図がうまく伝わっていないようです。そしてそれが、ご自分の読解力不足と考えず、説明不足ととらえているようですね。年代による差もあるのでしょうか。
単純で娯楽性要素の強い作品が万人に広く受けやすいですが、本作のように想像力や理解力を要求するもの(私は分かり易いと思いますが)も、素晴らしい作品は正当な評価を受けるべきです。
自分が気に入らないからと言って、この作品のレビューにボロカスコメントを書くのはどうかと思いますよ。そのような考えがSNSで拡散され主流となる世の中は恐ろしいです。まさにこの映画のテーマでもあるのですが。
それでも私以上に深く理解している方もたくさんいらっしゃり、レビューを拝見すると安心します。鈴が自分の行動を通じて、母親の気持ちの理解に至った瞬間の表現は圧巻でしたね。あえて付け加えるなら、私は二人の父親の気持ちに注目しました。
一人目は鈴の父親。突然愛する妻を亡くし、その後心を閉ざしてしまった娘と暮らす。辛かったでしょうね。不器用だが大切なことは理解している彼は、娘を信じて見守り続けました。終盤の役所さんのセリフ、他の情報を遮断した演出は見事です。
もう一人は恵の父親。こちらも妻を亡くし(詳細は不明:例えばこれを説明不足と非難する必要があるのか?)たあと、二人の息子(しかも一人は要特別支援)を育てている。対外的には評価され(?:報道写真があった)、「出来た父親」を演じていたが内情は違っている。子供たちに辛く当たるのは、自分でも間違っていることはわかっているのに、もう一杯一杯で変わることが出来ない、自己矛盾。しかし、そこに突如現れた鈴の毅然とした態度に、遂に我に返る。鈴を殴ろうとしても殴れない父親の葛藤を、繊細に表現した路上シーンは素晴らしかったですね。鈴は父親も救ったのです。
細田監督に興味を持ち、「未来のミライ」を観てみました。未熟な両親が二人の子供の育児を通じて成長していく作品ととらえました。子育て・家族の営みは、時を超えて脈々と受け継がれ、これからも続いていく、それをファンタジー風に表現しています。低評価のレビューが並びます。確かに娯楽性が乏しいですし、このテーマでは一般受けはしないでしょうね。でも「竜とそばかすの姫」を見た後では、ジワジワと感動が押し寄せてきます。ああ、細田監督は人間愛に溢れている人なんだ、頑張っている人を応援しているのだ、理不尽な誹謗中傷や、薄っぺらい正義感は苦手な人なのだ、と私は理解しました。
このような素晴らしい作品を世に送り出して頂いた、監督・スタッフの方々に深く感謝申し上げます。今後の活躍を期待しています。