「私はまた歌い続ける」竜とそばかすの姫 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
私はまた歌い続ける
細田守監督最新作。
すでに言われている通り、『サマーウォーズ』のようなインターネットの世界。
開幕は新しいインターネット世界“U”へようこそ。登録者人数は50億人以上。そこであなたは“As”と呼ばれる分身=アバターとなり、仮想世界とは言え、この世界を自由に過ごせる。現実世界の失敗や辛い事をやり直す事も…。
あれから10年以上。さらに進化した“OZ”の世界のよう。
今、“U”の世界で話題沸騰の存在が。突如現れた謎の歌姫、ベル。
華麗な衣装、圧倒的な美貌、何より聞く者全てを魅了する歌声…。
開幕からさながら“ベル・ショー”とでも言うべき豪華絢爛な歌唱シーンで始まり、引き込まれる。
一体、ベルは何者なのか…?
その正体は…
…私なんです。
高知県の田舎町に暮らす女子高生、すずがその正体。
特別活発な性格でもなく、ましてやマーチングバンドの可愛い人気者でもない。内気な性格。
そんな彼女が何故、仮想世界の歌姫になったのか…?
父、母、自分の3人。幼い頃は平凡だが、幸せな暮らしだった。
明るく優しかった母。歌も母が教えてくれた。
ある日母は、氾濫した河岸に取り残された子供を助けて、犠牲になった。
ネット上では称賛どころか、誹謗中傷の声、声、声…。
すず自身も母に対して疑問。どうして、他人なんかを…?(←終盤のすずの行動に伏線として繋がる)
以来、心を塞ぎ込む。父も不器用ながら優しく、常に気を掛けてくれるが、会話も少ない。
歌う事も辞めた。無理に歌おうとすると、吐き気すら催す。
そんな時知ったのが、“U”。
学校の人気者をモデルに、自身の特徴であるそばかすを付けて登録。
勇気を出して、“U”の世界で初めて歌ってみたら…
突然現れた“新人”に、賛否両論。何だかこの賛否両論の声は、細田監督が自身と作品への胸中に感じた。
とは言え、予想以上の大反響。仕立て上げた毒舌親友は面白がってるが、こんな筈じゃなかった!
でも、この世界でならやり直せる。辛い現実から一時でも逃れられる。また歌える。
すずの背景や経緯をリリカルに描く。
あっという間に“U”世界の人気者になったベル=すず。
世界中が注目するコンサート。
その直前、突然乱入した謎の黒い竜。
以前から“U”世界で荒らしをする有名な嫌われ者。
“U”の住人や自警集団“ジャスティス”は、竜のオリジン=正体を暴こうと躍起に。
竜に自分と同じ孤独を感じたすず。ジャスティスの捜査網を掻い潜り、竜が住んでいるという城へ。
竜は気性荒く、誰も近寄らせぬ性格。
すずは諦めず幾度も城を訪れる。
ある時、ジャスティスのリーダー、ジャスティンに捕まってしまう。竜の居場所を言わなければ、オリジンを暴く=アンベイルするという。
そこを助けに現れた竜。
危機を脱して、城に戻って…
すずは歌を届ける。
竜の心が穏やかになっていく。
誰かの手の差し伸べが必要だったのだ。
しかし遂に、城がジャスティスや住人たちに見つかってしまう。
取り囲み、乗り込み、オリジンを暴け!
それはまるで、もはやSNSの誹謗中傷ではなく、魔女狩り。
すずは竜を助けるべく、城の中へ…。
…と、お気付きのように、途中から話は『美女と野獣』に。
美女=ベル、野獣=竜、さらには城や薔薇やダンス、竜に支えるサブキャラ、正義を振りかざす傲慢な悪漢=ジャスティン、展開まで何もかもクリソツ。
何やらバッタもんと言われてるみたいだけど、個人的には細田監督は包み隠さず『美女と野獣』をやりたかった最大限の“オマージュ”に感じた。
作品を彩る歌や音楽は素晴らしく、魅了される。
OPの“U”世界へ誘うアップテンポの歌もいいが、終盤すずが、ある人物の為に心から届けた歌が感動的。
毎年、アニメ映画の中からその年を代表するような歌曲が誕生するが、今年はもう本作でほぼ決まりだろう。観てからもずっと、頭の中でリフレイン。
言うまでもなく、抜擢されたミュージシャン、中村佳穂の歌唱力。未経験ながら声優としてもそう悪くはなかった。
色々レビューを見ると、ストーリーについて賛否両論。良かったという声もあれば、細田監督史上最低、中には映画史上最低なんて声も…。
さすがに奥寺佐渡子が手掛けた作品ほどではなかったが、細田監督が自分自身で手掛けるようになってからの中ででは一番良かったと思う。
三度インターネットの世界に挑み、当たり前になっているネット世界の誹謗中傷、『美女と野獣』風のファンタジー、現実世界でもヒロインの再起、成長、青春、家族、社会問題に切り込む。
そこに、華麗な歌、ビジュアルなどのエンタメ性。
多少詰め込み過ぎではあるが、満足度は大きかった。
失礼ながら『未来のミライ』がいまいちだった分、久々に面白い細田作品が帰ってきた!…と嬉しくなった。
名作だし、好きなのは分かるが、余りにも『時をかける少女』や『サマーウォーズ』と比較し過ぎかなと。それに、『サマーウォーズ』だってよくよく考えてみれば、田舎の大家族と平凡な高校生がネットからの世界危機を救うという、ありえねー!話なんだから。
判明した竜のオリジン。が、却って逆効果。激しく拒絶される。
竜のオリジンに、すずは自らジャスティンのアンベイルする光を浴び、正体を晒す。
歌姫ベルのオリジンは、平凡過ぎる女子高生。
またしても誹謗中傷の声。騙された!
でも…
竜を助ける為には、オリジンとオリジン対等に。
親友たちに支えられ、歌う。
どうかこの歌声が、届いて!
自分に自身が無く、それこそそばかすすらコンプレックスであっただろうすず。
そんな彼女が世界中が見る中で、心に訴え掛けるように、響くように歌う。
このシーンのすずの姿と歌は、ベルの時より美しく、魅力的であった。
竜のオリジンの心に再び届く。が、オリジンにはある“問題”が。
その為に居ても立っても居られず、行動を起こすすず。
竜のオリジンは、全く面識も無い赤の他人。
そんな他人の為に奔走する。
かつての母のように。
幼い頃は理解出来なかった母の行動。
誰かが困っている。苦しんでいる。助けを欲している。
それが誰であろうと。他人であろうと。
手を差し伸べる。
今は分かるよ、お母さん。
すずはまた歌い続けるだろう。この出会いや経験を通じて。
我々も勇気付けられるだろう。そんなすずの直向きさに。
誹謗中傷や賛否両論などどーでもいい。いや寧ろ、それほどの期待や注目の表れ。細田守監督作品はこれからも見続けていきたい。
前述したが、
ヒロインの成長、青春、家族物語、社会問題も織り込み、耳に残る歌、美しい画、エンタメ性、そして夏!
やはり夏はこういう日本アニメ映画が観たくなる!
余談その1
「私と同じじゃん…」って言ってたけど、ペギー・スーのオリジンって…?
余談その2
実は観たのは(月)。ここ数日仕事が忙しく、暑さで頭がボーッとしてレビューの筆も回らず。4日掛かってやっと書き上げました…。
この映画の批判的なレビューの数々とそれなりの高評価のレビュー。
色々なかたのレビューを拝読してて思ったのですが、細田監督って、実は映画作家としては、ちょっと不器用なだけなのかもしれないですね。