「現代における主人公の心の成長を描いた意欲作」竜とそばかすの姫 soさんの映画レビュー(感想・評価)
現代における主人公の心の成長を描いた意欲作
前評判通り、感動をしたのだが
「時かけ」や「サマーウォーズ」とは
かなり違う類の感動だった。
終始、主人公の葛藤に寄り添いながら
ボディーブローのようにジワジワと
涙腺を攻めてくるような印象だった。
クライマックスでは主人公の最大の勇気とともに
歌の魅力も相まって、こぶしを握り締めながら
画面に見入ってしまった。
物語自体は、少し読解力が必要で
散りばめられているヒントから
自分で補完をしなければいけないところが多い。
一言補足してほしいというところもあったが
丁寧に見ていれば納得できるし
説明しすぎないことによって心情が
リアルに伝わってきたところも良いと感じた。
細田作品においては、主人公の成長が
テーマに挙げられており、入道雲のシーンは
特に重要な場面になっている。
自分を置いて見知らぬ子を助けた「母親の死」
から自分の価値を見つけられない主人公が
最後は自分も同じように
見知らぬ子を助けるために走り出すという
母親との繋がりを感じられたシーンは
理解した時にグッとくるものがあった。
このシーンは特に大事で
後先考えず、飛び出してしまうことで
自分も母親と同じだったんだと
母の気持ちを察するとともに
学生ならではの無鉄砲さも
含むことで納得感を演出する。
ここは主人公視点で見ないと、
あり得ない話だと冷めて見ることもあるだろう。
また母親が濁流に身を投げ出したのと同じように
ネットでの身バレという、社会的な死に
自ら飛び込むという描写は
現代社会とも結びついていて正直ゾッとした。
最後の虐待のシーンついては
父親をとんでもない悪だと決めつけていいものか
かなり迷うところもあった。
それは物語の中で一貫して語られている
人の一部の行動を見て決めつけることで
誹謗中傷を生むという点である。
学園のマドンナのルカが
素直な良い子あったように
父親の本性はまだ見えない部分もある。
(もちろん父親は悪い部分が多いが…)
おそらく障害のある弟が、何もいうことを聞かず
母親のいない中で、仕事しながら
不器用に子どもを叱りつける父親を
どこまで断罪すべきか。
竜のあざが物理的ではなく、
心のあざだという点も相まって
実際に暴力を振るっていたのかどうかも不明だ…
父親と向き合うという恵だが
それが出来そうだと思える要素が本人に
あるということであれば、壮絶な虐待の
イメージはミスリードなのか…。
このあたりは想像をするしかない。
したところで正解はないが。
これはただのラブストーリーではなく
社会風刺と個人のドキュメンタリー要素が
多いという点で、昔の細田作品より深く
難解なものになっている。
あえてミスリードを誘うテクニック
(竜の正体など)もあり
本当にサラッと描かれている心理描写や
セリフなどがあるため、
観賞するときは集中して読解しないと
ストーリーに置いていかれるだろう。
脚本が破綻しているのではなく
逆に練り込まれすぎていて
理解する前に物語が進んでいるのだ。
伏線回収や、なぜこのシーンがあるのか
読み解けばしっかり答えは隠されているので
見終わった後に考察することをオススメする。