「めっちゃ良かった」映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
めっちゃ良かった
クレヨンしんちゃん映画には二つの大きすぎるハードルが存在します。
それは『オトナ帝国の逆襲』『アッパレ戦国大合戦』という名のハードルです。
原恵一が監督を務め、2001年と2002年に公開されたこの2作品は誰もが認めるアニメ映画の傑作であり、2003年以降のクレヨンしんちゃん映画に呪いのように付きまとうことになります。元々クレヨンしんちゃん映画は「大人が観ても楽しめるエンタメ作品」として好事家から一定の評価を受けていた作品でしたが、2003年以降はその高すぎるハードルを越えられないでいた印象です。もちろん2003年以降に公開された映画にも面白い傑作映画は数多くありましたが、『オトナ帝国』『戦国大合戦』と比較して論じられ、過小評価されてしまうことが多かったように思えます。
私個人としても、小学生の頃に鑑賞した『オトナ帝国』が子供ながらに心に刺さり、誇張でなく「ビデオテープが擦り切れるほど観た」映画ですので、どうしてもクレしん映画は『オトナ帝国』と比較しながら観てしまう節があります。2014年公開の『逆襲のロボとーちゃん』がめちゃくちゃ評価高かった印象がありますけど、私にはあまり刺さらなかったです。
しかし本作『花の天カス学園』は、『オトナ帝国』に負けず劣らず私に刺さりました。
ミステリー要素も良かったですし、友情や家族愛がしっかり描かれたストーリー、無駄のない脚本や演出、芸能人声優の起用も無理のない程度に収まっていて個人的に凄く楽しめました。ラストの展開はどことなく『オトナ帝国』のラストシーンのオマージュのように見えました。20年越しに観た展開でしたがやっぱり心に刺さりました。
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風間くんの誘いで全寮制のエリート校「私立天下統一カスカベ学園(通称:天カス学園)」に一週間の体験入学をすることになったしんのすけたち。そこは日本中のエリートが集い、高性能AIが生徒たちを管理するハイテク学校だった。体験入学でいい成績を残せれば推薦入学できると聞いた風間くんは張り切って授業に取り組むが、それ以外のメンバーはあまり乗り気ではなかった。そんなある日、学園にある立ち入り禁止の時計塔で風間くんがお尻に歯形を付けた状態で倒れているのが発見される。目を覚ました風間くんは、見る影もないほどにおバカになっていた。風間くんをおバカにした犯人を見つけるため、天カス学園の落ちこぼれ生徒会長である阿月チシオとともに、しんのすけたちは捜査に乗り出すのだった。
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最新AIのオツムンが全校生徒を監視し、その生徒の行動や学業の成績から点数を付け、学園内の序列が決まっていくという設定。古い作品ですけど、『がんばれロボコン』もそんな感じの作品だった気がします。あと、『PSYCHO-PASS』っていうアニメも、「シビュラシステム」という人工知能によって人々の潜在能力や人格を数値化し、それによって将来が決定してしまうという設定になっていましたよね。それに近いと思います。
クレヨンしんちゃん映画としては珍しく、本作のジャンルは本格ミステリ映画です。
「ちゃんとミステリーしてる」んです。クレヨンしんちゃん映画らしいぶっ飛んだ設定や演出はありますが、きちんと犯人に繋がるヒントが落ちていて、ある程度犯人の目星が付けられるようになっています。具体例は出しませんけど、世の中には「それで犯人分かるワケないだろ」っていう自称本格ミステリー映画が結構ありますので、それらと比べれば「クレしん映画でここまでちゃんとミステリーやってくれるんだ」というのは感動すら覚えます。
そして、一番感動したのは本作のラストシーン。しんのすけと風間くんの焼きそばパン争奪戦です。
あの手この手でしんのすけたちの進路を妨害してくる風間くん(オツムン)と、協力しながら風間くんに立ち向かうしんのすけたち。最初は「自分もエリートになりたい」という考えでしんのすけたちを否定していた天カス学園の生徒たちも、必死に頑張る姿に感銘を受け、次第にしんのすけたちを応援するようになる。
多分クレしん映画が好きな人なら、ほとんどの人が『オトナ帝国』のタワーを上るラストシーンを思い浮かべたと思います。野原一家が協力して追手を振り払い、最上階に向かうケンとチャコを追いかける。野原一家の一生懸命な姿に感銘を受けた「イエスタデイワンスモア」のメンバーたちは考えを改め「未来を生きてみたい」と願うようになる。まさに今回の『天カス学園』のラストシーンと通じます。
オツムンの開発した「エリート製造機」は子供の多様性や成長を否定する装置です。それに対して、子供の持つ可能性を見せつけたしんのすけたちの行動は、本当に感動します。エリート製造機は最短距離で無駄なくエリートを作り出す装置ではありますが、その「無駄」にこそ少年期から思春期の人格形成の本質があるのだと思います。人格の定まらない型にはまったエリートばかりだと世の中つまらないですよ。
非常に面白く鑑賞させていただきました。クレヨンしんちゃん映画にはまだまだ可能性が秘められているのだと感じます。オススメです!!!!!