劇場公開日 2021年2月19日

「想像以上に突き抜けた面白さ。ドイツから生まれたおバカ・サメ映画の極北!」スカイ・シャーク じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5想像以上に突き抜けた面白さ。ドイツから生まれたおバカ・サメ映画の極北!

2021年2月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

なにがどうしてこんなことになったのか、よくわからないままに一大ジャンルを形成するにいたった「サメ映画」の豊穣なる世界。
その最終兵器が、遠くドイツの地から(ひさびさに)登場した!
思えば、ハーシェル・ゴードン・ルイスから始まったZ級ゴア・ムーヴィーの血塗られた歴史が、イタリアのルチオ・フルチを経由して、いつしかドイツの地で『ネクロマンティック』としてあだ花を咲かせるにいたったことを考えれば、この手のジャンルでドイツをバカにしてはゆめゆめならないのである。

空飛ぶメカシャーク! イルカに乗る少年のようにまたがるゾンビ兵!!
そのヴィジュアル・インパクトは圧倒的だ。

どこにサメである意味があるんだよと思われるかもしれないが、
見ればわかる。これは間違いなく「サメ」の映画だ。
雲「海」をぬって、背びれを見せながら迫りくるスカイ・シャークの群れ。
まさに、これぞ「ジョーズ」映画の醍醐味ではないか!
巨大なジェット機を、スカイシャークの群れが小刻みにむさぼり尽くし、ついには四散爆裂させるようすは、まるでマッコウクジラを襲うシャチの群れのようだ。

ここでの「空」は、まさにスカイシャークにとっての「海」なのだ。

それをトリトンばりに乗りこなすゾンビ軍団は、ただサメに乗っているだけの存在ではない。
勇敢なクジラ漁師のように、彼らはモリを打ち、ジェット機に乗り移り、内部から乗客を八つ裂きにし、皆殺しにする。おおお!「空挺ドラゴンズ」のようじゃないか!

獲物となる無垢なる乗客たちのこまやかな描き方もすばらしい。
その多数の命が、圧倒的な残虐性とコミカルなまでの殺し技の妙によって、一瞬のうちに刈り取られてゆく爽快さは、なににたとえられようか!?

とにかく、低予算とはとても思えないヴィジョナリーの真の豊かさと、ツボを心得た笑えるスプラッタ描写、トム・サヴィーニ御大による本気の特殊効果、くっだらない設定を真顔で大風呂敷ひろげてく厚顔さ、すべてが素晴らしい。
正直なことをいえば、出来としてはSFX・脚本・演技・演出のすべてが本当にゴミのようなZ級映画であるロジャー・コーマン一派の本家「サメ映画」と比べたら、マジで50倍くらいはちゃんとしている。

どちらかといえば、はした金のためにバカ映画を撮り続けているイタリアやアメリカの無能監督たちとはちがって(従来のサメ映画とは、その愛のなさと投げやりさこそを愉しむものである)、マーク・フェーセ監督は、「おバカ映画」「サメ映画」「スプラッタ映画」「Z級SF」が好きで好きで、そのおバカさをハイクオリティに再現しようとしている「トラッシュ好きのインテリ」タイプである。その意味では、タランティーノやロドリゲスの一派に近いタイプだといえるだろう。
そういや、ところどころに日本への目配せが入ってるのもタラちゃんっぽいかも(外国映画でこんなに美しく「タカハシ」が発音されるのを初めてきいたw)。

ただし、このべた褒めの批評は、冒頭の20分と、終盤の30分に「だけ」向けられたものであることにくれぐれも注意してほしい。
はっきりいって、中盤のかなりの時間、映画は停滞する。
ぶっちゃけ、ほぼゴミ、といっていい。
面白くもなんともない各国の首脳のやりとりの様子やマッド・サイエンティストの回想をえんえん見せられることになり、きわめて苦痛である。
そもそもナラティヴが崩壊していて、今何の話をしているのかすら、よくわからない。
要するに、「ジャンル映画」のコアの部分に関しては、間違いなく優秀な監督さんだが、
通常の映画を撮る部分に関しては、はなはだ無能か、もしくはちゃんと撮ること自体にほぼ関心がないのではないかと(笑)。

そのぶん、サメが活躍するシーンだけは、パリ幻想派の如き映像美といい、ふっきれたゴア描写といい、切れのいいアクションといい、本当に文句なしの傑作なのだ。
なにせ、でてくるのはただのホオジロサメだけじゃない。種類にまでヴァリエーションがある!
もちろん、大ボスにはメガロドンも控えてる。
ジャンル・フリークなら、誰だって否応なく胸を熱く高鳴らし、腹を抱えて笑うはずだ(ただ、頭がいいくせにバカをやるタランティーノみたいなのがマジムカつく、ほんとに狂っててゴミしか作れない本物のゴミ映画しか美学的に認めないってタイプの人にとっては許せない映画だと思う。ある意味とても「これみよがし」な映画だから)。

終盤展開される「対スカイシャーク&ゾンビ軍団の秘策」も、やってること自体はバカもバカもバカすぎてただひたすらバカとしかいいようのないものだが、ナチもアメ公もベトナムもフェミもへったくれもねーぜ、まとめてかかってこいみたいなスタンスは実に凛々しく、すがすがしい。

総体的な映画の出来云々は、本作においてはまったく本質的な問題ではないので、「ゾンビがサメに乗って、空から襲ってくる」って設定をいくつかのシーンで十分に生かし、かつ描ききっているというその一点において、間違いなくすぐれた映画だと言い切っておきたい。

なお、エンドクレジットの背景に出てくるメタリック・アートのようなCGも、受肉兵器のようなミニチュアも、造形的に本当に素晴らしいセンス。流れる(監督自身の?)音楽もクールだ。
あと、全部終わったあとに、作中に登場する映画をモチーフとした手の込んだお遊びがありますので、くれぐれもさっさと席を立たれませんように。

じゃい
iwaozさんのコメント
2021年5月15日

これは絶対、観たいですね。
B級の中のA級というか、名作、迷作、ありますよね。
コメントありがとうございます!
m(_ _)m

iwaoz