「現代の都市生活者という“魂の難民” 眠りの音楽に癒され再生する」SLEEP マックス・リヒターからの招待状 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
現代の都市生活者という“魂の難民” 眠りの音楽に癒され再生する
夜の公園で静かに穏やかに音楽が始まる
舞台にはピアノとシンセと小編成の弦楽器とボーカル
交代で休憩をはさみながら8時間にわたり音を紡いでいく
客席に相当するスペースにゆったり並ぶ簡易ベッド
空気を優しく揺らす音の波を浴び聴衆は眠りに落ちる
鍵盤でミニマルな分散和音のリズムを刻むマックスリヒター
聴衆と音楽の関わり方を模索してきた現代音楽家
脳科学者に話を聞き
睡眠時の脳波に適する楽曲を追求した
映像作家の妻ユリアマールとの共同プロジェクト
ハンガリーで生まれ難民を体験したユリア
難民問題に迫ろうとする気持ちを持ち続けていた
なるほどベッドが並ぶ会場は難民や被災者の避難所のよう
騒音のなか時間に追われる都市生活者はいわば魂の難民
癒しと救いを求めSLEEPにやって来る
リヒターの低周波を強調する音作りは胎児の聴覚を意図
聴衆はまどろみのなか母胎にいた記憶を呼び覚ますのか
明るくなった空に最後の一音が溶けて消える
目覚めた人々は生まれ変わった気分を愉しむ
ナタリージョンズ監督は優れた音楽的感性と詩心ある映像で
一夜がかりのSLEEPを手軽に疑似体験させてくれる
観始めて早々に寝落ちしたとしてもそれはきっと正解
リヒターの音楽に心と体が反応したのだから
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