劇場公開日 2021年10月1日

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「インプラントって歯科領域だけじゃないのね・・・」サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0インプラントって歯科領域だけじゃないのね・・・

2021年5月7日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

 彼らの音楽はメタル?どちらかというと前衛的なパンクに聞こえたのだが、メタルという意味はもっと後から出てくるんかな?などと期待は高まっていく。

 医者からは治る見込みはないと告げられるし、インプラントは2~4万ドルとひどく高価な手術だという。恋人ルーの勧めもあって、ろう者コミュニティに参加したルーベン。最初は手術を受けることしか頭になく、手話も覚える気がなかったのに徐々に馴染んでいくのだ。

 今までにないほど素直になれる作品。というのも、こうした突発的な病気に罹ってしまったら、癇癪を起したり独善的になったりと、彼の風貌からしても乱暴者になることが想像できるのに、まったくそうはならない。ある意味、従順で高潔なイメージさえもたらしてくれるのだ。しかし、子どもたちにドラムの基礎を教えたりピアノの音を触って感じる訓練をしていくうちに、ドラマーに戻る希望を断ち切れなくなってしまい・・・

 後半は手術を受けてからのルーベンの様子。全体的に鳥のさえずりとか自然の音が効果的に用いられているのに、都会に住むルーの家の周りにはノイジーとしか思えない雑音ばかり。完全な聴力回復ではなく、脳を刺激するという手術には弱点があったのだ。ルーの歌う曲でさえ雑音に阻まれ良さがわからなくなってくるルーベン。トレーラーハウスでジプシーのような全国ツアーは互いを救ってくれたし、二人をそれぞれ幸せに導いてくれた・・・それだけを思い出にして新生活をスタートできるのか?ドラマーだからといって繊細なメロディーを追わなくてもすむのか?彼の決断がラストシーンに集約され、見事な余韻を残してくれる。

 自然の音と比較して雑踏の中の騒音。澄んだ音から重苦しくメタリックな効果音が脳を突き刺すのだ。この音作りがとても凄い。オーバードライブさせて、ファズをかけて、メタリックな倍音とホワイトノイズを付け加えたような、風邪ひいたときに頭がガンガンするみたいな感覚にさえ陥ってしまう。静寂の美しさもたまらん!

kossy