パーム・スプリングス : 特集
タイムループの世界で永遠に暮らしてみたらどうなる?
映画ファン必見! 斬新&センス良すぎのラブコメディ
あらすじと設定を見ただけで、心が「トゥンク」と、ときめく映画がある。4月9日から公開される「パーム・スプリングス」は、まさにそんな一本である。
舞台はカリフォルニアの砂漠のリゾート地パーム・スプリングス。ある結婚式に参列した男女が、何度も何度も“結婚式当日の朝”を繰り返す。しかし2人は、やがてその“世界”に居心地の良さを覚えてしまって……。
数多くの傑作が生まれる超人気ジャンル“タイムループ”ものに、新たな秀逸作が誕生した。この特集では、これまでのタイムループものとは一味違う本作の見どころと、海外での絶賛評、そして「実際に見たらどうなるか」というレビューを紹介する。
【物語】これは超素敵だ…!
タイムループの世界で、君と永遠に暮らそう――
○カリフォルニアのリゾート地で行われた結婚式 参加者の男女が目覚めると、式当日の朝に戻っていた…
パーム・スプリングスで行われる“妹の結婚式”に出席するも、幸せムードに馴染めずにいたサラ。式の最中にひたすらぼーっとしていると、ある男性に目が止まった。
男性はナイルズと名乗り、一見お調子者だが全てを見通したようなミステリアスな雰囲気もあって……。2人は式を抜け出し、すぐにいい感じになるが、突如として異常事態が発生する。
なんと謎の老人が現れ、弓矢でナイルズを襲撃してきた! 肩をグッサリ射抜かれ負傷したナイルズは、近くの奇妙な洞窟へ逃げ込んでいった……。
サラもナイルズを追って洞窟へ入るが、彼はなぜか「やめろ! 来るな!」と大声を張り上げる。そんな制止を聞かず洞窟の奥へと入ると、赤い光に包まれ気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは結婚式当日の朝だった――!
いわゆる“タイムループ”に閉じ込められてしまったサラ。さらに驚くべきことに、ナイルズはすでにループにハマっていて、何十万回と同じ日を繰り返しているそうだ。それだけでなく、謎の老人も同じくループにハマっており、不定期にやってきてはナイルズを襲撃して去っていくのだという。
なんだこの状況。とはいいつつも、やがて2人は“無限の今日”のなかで関係を育み、明日がこない日々を最高に楽しいものと思うようになる。タイムループの世界で永遠に暮らそうとしたら、一体何が起こるのか? 2人はこの“時の迷宮”にとどまるのか? それともやっぱり、抜け出そうとするのか? ウルトラハッピーな90分間(本編尺)が、幕を開ける――。
○定番の設定なのにどこか斬新! センス良すぎのバカンス満喫型タイムループ・ラブコメディ
劇中のナイルズが「よくあるやつだろ」と言っちゃうくらい、もはやタイムループは定番の人気ジャンル。過去にはビル・マーレイ主演の「恋はデジャ・ブ」、トム・クルーズ主演で日本のSF小説を実写化した「オール・ユー・ニード・イズ・キル」、そしてある女子大生が“殺される誕生日”を繰り返す「ハッピー・デス・デイ」などなど、数多くの良作が世に放たれてきた。
本作「パーム・スプリングス」は、それらのどれとも異なる“新鮮味”に満ち溢れている。まず「タイムループの世界には先客が2人もいる」という点が新鮮だ。先客が1人ならまだしも、2人となるとほとんど聞いたことがない。しかもそのうちの1人(謎の老人)は、もうひとり(ナイルズ)のことを恨んでいて、不定期に地獄みたいな嫌がらせに来るというのは非常にユニークな筋書きである。
そしてもうひとつ、「本作の核はラブコメディ」である点。ナイルズとサラは、2人で過ごすタイムループの世界に幸福を感じてしまう。普通は躍起になって抜け出そうとするところを、本作の主役は恋に落ちたために、「私たちは今日が永遠に続いても一向に構わん」と早々にリタイアするのだ。
とはいえ、2人は実は“人には言えない秘密”を抱えていて、次第にのっぴきならない状況に陥っていく。タイムループに巻き込まれた人々は“それぞれの幸福”を求めて行動し、クライマックスには得も言われぬドラマが待っている。
ポスターや場面写真を見てもらえればよくわかるだろうが、本作は、映画ファンの間で特に絶賛されスマッシュヒットを記録した「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」「mid90s ミッドナインティーズ」とよく似た雰囲気が充満している。とびきりオシャレで、ふんわりとした幸福に包まれる、そんな時間が過ごせるはずだ。
【評価】コロナ禍の2020年、映画界で絶賛の嵐!
「今年最も楽しい一本」「声を出して笑える」
○良作はほぼ確定 ゴールデングローブ賞にもノミネート、主演はあの人気ドラマ俳優
映画界で最も重要な賞のひとつである第78回ゴールデングローブ賞では、作品賞と主演男優賞(ともにコメディ/ミュージカル部門)にノミネート。斬新さだけでなく、作品自体の品質も際立って評価されており、これまでの映画賞では11受賞36ノミネートと快進撃を見せていた。
さらに、映画ファンが評価の基準として重用している“辛口批評サイト”「Rotten Tomatoes」では、批評家支持率95%(3月23日時点)という圧倒的な高評価を記録。コロナ禍であえぐアメリカではほとんどの映画館が営業していなかったため、ドライブインシアターで限定公開された後、またたく間に話題をさらい観客からも絶賛を浴びた。
何が言いたいかというと、本作は楽しい“だけ”じゃなく、高い品質を兼ね備えている。ナイルズ役で主演したのは、日本でも人気を博し、惜しまれつつもシーズン8でその幕を閉じたコメディドラマ「ブルックリン・ナイン-ナイン」のアンディ・サムバーグ。製作も兼ねている。
そして「ウルフ・オブ・ウォールストリート」や「ブラック・ミラー」などのクリスティン・ミリオティがサラ役で同じく主演し、「セッション」のサイコ教師役で世界中にショックを与えたJ・K・シモンズが謎の老人役で脇を固める。実力派キャストが実感のこもった名演を見せるからこそ、斬新な物語が“強い共感”を付帯した良質なドラマへと昇華されている。
海外メディアも称賛を惜しまず、以下のようなコメントを寄せている。
「王道ジャンルに新しさを持ち込んだ、エッジの効いたラブコメディ!」(Variety)
「どうしようもなく眩しい愛を伝える、素晴らしいコメディ映画!」(TIME)
「今年、最も楽しい映画の1本!」(Screen Rant)
「このタイムループ映画は、喜びを何度も繰り返す!」(The Guardian)
「スマートで笑えて楽しくてちょっと変わった1本」(Rogerebert.com)
「声を出して笑える作品」(Mashable)
【編集部レビュー】リゾート地の美しい風景が、
僕に「旅に出ろ」とささやいている
パーム・スプリングスの風景が鮮明に記憶に残っている。まさかタイムループものの映画を見ただけで、ここまで“旅行へ出かけた”気分になれるとは思っていなかった。
ナイルズとサラが水面に漂いくつろいでいる。強い日差しが肌をさんさんと指し、プールの塩素と浮き輪のゴムが混ざった独特の匂いが鼻腔をつく。口にはビールの豊かな苦味が広がり、頭を温かな風が優しくなでていく――。
鑑賞していて、代わり映えのしない日常を生きる僕自身の心が、爽やかに開放されるのを感じた。新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからおよそ1年間、「旅行気分になれる」とレコメンドされる映画を山と見てきたが、魂の開放感でいえば本作は随一だ。
本作の登場人物たちは、コロナ禍を生きる僕たちと重なる部分が多い。ナイルズたちはタイムループという、いわば“どこにもいけない閉塞した世界”で暮らすことを余儀なくされている。言ってみれば、未来のために自粛生活を送る僕たちも、“どこにもいけない閉塞した世界”で暮らしている。程度の差はあれ、望むと望まざるに関わらず、ナイルズとサラは“僕たち”なのだ。だから自然と、彼らに感情移入しながら見ることができる。
そしてナイルズとサラは、タイムループの世界に絶望したりしない。困惑したり、迷ったりすることはあっても、そこでの人生を投げ捨てたりはしない。つまらない日常に、彼らなりの“遊び心”を横溢させることで、いつだって“最高の日常”へと変換していくのだ。
高杉晋作は「おもしろきこともなき世をおもしろく」と言った。今の僕らは、どちらかというとおもしろきこともなき世を生きている。しかしナイルズとサラの姿を見ていると、まだ僕らには何かできることがある、と改めて思わされる。なんだか前向きな気持ちになり、気分が晴れていくのを感じる。
高杉晋作の言葉は、こう続くとされている。「すみなすものは心なりけり」。つまり日々を面白くするのも、つまらなくするのも、僕らの心次第だということだ。この映画は、僕に「旅に出ろ」とささやきかけてくる。マスクは手放せないし、思い切った外出もなかなかできないが、ひとまず映画館へ足を運ぼう。それが今、僕ができる最大の“おもしろきこと”だ。