「彼女の一球一球が時代を切り開く」野球少女 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
彼女の一球一球が時代を切り開く
主人公の鋭い視線。どんな困難が立ちはだかろうとも決して枯れない情熱。そう書くと映画を見る前からある程度の展開は予測できそうなものだ。だが本作はそういった方程式を用いつつ、自ずと壁を超えてくる。いや、決して勢いに任せてとか、スタンドからの応援に導かれてというものではなく、むしろ際立つのはグッと魂を踏ん張って耐え忍ぶ姿。泥臭さすら覚えるほどの葛藤や奮闘を経て、「プロになりたい!」と願い続ける彼女の姿が少しずつ周囲の固定観念に風穴を空けていく。フロントランナーならではの情景や、彼女にしか口にしえない心情を紡ぎ上げた脚本は濁りがなく巧みだ。その上、誰よりも挫折のつらさを知るコーチ、幼い頃から彼女の背中を追い続けてきた青年、そして様々な事情を抱えた家族が各々に織りなす人間模様がストレートにしっかり胸に響く。音楽の使い方もユニーク。光と彩りを添えるかのように、本作の味わいを無二のものへ昇華させている。
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