「バカバカしさで思い出を上書きする」くれなずめ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
バカバカしさで思い出を上書きする
ある程度長く生きていると何かに紐付いた過去の記憶というものがあったりする。紐付く何かは行動だったり物だったり様々だろう。
本作に登場する帰宅部の面々はそれぞれ何かが呼び覚ます記憶として吉尾という男がいる。
吉尾との思い出、それ自体は楽しいものであったとしても、そこから更に思い出すことに後悔があればどうだろうか。吉尾との思い出全てが苦々しいものになってしまうかもしれない。
馬鹿みたいに振る舞って自分を騙して誤魔化して、そんなことで苦々しい後悔を消そうとしてもそう安々と消えることはない。
吉尾の中の未練とは、大事な仲間たちの後悔の払拭だったのかもしれない。
成田凌演じる吉尾はすでに亡くなっている。亡くなっている吉尾が冒頭から普通に出ていて、しかもそれを皆が普通に受け入れているのが面白い。
(死んだはずの)吉尾が何でここにいるの?まあいいか、程度のノリで受け入れてしまっているところが斬新。
そこかしこに幽霊が存在しているかのような半ファンタジーが終盤のさらなるバカバカしさを許容する。
とはいってもレビューをちょっと見た限り受け入れられていない人もいるようであるが。
どちらかというと終盤のバカバカしい展開よりも吉尾がしつこいことのほうが引っかかった。はよ成仏せいと。
しかし、吉尾に紐付く苦々しい後悔がこのバカバカしい展開によって、バカバカしく楽しいだけの思い出に変わったのだと思うとこれで良かったのだろう。
やはり吉尾の未練は、仲間の中にあった後悔なのだと思う。それが上書きされてはじめて成仏できるのかなと。
松居大悟監督はまだ三十代なのにそんなに過去を思い出すのかな。
「ちょっと思い出しただけ」も過去の思い出についての物語だった。
扱う内容として面白いとは思うけれど、どこかちょっとセンチメンタルでネガティブなものを感じてしまう。
創作する過程であれこれ考えていると過去を思い出すというのはままあるとは思うが、作品のトーンに比べて内容が暗めなのがちょっと心配。