バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら : インタビュー

2021年4月6日更新

元祖バイプレイヤーズの田口トモロヲ×松重豊×光石研×遠藤憲一大杉漣さんを追い求めながら更なる高みへ

画像1

精神的支柱でもあったリーダー不在の穴は埋められない。だからこそシリーズの継続には懐疑的で、さまざまな葛藤もあった。それでも田口トモロヲ松重豊光石研遠藤憲一はドラマのシーズン3「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」、そして映画「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら」で顔をそろえた。4人それぞれが大杉漣さん(享年66)への寂寥(せきりょう)感を抱えつつも、共通していたのは次世代へ継承するという思い。さらに松重からは、今後の展開について全員納得の妙案も飛び出した。(取材・文/鈴木元

画像2

大杉さんが急逝したのは18年2月、ドラマのシーズン2「バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」の撮影終盤だった。ドラマは脚本を変更するなどして最終話まで放送されたが、残された4人にとってはシリーズの終えんを意味するものでもあった。それだけに映画化へのアプローチにも否定的な見解しか浮かばなかった。

画像3

田口「元祖バイプレイヤーズとしてはなかなか立ち上がれない気持ちでいたら、企画が通りました、(配給が)東宝さんでと周りを固められてしまって、重い腰を上げざるを得なかった」
 松重「大杉さんを失って、4人で以前のようなことはできない。無理という答えしか出なかった。奇跡的にこういう展開になって、参加させていただくしかないという気持ちにならざるを得なかった」
 光石「さあ、もう1回という気持ちにはさすがになれなかったけれど、周りの皆さんが頑張ってくれてこういう形にしていただいたので、参加しない理由がなかった」

画像4

遠藤に至っては、はっきりと拒否の姿勢を示したほどだ。

「漣さんはいないし、絶対に無理だと思っていたのでイヤだって言ったの。それでは済まされない状況になったから1日だけだったらいいですと。どういう形で出たいか聞かれたので、ふと思いついてフィリピンに行っちゃっているのはどうですかと言ったら、それでいいということになった」

画像5

1月にスタートしたドラマ、映画とも舞台は郊外にあるスタジオ・バイプレウッド。既に関係性のでき上がっている4人は事前に打ち合わせをすることもなく、自然に撮影へと溶け込んでいく。

松重「4人でいるとそこで空気ができちゃうので、何もないままカメラを回してくれた方がそれっぽく画(え)には収まると思う。遠藤さんのスケジュールが取れないという噂は回ってきても、暇だったら来ればという感じ(全員爆笑)。それが楽しいし、本人役で役と本人の境目のあいまいさも含めたものものがこの作品の面白味ですから」
 光石「皆がなんとなく自分のポジションに入って、サッカーに例えると誰かが(前線に)上がると誰かがディフェンスに回るようなことを自然にやっている気がすごくするんです」

画像6

映画は4人に加え小沢仁志近藤芳正津田寛治渡辺いっけいら“おじさんバイプレイヤー”たちが入り乱れる列車の銃撃シーンで幕を開ける。クエンティン・タランティーノ監督の「レザボア・ドッグス」のパロディで、これがベースとなる番組「小さいおじさん」へとつながっていく。

画像7

遠藤「何をやっているのかさっぱり分からなかったし、どういうふうになるのかも全く分からなかった。指示されるままにやっていたけれど、そこで一生懸命やっているのが楽しいんですよ」
 光石「特にグリーンバックのところは全然分からなかった」
 松重「クランクインが、鉛筆を持たされるシーンだったから」
 田口「何が面白いの?と思いながらも、やっていくうちにどんどん楽しくなっちゃう」

画像8

撮影所内の食堂が「さざなみ(漣)庵」、映画のカギを握る撮影所長が飼っている犬の名前も大杉さんの愛犬と同じ「風(ふう)」など、随所に大杉さんへのオマージュがちりばめられている。だが、田口は複雑な表情を浮かべる。

「漣さんの不在に関しては、正直に言ってまだ消化しきれていない。4人で顔を合わせるといろいろと思っていたことが吹っ飛んですごく楽しい状態になるんですけれど、ふとした瞬間に漣さんがいたからやっていたということに気づいてしまうと心の中に寂しい風が吹く。だから僕は、客観的に見られる余裕はなかったですね」

画像9

17年のドラマ第1作「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」では、撮影後は当たり前のように居酒屋に集まってミーティング。いいアイデアが出るとその場でプロデューサーや演出家に連絡して脚本を修正することもあったという。

田口「おじさんたちの加齢臭がするような、たたずまいだけのドラマの方が面白いといったアイデアをたくさん出して、脚本もどんどんセリフを間引いてもらったりして、1、2ですごくいい戦いができたんです。だから3をやるとなった時に、僕にとっては続編ではないなと思った。新しいバイプレイヤーズという独立したものと考えて、そこでの我々の役割は次の人たちにバトンを渡すことなんだろうと納得してやりました」
 光石「バイプレイヤーズは漣さんありき、それがなくなったらもうあのバイプレイヤーズはできないという思いは皆にあったと思うんです。だから今回の映画はバトンを渡す映画だったかもしれないですね」

画像10

映画は濱田岳が監督し、主役は風、柄本時生役所広司が出演し菜々緒芳根京子高杉真宙がスタッフで参加する自主映画「月のない夜の銀河鉄道」の撮影がさまざまな騒動を巻き起こしていく。映画化は、大杉さんが強く望んでいたとされる。

松重「昔から映画を支えてきたメンバーが一つの作品でリーダーシップを取れるようになり、それが永遠に続くものとして残す一つの方法として映画化というものがあったと思うんです。大杉さんが生きていたら次の展開を考えていたかもしれないし、本当に大杉さんに委ねているところがあった。今回の映画に関しては若い人たちがメインで出ているので、その人たちが映画を支えていけば大杉さんにとってもいい弔いになる。僕らだけになってしまうと、どうしても面影を追ってしまいます。精神だけは誰か次の世代に託したぞというところがあればそれでいいと思います」
 光石「4人で集まると、漣さんのことになってしまうんです。今回は昔、Vシネマで漣さんと一緒だった人も、全然知らない若い人もいっぱい出ていて、現場ではその気持ちを緩和していただいたんです」
 遠藤「漣さんがいたらどういう形になったのかなと思うし、スタートを切る時に4人で会って『今回はどうする?』って話してからやってみても面白かったかもしれないですね。後の祭りなんだけれど」
 光石「そう思うけれど、一番イヤがっていたじゃない」

画像11

ドラマで登場する各局のドラマのメンバーも顔を出し、バイプレウッドの買収問題が持ち上がると天海祐希が率先して真相を探る。主役級も加わって、まさに役者たちの華やかな宴が繰り広げられる。本当に100人いるか、数えながら見るのも一興かもしれない。

田口「コロナ禍だから100人集められたと思っているんです。ほかにはないお祭り映画になっているので、いやされていただけたら」
 光石「多分、このメンバーが集まって映画を撮ることは二度とないと思うので、ぜひ楽しんでいただきたい」
 遠藤「普通の人がやると成立しないだろうというシーンも、達者な人たちばかりなので生きてくる。そこを楽しんでもらえればいいんじゃないかな」

画像12

ひとつの集大成ともいえる映画化。大杉さんが亡くなって3年、バイプレイヤーズはこの先、どこに向かうのだろうか。

松重「大杉漣さんがつくり上げた、バイプレイヤーと言われている人たちが実名をさらしながらリアリティとウソの入り混じった日常を淡々と描くというフォーマットが残ればいいと思うんです。30代や40代、女性版のバイプレイヤーズがあってもいい。韓国版、フランス版、中国版などが作られても面白いですね。ただその時に、僕たちは元祖の特権として1シーンだけ出していただく。このコンテンツでいかに遊んでいただくかということは大杉さん発祥ですから、僕らが見届け人として出させていただきます」
 光石「いいですね。元祖だから、ちょっと偉そうにできるようにしてもらって」
 田口「来たら面倒は見るけれど、来るまでは自腹ってなったら? そこは“呑(の)ミーティング”だね」
 光石「嫌がらないでよね」
 遠藤「1シーンならいいよ」

画像13

ここで再び全員が爆笑する。1人が発言すると、気兼ねなく合いの手を入れたりツッコんだり…。これぞ長年にわたりライバル、盟友として日本映画を支えてきた元祖だからこその空気感。4人は大杉さんの影を追い続けながらも、前に進んでいく。

遠藤「漣さんがいなくなってシリーズが成立するのかなって思っていたけれど、終わってみたら漣さんが敷いてくれたレールをこの先もずっと進み続けることが可能なのかなと感じました」
 田口「それぞれが『またどこかの現場で』と言って別れるので、そういう出会い、チャンスはきっとあると思います。ただ、皆もう伸びしろがないんで。この年代で健康っておかしいし、ある程度不健康でないといい芝居はできないんだから」
 光石「名言だなあ。なんとなく分かります」

自虐ですらポジティブに感じさせる、元祖バイプレイヤーズの矜持(きょうじ)が垣間見えた。

「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら」の作品トップへ