劇場公開日 2021年6月5日

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「あたりまえ‥。」戦火のランナー caduceusさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5あたりまえ‥。

2021年6月12日
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「あたりまえ」って、なんだろう?
今、「あたりまえ」だった、かつての世界が揺らいでいる。
今まで、「あたりまえ」だったものが、「あたりまえ」ではなくなっている。
グオルという青年には、オリンピック選手として、代表する国家がなかった。
正確に言えば、あったのだが、新しい国で、オリンピック委員会がないため、国を代表することができなかった。
この物語は、難民として逃れた青年が、苦難の末にメダルを取るといったサクセスストーリーではない。
常に特例としてオリンピックに出場し、完走することを目標とした、ひとりの青年の物語である。
合理的なトレーニングなくして、メダルが取れるほど、現代のスポーツ競技は甘くない。
オリンピックというものが、政治というものを避けることも難しい。
政治的な力学と、人々の欲望が渦巻き、お金がなければ、競技を続けることも出来ない。
貧しい国であれば、あるほど、お金をめぐる争いが起こってしまう。
彼は、オリンピックを目指す中で、完走することすら、できなかった。
しかし、彼は言う、「ここに来て、走れたことに感謝する」と。
私達の住む世界も、もう、なんとなく元の「あたりまえ」の世界に戻ることはないだろう。
グオルには、国家がなかった。それは我々と関係ない、まったく違った世界の話なのだろうか?
今まで「あたりまえ」だった、家庭や、会社や、国家が無くなる…。
そこにリアリティを感じない限り、それは「あたりまえ」ではなくなってしまうのかもしれない。
彼は「国のために走りたい」と言った。
「あたりまえ」ではないグオルを通して、考えざるを得ない自分がいた。
そう、すべては「あたりまえ」ではなく、「奇跡」かもしれないのだ。

caduceus