劇場公開日 2021年11月5日

  • 予告編を見る

「普通なボクたちの明日」ボクたちはみんな大人になれなかった 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0普通なボクたちの明日

2021年11月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

1995年、佐藤は文通募集欄に彼女(かおり)を見つけた。
オザケンを共通項に2人は逢瀬を重ねる。
円山町にある宇宙の壁紙のラブホテルは2人だけの世界だった。
1999年大晦日、ノストラダムスの大予言が外れた。
そして、翌日の2000年1月1日。
「今度CD持ってくるからね」
その言葉を最後に彼女との関係は終わる。
あれから20年。
平成が終わって、新型コロナウイルスにより街から人が消えた。
そんな時、彼は自分の人生を振り返る。
「本当、普通だったな」と。

『メメント』の如く時系列を遡る方式で、1995年から2020年までの25年間を振り返る。
結末は分かっている。ただ、主人公と振り返ることで時空を超えた一種の旅行をしているようだった。
1990年代。
私は全く世代ではないし、もっと言ってしまうと生まれてもいない。
それなのにどこか懐かしくて哀しくなるのは何故だろう。
戻りたいとさえ思ってしまうのは何故だろう。

普通を突き通した佐藤と普通を避けていたかおり。
変わるべきだったのだろうか。変われただろうか。
普通であること、大人になることとは一体何なのか。
街や世の中は25年で大きく成長した。
映画や音楽はサブスク全盛期、スマートフォンが普及して手紙や公衆電話は減少、どこでも誰でも繋がれる時代になった。
しかし、ボクたちは大人になれなかった。
いや、これからなのかもしれない。
一つ一つの出会いや別れ、選択や経験が今の自分を形成している。
それがプラスだろうとマイナスだろうと、未来は自分で切り開いていかなければならない。
死んだ彼、消えた彼女、成功した者も落ちぶれた者も今どうしているのだろう。
そんなボクたちみんなに想いを馳せ、何が起こるか分からない未来への希望と変わらない過去への哀愁を感じる。
今まさに大人になろうとしている自分への道標とも言える作品であった。

森山未來は音楽に乗せて成長を演じさせたら完璧だね。
伊藤沙莉も今まで見てきた中で1番可愛らしい役。
どの役者も本領発揮していて素晴らしかったが、特に胸に刺さったのが、妖艶さと儚さを体現したSUMIREと時代と周りに影響されながらも芯を通した篠原篤。
この2人からは強い変化を感じる。
時代を象徴する音楽も良きスパイス。
特に最重要であるオザケン。普段あまり聴かないけれど、たまに聴くと滅茶苦茶良い。
声に出したいセリフも多かった。
原作もそうだが、現代文学が読みたくなる。
久しぶりに優しい活字に触れてみようか。

色々考えてみてやっぱり思う。
この映画きてる。

唐揚げ