「実録風ヤクザ映画が一転、ノアールなファンタジー映画に、なってしもうた…」孤狼の血 LEVEL2 osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
実録風ヤクザ映画が一転、ノアールなファンタジー映画に、なってしもうた…
う〜ん。パート2モノの成功例など映画史上あまり無いのは、重々と承知の上(ゴッドファーザーとか例外もあるが)、あまり期待はせず観ようとは思いつつ…
しかし、やっぱり、期待せずにはいられなかった本作。
結論から言うと…
残念ながら期待していた内容から随分ハズレてしまった。
とにかく冒頭から役者の広島弁(呉弁?)が下手すぎ。
設定の都合上で方言を喋らされてます感が全開。
つまり全くリアリティがない。
と言うか、もう全編を通してリアリティが無さすぎて、フィクションを通り越してノアールなファンタジーになってしまった。特にラストシーンが象徴的だ。
いちいち挙げたらキリがないが、以下は本当に有り得ない。
❶いくら警察に牙を抜かれたとはいえ、広島抗争の当事者達が、あそこまで弱体化して、一匹の狂犬に振り回される?
❷上林が狼藉の限りを尽くしても、県警と裏で握っていたのであれば、懲罰牢での暴行のお礼参りは、ピアノ講師だけでなく、看守本人の休日も狙うのでは?
あの看守に対する直接の復讐は是が非でも実行すべきでは?
❸いくら信用してしまったとはいえ、疑っていた元公安のベテラン刑事の相棒に自分のキャリアが終わってしまうような秘密を全て話す?
❹地方の一介の刑事部の利益誘導の為、公安がタッグを組む?そんなバカな。
❺日岡が窓ガラスを割って、飛び降りたパトカーが、たまたまキーを付けたまま放置状態?マンガかよ。
❻やたらと目ん玉を潰し過ぎ。おそらく人物の設定上、子供の頃からの視線恐怖症(自分を蔑む他人の視線に耐えられずトラウマ化)が原因かと思われるが、であれば、チンタ殺害後の見せしめとしての目潰しは殆ど不要でヤリ過ぎでは?
❼下手すぎる西野七瀬の起用。大人の事情?
❽チンタの仇討ちで公安を轢き殺すが、裏で糸を引いていた管理官こそ殺すべきでは?滝藤賢一がいないと次回作で困るから?
特に❽は、出来れば警察側の悪党をもう一人二人増やして、ゴッドファーザーのラスト前のクライマックスのように立て続けに殺せば相当に盛り上がったはず。
今回、結局はファンタジーなんだから、それくらい思い切ったオマージュやってしまっても良かった。
滝藤は死んだと思わせといて、次回作では「実はシブトク生きてました」で別にいいし。
西野七瀬のミスキャストも酷かったが、中村梅雀も最初から胡散臭さ全開。
奥さん役が宮崎美子じゃ、もう「この後、皆さん騙しますよ〜」と言っているようなもんで、この二人の起用も失敗だった。
それにしても、監督と脚本が前回と同様だというのに、どうしてこんなことになってしまったのか?
おそらくは、これら全ての根本原因は、東映サイドからのヒット至上命令によるプレッシャーと焦り、そして「必ず前作を超えたい」「ヒットシリーズにして更なる続編も作りたい」という気負いが、ヘンな方向にドリフトしてしまった所為だと思う。
完全にエンタメ志向に振りきってしまい前作のように丁寧に人間悪を示唆するシーン(石橋蓮二が鰻重を食べるシーンとか)もなく、とにかく前作のヒットを利用して、シリーズ化に向けたドル箱のコンテンツを作ってしまうと、残念な事に、こういった作品(というか商品)になってしまう。
原作者の柚月さんも、前作は相当に気に入っていたようだが、今回は「???」な気分になったに違いない。
とはいえ、なんだかんだで最後まで観る事が出来たのは、
ノアール感&ドライブ感に溢れたカメラワークによる映像表現のキレの良さ、
そして、言わずもがなの鈴木亮平!
とにかくこの人は、もう出来るだけ早くハリウッドで勝負した方がいい。
ブラックレインでの松田優作以来の衝撃になるだろう。
最新の特殊技術の作り物と思っていたアノ尖った耳も、実際には生まれつきのようで、神様からのギフトとしか思えない。
しかし、それにしても上林の最期、拳銃で撃たれまくるのはいいが、片目だけでなく両目を撃ち抜くべきだったはずだ。このシーンは、やっぱり、因果応報でカットしなきゃ絶対ダメだ。
そして、村上虹郎の演技も良かったが、やはり彼らのように、才能をフルに発揮して全身で表現している役者達は本当に最高だ。
そういった意味では、脇には良い役者達が何人もいたのに出番も少なく、本当にもったいなかった。
ヤクザの色気をビシバシ発散させていた斎藤工だって、もっと色々と出来たはずだ。
最後の狼探し(外国産ウルフにしか見えんぞ)、それに上林の少年時代のシーン(父親役もミスキャストで上林の人生を決定づける強烈な存在感のはずが殺したくなるほどのクズ感はゼロ)などの尺は全く不要だったので、その分もっと組員連中の人間ドラマを見せて欲しかった。
結局は、上林の凶暴ぶりをフィーチャーし過ぎて、ヤクザ映画というより、死に場所を求め暴走してしまった悲しい狂気の男に振り回されるバイオレンス映画になってしまった。
白石監督自身も「今回は、ヤクザ映画というよりは、ゴジラ映画」と言っていたらしいが、それならそれで、その怪獣を狡猾に利用する悪党として、県警サイドの滝藤賢一だけでなく、身内の側の親分の吉田鋼太郎が、それこそ胸糞悪い汚い奸計を巡らせ存在感を発揮させないと、この映画らしくならない。
そういう身も蓋もない「汚い」プロットが、このシリーズには一番重要なのは、監督自身が一番わかってるはずなのに、
ゴジラの悲しみに満ちた凶暴性も、そういう「汚い」プロットの中にあってこそ破壊力が際立つ事も良く知っているはずなのに、つくづく本当にもったいない。
海千山千のヤクザの親分が目の前の流血を見ただけで引くなんて、観てるコッチが引いてしまう。
しかし、それにしても、この映画、公開直前から、どのメディアも「推し」って感じだったが、業界向けの試写会の時点などで、ちゃんと辛口で批評してくれるサイトとか、ないもんだろうか?
もう既に3作目の製作も決まったようだが(次回は、おそらく江口洋介の復讐劇か?)ぜひ原点回帰に戻って、また実録なリアルで振り切って欲しい。
現場でのハラスメントの撲滅など働き方改革を含めて、日本映画をアップデートしようとしている白石監督には期待しているので、ぜひ本来の才能を出し切って期待を超える作品を、次回こそは本当にブッ放っして欲しい。