「凶狼の眼、孤狼の闘い」孤狼の血 LEVEL2 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
凶狼の眼、孤狼の闘い
待望の『孤狼の血』続編!
とにかく前作が、漢たちが魅せ、こんな映画が見たかった!と心底思わせ、その年のBEST級のみならず、日本映画久々に気合いの入った傑作力作であった。
となってくると、続編への期待も否応なしに高まる。
往年の数々のヤクザ映画がそうであったように、製作側の早くからの決定や観客の期待も含め、続編は必然だったのだ。
昭和の終わりの広島・呉原で激しい抗争を繰り広げた五十子会と尾谷組も、五十子会会長暗殺と双方の手打ちにより、事実上の終止符となった。
それを裏で仕切った刑事が居た。
日岡。
本作での日岡の変貌ぶりには、びっくりどっきりク○ト○ス!
3年前は、県警の内通=子犬としてやって来た、へなちょこ新人。一応エリートで、“広大”なんて呼ばれる始末…。
それが本作ではどうだろう。
真っ白から、グレーへ。
やさぐれ感や哀愁漂い始めた、ワイルドな漢に。
前作ではラストカットで初めて吸った煙草を初登場シーンからずっと、何度も何度も。そしてそれを点けるのは、あのライター。
亡き大上に代わり、暴力団と警察の双方を渡り、彼は彼のやり方で呉原の治安を守っていた。
が…
刑務所から一人のヤクザが出所。
その足で、“お世話”になった看守へある“恩返し”。
五十子会会長を慕っていた上林。
しかしこの男、ただのヤクザではない。
極悪、非道、冷血、凶悪、狂悪、狂気、狂犬、狂狼…思い付く言葉をどんなに並べたっていい。
まさか邦画で、ジョーカー並みの悪のカリスマ/ヴィランにお目に掛かれるとは…!
親分の仇を討つ為に、爆進する上林。その為なら邪魔な奴ら、保身や弱体化した五十子会の二代目や幹部でさえぶち殺し、ぶち壊していく。
上林の出現で、日岡が守ってきた治安は脆くも崩壊。新たな抗争の火蓋が切られる。
さらに、あるリークで日岡が五十子会会長の事件に関与していた事を知り、二人の闘いも避けられぬ運命に…。
前作は柚月裕子の小説を基にしていたが、今回は映画オリジナル・ストーリー。
その為少なからず否意見(前作の方が良かった、役所広司不在点など)も見受けられるが、個人的には何の何の!
作品的に掛けて言うなら、大上の意志を日岡を継いだように、今回も見応えたっぷり熱く魅せてくれた!
前作はベテランマル暴刑事と組んだ新人刑事がヤクザと闘う中で、成長し漢になっていく、THE王道な話であったが、今回はもっと王道も王道。
前作以上にさらに直球の、刑事vsヤクザ。
それを本当に言葉通り体現した、松坂桃李vs鈴木亮平!
松坂桃李のプレッシャーは相当なものだったろう。役所広司から主役を受け継ぎ、この作品を背負って立つ。存在感不足など断じてしてない。彼ならではの魅力の熱演。本当に素敵な役者になった。
そして、鈴木亮平。
前述もしたが、マジスゲェ…。あの強烈さ、迫力、インパクト…観た後暫く頭から離れないだろう。
『変態仮面』『俺物語!!』『ひとよ』と本当に同一役者ですか? 鈴木亮平の役の振り幅に驚かされる。
実力派でありながら、ほとんど映画賞とは無縁だったが、今回は総ナメだろう。『燃えよ剣』もあるし。私が映画賞に投票出来る立場だったら、ダントツ助演男優賞!
『孤狼の血』はアンサンブル劇でもある。
日岡の“S”、チンタが旨味のある役所でハラハラもさせ、若手実力派・村上虹郎が巧い。
その姉・真緒役で、西野七瀬が華を添える。
音尾琢真、滝藤賢一、中村獅童らは続投。
吉田剛太郎、寺島進、宇梶剛士ら“リアルヤクザ”。(←失礼!) さらには、“極妻”も!
そんな中、この世界観に似つかわしくない異色のキャスティングが、中村梅雀。日岡と組む定年間近の県警の警部補。2時間TVドラマで演じた当たり役の柔和な刑事役を彷彿させるけど、実は…。
前作以降も『止められるか、俺たちを』『凪待ち』『ひとよ』など高クオリティーの作品を手掛けてきた白石監督だが、やはりこの世界への“シャバ帰り”を待っていた!
死と隣り合わせで闘う漢たちの姿や生きざまを、熱く、荒々しく、ギラギラと活写。
痛々しいバイオレンス描写も容赦なく。
アクション・シーンやバトルシーンは前作増し。
特にクライマックスの日岡と上林の、カーアクションから肉弾戦の、血みどろの壮絶対決は圧巻…!
日本映画もやれば出来るじゃないか。
いや、それは白石監督の賜物か。
闘い切った両名にも拍手と労い。
上林の殺し方は異常。人のやり方ではない。
相手の眼をえぐり取る。
どうしたらこんな鬼畜の所業が出来るのか。
どうしたらこんな悪魔のような男が産まれたのか。
それは容易には想像出来る。
人の性格は、生まれや環境が形成する場合が多いという。
極貧、ごくつぶしの父親からの暴力、見て見ぬふりの母親…。
自分が死ぬ前に…。
「何見てんだ?」と、幼い頃、父親から。
「そんな眼で俺を見るな!」と、相手を殺す時、上林は狂ったように。
“眼”に対して異様な執着がある上林。
…と言うより、相手に“見られる”という事に何かしらの恐れがあるのではなかろうか。
だから、相手の眼を潰す。
鬼畜の所業、悪魔のような男の中に、一辺の人としての弱さや恐れを見た。
本作での日岡はボロボロ。
殴り蹴られは当たり前。
高い所からの落下、カークラッシュ、刃物や銃での負傷も一度や二度ではない。
って言うか、普通死ぬぞ…。
しかし、凄まじいまでの体力、精神力、時には知力を駆使して闘う。
ヤクザと、それ以外。
3年前の秘密を握り、窮地に追い込もうとするマスコミ。
それから、言うまでもない。ヤクザ以上の難敵と言って過言でもない、警察上層部。ネタバレになるので詳しくは言えないが、今回は自分が“してやられる”。
記者の高坂の怒号が辛辣。大上とアンタの正義は似て非なるもの。アンタの方が質が悪い。
では、誰が闘えばいいのだ? 一人の悪が野放しになっているこの呉原で。
騒ぎ立てるマスコミと、真意に欠けたその情報をただ聞いた我々はネット上で得意の誹謗中傷するだろう。
ヤクザと染まった悪徳刑事も居る。
が、日夜闘い続ける刑事たちの方こそ多い。
闘っても、通常の正義が通用しない“バケモノ”も時には現れる。
モラルの崩壊、何が正義か、善悪の境…。
言うなら言え。叩くなら叩け。
己の信ずる正義で闘い続ける。守ると受け継いだのだから。
狼となれ。
ラストエピソードがまた印象的。
ある地方に異動になった日岡の前に現れた“狼”。
本物か、幻か。
私の解釈は、あの狼は“あの人”。
今回の日岡の闘いぶりを、「よくやった。褒めちゃるけ」と労う為にーーー。
これにて今年の夏映画は終了。
今年の夏は、昨年観れなかった洋画大作をたっぷり堪能。
しかしそれらを抑え、今夏一番!…どころか、『ヤクザと家族』と並んで本年度のBEST級候補!
正直ヤクザ映画は不得意ジャンルだが、でも見始めると不思議としびれる。
今回はオリジナル・ストーリーだったが、柚月女史の原作は全3作。
となると、またまた期待してしまう。
だって、ラストの日岡の狼眼は死んではいないのだから。
いえいえ、近大さんの解釈素晴らしいです。映画の最後に動物出してくれるなよ症候群が私にはあります。FOUJITAという映画の最後に狐が。だから狐狼の血の最後の動物さん、どうしたらよかんべーと思ってたので近大さんのレビューで救われました。ありがとうございます。